トルドナ古戦場にて
ステータスも確認出来るのではなかろうか。
星を眺めながら、何となく思った。
インベントリを知る事は出来たのだ。
もしかしたら、と試してみた。
名前フーヤ
レベル三二
職業強化術師
種族人間男性
筋力十三・体力十二
知力十五・精神十五
敏捷十五・器用十五
魔力二〇
武技
剣三・格闘三・防御三
戦術
平地三・森林三・山岳三・水上三
探索
野外三・屋内三・盗族三
魔法
魔術四・治療三
インベントリと同様に、脳内に直接伝わってきた。
概ね記憶に残っている通りなのだが。
こう、数字が並んでしまうと、さらに現実味が無くなっていくな・・・。
筋力から魔力までは、キャラクターのいわゆる能力値だ。
平均は十から十二と言われている。
俺の能力値が軒並み平均より高いのは、レベルよりも能力値に経験を振ったからだ。
俺は、基本的には一人で行動している。
普通のプレイヤーだったら、仲間を募って複数人で狩りをして、レベルを上げてしまった方が色々捗るはずだ。
レベル四〇になればダブルクラスとして、新しい職業を一つ追加する事も出来る。
けれど俺は、一人で自由に行動する事を選んだ。
ただしそれには、個人で高い戦闘能力を保持しなければならない。
だから俺は、能力値とスキルを重点的に成長させる手法を選んだ。
武技から魔法はスキルの熟練度を表している。
最大は六で、レベル六〇が条件らしい。
熟練度が高ければ高い程、武技系統であればダメージが高くなったりするし、探索系統ならば成功率が上がる。
魔法系統は効果も上がるが、修得出来る魔法のレベルに関わっている。
俺の魔術ならば、第四階位の魔術まで覚える事が出来る。
それから、俺はまだ修得していないのだが、生産系統のスキルも存在している。
ただそちらは、あまりに玄人向けになるので、その内に、気が向いたら、などと考えている。
露店で買える内は、触らないかもしれないな。
他のゲームであまり見ないのが、戦術のスキルだ。
対応する地形にいる際に、様々なボーナスを得られる。
それは能力値の上昇だったり、入手経験値が増えたりなどだが、実のところあまり多くはない。
しかし、強化術師にとっては恩恵があった。
基本の能力値上昇が魔力にも当然かかる。
その上で強化魔術が戦術的な戦い方だと言う考え方なのか、同じだけのボーナスがあるのだ。
相乗効果で、かなり効果が上乗せされる。
今の俺の強化魔術は、ちょっと面白い事になっているはずなのだ。
ちなみに、戦術スキルがボーナスを与えるスキルは他にもあるが、基本的に直接火力に結びつかないものばかりであまり期待されない。
状態異常とか罠とかだ。
BLOの中に入ってしまったとて、俺のやる事に変わりは無い。
今日はここ最近利用するようになった適正レベルの狩場、トルドナ古戦場へと向かう。
城下街ヒルトから東側、ルドリア地方へと出て北に向かうと辿り着く。
俗にアンデッドと呼ばれる魔物が溢れる場所で、レベル三〇から三五くらいまでの冒険者にちょうど良い程度の狩場だ。
ただ、もちろんそれはパーティーを組んでの話。
一人で戦うなら最低でも四〇は欲しい。
レベルだけで考えるならば、だが。
「ストレングス!
モビリティ!
マジックアーマー!
マジックサークル!」
他と同様第二階位の魔術により魔法防御力も追加した、四点強化魔術をかける。
魔法攻撃を行う魔物に絡まれないとも限らない場所なんでね。
そして、手当たり次第に狩るつもりで気合いを入れる。
「よし、行くか!」
しかしつい剣を引き抜こうとしてしまい、持ってない事を思い出す。
格闘のスキルも修得しているのだし、まあ大丈夫だろう。
手近な一体を標的とした。
スケルトン・ウォリアー。
古戦場において最も多い、あまり強くない魔物だ。
過去画面越しに、通算で二十体程倒した経験はあるのだが、いざ目の前にしてみると、あまりのおぞましさに吐き気を催した。
「骨だ・・・。
骨が動いてらっしゃる・・・。」
当たり前なのだが。
ぼろぼろの軽鎧を身に纏い、穴の開いた丸盾と錆の浮いた剣を持ってにじり寄って来る。
腐った肉をこびりつかせた、リアルな造形の骨が。
ホラー映画も真っ青な状況だった。
「接近戦、したくないな・・・。」
入れた気合いも何処へやら。
堪らず攻撃魔法を放った。
「ファイア・アロー!」
第一階位の、最も基本的な攻撃魔術だ。
スケルトン・ウォリアーは盾で受けるが、そこから燃える。
構わず走り始めたので、仕方なく格闘で応戦の構えを取った。
「うわあ、近付いて来たよ。
どうする、どうしよう。
ああ、気持ち悪いな・・・。」
狩場を間違えたかもしれない。
だがもう、戦うしかない。
覚悟を決めて踊りかかる。
拳や蹴りの扱いは、やはり身体が知っていた。
一応格闘のスキルも、剣と同じに三を持っている。
防御のスキルも三で持っているおかげで、スケルトン・ウォリアーの攻撃も難無く回避や流す事で捌ける。
立て続けに打ち込んで行き、左手から魔法を撃ち出した。
「エア・バレット!」
これも第一階位だ。
風の弾丸が骨を砕き、吹き飛ばす。
それがとどめとなり、スケルトン・ウォリアーは動きを止めた。
案外戦えている。
しばらくこのままで戦ってみよう。
本当は触るのも嫌だが、先日の血塗れを思い出せば・・・、やっぱり嫌なものは嫌だな。
それからもアンデッド相手に、強化魔術の恩恵を受けながら戦い続ける。
そうしていれば、当然魔法力が心許なくなってくる。
休憩するか薬を使うかして、回復させなければ。
俺は休憩を選んだ。
薬も無料ではない。
緊急用に取っておきたかったのだ。
座り込んで一息入れる。
街からそう離れた立地でもないので、俺と同じような冒険者は多い。
三人から五人くらいでパーティーを組んで戦っている姿が、見える範囲でも三つはあった。
注視して見れば、だいたい俺と同じ程度のレベルだとわかる。
彼らこそが、模範的な冒険者だと言えよう。
ちと、肩身が狭いな。
BLOに入ってまだ間もないが、わかった事がある。
現実と同じように、腹は減るし眠くもなるらしい。
そんなわけで、インベントリから食料を取り出す。
固めのパンに野菜と燻製肉を挟んだサンドイッチと水だ。
パンは固いばかりの味気無いものだが、燻製肉がなかなか美味い。
古戦場なのでピクニック気分は出ないが、今度何処かへ遊びに行くのも楽しいかもしれない。
俺が一人で行ける範囲で景色が良いのは南方の、初心者エリアになるか。
ゲームを始めて最初のエリアだからか、風光明媚な場所が多い。
知り合いでも誘えたら、と思わないでもないのだが、この状況で面と向かって会う気には、まだなれなかった。
ちなみにこの食料を買う際にNPCと接触したわけだが、普通に会話が成り立った。
燻製肉は何の肉を使っているだとか、合う飲み物はどれそれだとか、本当に普通の人に見えた。
可愛いお嬢さんなNPCだったものだから、ちょっと楽しかった。
水をしまうのにインベントリを開くが、また中身が増えていた。
単に敵の落としたドロップアイテムが放り込まれていただけなのだが、画面越しに遊んでいた時は文字情報がログとして表示されていたので、それを確認出来ない今は少々驚かされる。
改めて眺めてみると、概ね素材アイテムだった。
ただ、一つだけ装備を落としてくれたらしく、これは嬉しかった。
その装備アイテムは未鑑定の剣となっていた。
時折こう言ったアイテムを落とす事があり、ちょっとした追加効果が期待出来た。
ちょうど剣を失ったところだったので、これは運が向いていたと見える。
すぐにでも帰って鑑定した方が、効率良く狩れるかもしれない。
立ち上がって尻を払った俺は、一路街への道を走った。
鑑定は、冒険者ギルドで行っている。
依頼の受注や素材アイテムの換金、職業の説明やダブルクラスの取得などなど、冒険者ギルドの役割は多い。
早速鑑定窓口に向かうと、折良く一人も並んでいなかった。
「いらっしゃいませ!」
金色の長い髪を後頭部でまとめた、緑の瞳の綺麗な女性が担当していた。
早速剣を渡す。
「鑑定料は銅貨百枚です。」
地味に面倒臭い。
インベントリから百枚の銅貨を十枚ずつ重ねて渡した。
「お客様、変わった事しますね。
手品ですか?」
「ええ、そうなんですよ。
ちょっと面白かったでしょう?」
いかん!
これ、標準装備じゃないのかよ!
あまりにも意外な事で困惑する。
他の冒険者達はどうしてるんだ?
後で見て、確認しておこう。
受付の女性は愛想良く笑って、誤魔化されてくれた。
しかしこうなると、偽装の鞄が必要だろうか。
インベントリの優位性が一つ失われてしまう・・・。
「では預かりますね。
小一時間程お時間いただきますが、どうされますか?」
「それならそこの長椅子にでも座って待ってますよ。」
「わかりました。
終わったらそちらへお持ちしますね。」
よろしく、と頼んでおいて、長椅子に腰を下ろした。
色々と想定に無い事があるな。
油断せずに気をつけておかないと。
少し眠ってしまったようだ。
先程の女性が笑顔で起こしてくれた。
礼を言って、居住いを正す。
「お待たせしました。
こちらが、お客様の依頼の品です。」
そう言って手渡されたのは細身の剣だった。
「レイピアですね。
鋭さを強化する魔力が確認されました。」
なかなかの逸品だったようだ。
受け取って、早速腰に下げた。
魔力持ちの装備は初めてなので、かなり嬉しい。
またレイピアなら、分類的には刺突剣だが、斬っても使えるはず。
良い拾い物を得た。
女性に感謝して、冒険者ギルドを後にした。
そして足早に、古戦場へと向かう。
試し斬りしたくて、仕方なかったのだ。