秘密公開、その二
使用人の女性に茶をもらって、俺達は一息入れていた。
バルコニーからの眺めにラミアは目を見張っている。
「何と言う高さ、何と言う大きさ。
これがブレードランドの、メルベンの城塞・・・。
果たしてオートランにこれだけのものがあるのだろうか。」
「多分ありますよ。
文明的にはオートランの方が進んでいるはずですから。
首都や前線辺りまで行けば、案外このくらいのものが二つも三つも建ってるかもしれませんよ。」
「そうなのだろうか。」
そうだと思うけどね。
いつかは行こうと思ってるし、一緒に見れるさ。
さて、男二人は?
ああ、立ったままだ。
画面の前で、どうしてんのかね。
「さて、それじゃ次に進みますか。
お二人、大丈夫です?」
「どちらかと言えば駄目だが、私達で説明を求めたのだ。
行かせてもらう。」
「こっちもまあ、何とか。」
「それは結構。
ては、行きますよ。」
ゲートを開く。
その先はレンブルだ。
町から少し離れた、人の来ない場所に出る。
そして、東の入口まで歩いた。
「さあ、行きましょうか。」
そこはブレードランドとオートランの国境。
ゲームと、ゲームでない部分の境界。
画面の外にいる者達と、この世界に生きる者達をはっきりと分ける壁だ。
俺とリア、ラミアはそこを通り抜け、オートラン側に立つ。
クロノとケイリンは足を止め、そこで立ち往生した。
「何故そちらに行けるのだ?」
「壁があるだろ?
見えない壁があるはずだろ!」
「私達にはそんなもの、ありませんよ。
こっちの世界の人間には、ね。」
場所は変わって、冒険者の訪れないリラの村へとやって来ていた。
その砂浜で、海を眺めた。
「検索して出るかはわかりませんが、私はそちらで、少し前に死んだ人間です。
死んだからこちらへ来たのか、こちらへ来たから死んだのか。
未だに判明していませんが、少なくとも私はここで生きてます。
リアさんは、私に関わった事でBLOの枷から外れました。
クエストNPCではなく、一人の冒険者になったんです。
ラミアさんも、近い将来その扱いになるでしょう。
レンブルから東に行ったところにある町、ホランで出会いました。
BLOにオートランが実装される時には、きっと違う人物になっていると思いますが。」
リアと、特にラミアには、ここでしっかり話しておかなくてはならない。
リアは居場所を失ったが、道は自分の意思で定めた。
だがラミアは、まだ手遅れではない。
「ラミアさん。
今帰れば、まだ間に合うでしょう。
別の誰かになり代わられる前に戻れば、あなたは黒蛇の首領でいられます。
けれどBLOがオートランにまで広がる時には、手遅れとなります。」
「そのBLOと言うものが、私から居場所を奪うと言うのだな。
そしてそれは、個人の力では抗えない程に強大な存在だと・・・。」
ううむ、説明が難し過ぎる。
概ね間違ってないし、それで良いか。
「だいたい合ってます。
その認識で問題は無いです。」
クロノとケイリンがじと目で見ている。
お二人さんよ、何だその目は。
他に言いようも無いだろ?
「まあ、良い。
強くなると言うのも目的の一つだが、私はあなたと行くと決めたのだ。
だから、何も問題は無い。」
「ほう、これはこれは・・・。」
「なるほど。
もてているな、フーヤ殿。」
不本意、とは言わないけどさ。
気苦労多いよ?
ラミアの言葉は嬉しいけどね。
リアはにこにこ見ていた。
あまり嫉妬しない性質?
器でかいな。
「それじゃ、隠してるもの開示しますよ。
勝手に見て下さい。」
ラミアとクロノ、ケイリンに情報閲覧の許可を与える。
リアやユーニ、アナトにはもう許可は出している。
気付いているかは、知らん。
さあ見るが良い、この清々しいまでの能力を!
ついでにインベントリから護符も出しておく。
もう何も出ないよ!
「こいつは・・・すごいもんだな。」
「一体何処でこんなアイテムを?」
「ローグリアスとバルバレスとビフラスですね。
全部、魔王らしいですよ。」
「ローグリアス!
ではあの時の・・・。」
「だが、動きはローグリアス戦の時点ですごかったろ。
あれは?」
「必死に戦いました。」
「は?」
「必死に、戦ったんですよ。
死にたくなかったですから。」
「マジ、か・・・。
そうか、そっちで生きてるって事は、死ねないのか・・・。
何と言うか、頑張ってここまで強くなったんだな。
疑って済まんかった。」
「人柄は知っていたからな。
不正を利用しているにしても、何か理由があるのだとは考えていた。
しかし命の危険とは、さすがに想定外だったな。
明かしてくれてありがとう。
絶対に口外しないと誓おう。」
良い機会だったので、聞きたかった事を聞いた。
「ローグリアスが使っていた波動と反射の魔法、名前知りませんか?」
「俺はよく見てなかったんだよな。
クロノ、覚えてるか?」
「散々戦っていたからな。
波動はブラック・ウェイブ。
反射の方はマジェスティだったな。
名前から判断出来なかったから困ったが、あの時は本当に助かった。」
ブラック・ウェイブは既に覚えている。
ネラバと規模が違ったんで別の魔法だと思っていたが、同じものだったのか。
魔力の差か?
ちなみに、第二階位の闇属性魔術だ。
そして、マジェスティ。
受けた物理ダメージを相手に返す、と言う効果だと思うが、どの程度なんだろう。
全部じゃないのは、自分の身でもって知っている。
いつか使えるようになれれば、とは思うものの、使う機会があるのか、微妙なところだ。
基本的にダメージ受けない戦い方を心がけてるからなあ。
クロノとケイリンは、さすがに時間となったのか帰って行った。
フレンド登録は、俺とだけ済ませた。
女の子二人には気が引けたのかね。
しかし、何とか信じてもらえたようで安心した。
どっと疲れが出てしまったぜ。
「今夜はラミアさんのところに行っても良いですか?」
他二つにはさっき行ったところだったし、最上階の他に誰もいないと言う事が、俺は気に入っていた。
やっぱり使用人が近くにいるのは慣れないよ。
今はゆっくり休みたい。
「もちろん構わない。
私がたっぷりと、もてなそう。」
「普通にしててもらえます?」
ゲートを開いて、ラミアの部屋に入った。
そこには誰もいない。
早速失礼して、ソファに腰を下ろす。
それからユーニにメールを送った。
ラミア絡みの話や、クロノとケイリンについて書いてある。
「軽く何か食べようと思うのだが、この部屋に持って来させようか?」
ラミアが食事を手配してくれるそうだ。
確かに下りるのも疲れるし、持って来てくれるならありがたいな。
そう思って、頼んだ。
「わかった。
手配しよう。」
ラミアは階段を下りて行った。
見送っていると、リアがこちらを見ているのに気付いた。
目が合う。
「お師匠様、疲れてます?」
「まあ、そうですね。
魔王と戦った後程ではありませんが、疲れてはいますね。
多分、ゲートを開き過ぎたんですよ。
こんなに何回も連続で使うような事、これまでありませんでしたし。
それに直前にケイリンさんと一戦交えてましたしね。」
これだけの事をしていれば、疲労も溜まるよね。
おかげで今日は、これ以上何もしたくない。
このまま寝てしまいたいが、それはさすがにだらしないか?
「それなら解しますよ。
こっちに来て下さい。」
ほう、マッサージしてくれると?
確かに肩とか背中とかやってくれると嬉しいかな。
好意に甘えてみようか。
「それじゃ、遠慮無く。
程々で良いですからね。」
「はい!」
気合い入ってるね。
気張らなくて良いんだけどな。
腰帯を外してローブを脱ぐ。
下には身体にぴったりとした白のシャツと黒のズボンを着用している
細さが浮き彫りになるが、骨と皮みたいな事には冒険者として生活している以上なり得ないので、まあそれなりだ。
言われるまま寝台でうつ伏せになると、早速背中からマッサージが始まった。
案外上手だな。
細かいところは指を使うんだが、基本的には手の平で、主に底の部分を使って拡げて行く感じで解してくれる。
リアらしい優しい触れ方がすごく暖かくて、ふわふわと眠気を・・・。
「お師匠様、細く見えるのに意外と筋肉付いてますね。
薄いですけど締まってて・・・。」
おや?リアさんの様子が・・・。
あなた、筋肉好きでしたっけね。
そうは言っててもしっかり解してくれてる。
気に入ってもらえたなら嬉しいし、それで良いか。
それから肩や腕へと移って行く。
「マッサージか。
フーヤ殿、だらしない顔になっているぞ?」
「そ、そんな事はありません!」
ラミアが戻ったようだ。
おっさんをからかうのも大概にしておいていただきたい。
「もう少ししたら、持って来るだろう。
私は先に、一杯やらせてもらうぞ。」
そう言って飲み始めてしまった。
ラミアも酒、好きなんかね。
酒瓶とグラス片手に寝台へと腰かけてきた。
形良く潰れたお尻が目の前に・・・。
見ないでおこう。
リアの手は腰から尻に行こうとしている。
「ああ、腰までで良いです、腰までで。」
「そうですか?」
するとリアは俺に上体を起き上がらせた。
そして整体みたいなストレッチをさせる。
強くはないけどね。
ただな、わざと当ててるだろ?
ぴったりくっついて来て捻ったり広げたりさせている。
でも顔色赤くなってないね。
懸命にやってくれてるだけか。
良い子だなあ・・・。
おっさんが汚れてただけだね、済まん。
食事を終えて二人が湯を浴びている間に、ユーニからメールが帰って来た。
「オートランの人?楽しみ!
クロノさんにケイリンさんの事、了解。
先生にも話しとくね。
夏休みに入ったら、先生の都合に合わせて遊びに行くよ。
その時はそっちでの何日か、いられると思うから。
一緒に遊ぼうね!」
こっちに来るのは良いとして、だ。
どんな生活を送るつもりだ。
大丈夫だとは思うけどね。




