ストーリー
「概ねその通りだけど、どうしてわかったの?」
「魔王殺し、ですから。」
「ああ、全部あなたが殺したのね。
納得。」
翌日早速聞いてみると、そんな返事をもらえた。
ただ、細かい部分はやはり彼女も知らなかった。
推測には同意してくれたが。
「喧嘩っ早くてね。
口よりも先に手が出るって言うじゃない。
まさにそんな男だったわ。
だから口実さえあれば、出て来たでしょうね。
ただそんな奴だけど、度量が大きくてね。
配下には慕われてたわ。
細かい事は気にしないし、楽しい事や面白い事が好きで。
まあ、それで困らせる事は多かったらしいけど。
私もそんなとこに助けられてたわね。」
何か、案外惜しい奴だったんじゃ・・・?
攻め込んで来たから、倒すしか無かったけどね。
スールについては、あまり知らないようだった。
印象は良くないらしい。
「いつも裏からものを動かそうとするのよね。
配下の影使い達に命じてね。
それで自分はいつも奥に籠ってるの。
何もしないってわけじゃなかったみたい。
手を回して、動かして、暗躍する。
そういう美学でも抱えてたんじゃない?
私達シキ配下の間では、印象悪かったわ。」
こんなとこにいたわりには、案外詳しいテイル。
仲の良い魔物同士では、連絡は取ってたんだったりして。
ヤムの動きについては、やはり知らなかった。
心当たりも無く、これについては情報は全く得られなかった。
この辺りの話を御使いから聞けないかな、と思って徐福に囁くも不在だった。
レナも同じくだ。
そうなると、それぞれGMのアカウントで来ているのかもしれない。
それならば、ケイリンに聞けばわかるか。
「リナか?
ええと、来てるな。
声かけるか?」
「下手なログが残ると悪いでしょうし、私が気にかけていた、とだけ伝えてもらえれば。
それくらいなら大丈夫だと思いますので。」
「わかった、伝えとくぜ。」
「ありがとうございます。」
レナは、日が傾き始めた頃に声をかけてきた。
(や。
どうしたの?)
(お仕事、お疲れ様でした。
聞きたい事が出来ましてね。
今、ヒルトですか?)
(うん、そう。)
(では、いつも通り屋敷で構いませんか?)
(わかった、向かうね。)
と言った会話を交わし、俺は一人屋敷へと帰った。
皆はメルベンの城塞に泊まっている。
ラミアがラーハルやヘレナと会議してくれており、一人残して帰るのも嫌なのだと言う。
アーシスとアクアも残してあるので、何かあれば対応するだろう。
屋敷には、今日はアナトが仕事を持ち込んでいた。
自室でしっかり取り組んでいるそうだ。
ニルの茶で寛ぎながら待っていると、ナファの案内でレナが屋敷までやって来た。
「わざわざ来ていただいて、ありがとうございます。」
「良いって。
ソファ、借りるね。」
二人で対面に座る。
「もう少ししたら、徐福も来るって。」
「おや、そうですか。
ではゆっくり待ちましょうか。」
ニルはレナにも茶を出してくれる。
彼らが飲めないのはわかっているのだが、人がいるのに何も出さないのは礼儀に反する、と言う事だそうな。
そんなニルの事をレナ達も理解してくれているので、そう聞いて以降気にせずにそういうものだと受け取っている。
たわい無い話をしながら待つ事しばし。
再びナファの案内で、徐福が姿を見せた。
「やあ、待たせたね。
レナ、隣失礼するよ。」
「ん。」
徐福の前にも茶が置かれたところで、いよいよ本題に入る。
「ストーリークエストを進めていたんです。」
「ふむ。
まず、それが進められている事に驚くけど、置いとこうか。
続けて。」
あら、そうなの?
それも意外な言葉だな。
「ヤム、について聞いても?」
「地の魔王、スールの配下だね。
BLO的に言えば、シャドウ・ストーカーのNMか。」
「BLO的に?」
「影使いの五本指、ヤム。
それが彼の本来の呼び名だよ。
今も何処かで、暗躍しているのだろう・・・いや、まさか?」
「ええ、倒しましたよ。」
「何と言うか・・・。
さすがとしか言えないな、最早。
五本指には、これまで幾度と無く煮え湯を飲まされて来た。
ブレードランドの王族も、結局守れなかったしね。
君は知っているのかもしれないな。
レイデリア本人から聞いてるかい?」
一人生き残った話だな。
あれも酷な話だよなあ。
「ええ。
偶然、生き残れたと。」
「ああ。
可哀想な事をした。
あの時、私はここに来たんだ。
一人として、守れなかった・・・。
とても無念だったよ。」
その頃は当然まだBLOは無く、ラーハルは遠くオートラン。
何より戦えるような年齢ではない。
情報を得て急遽向かったが影使い達は迅速だった。
御使い達が人の姿を取って降臨した時には、ほぼ全てが終わっていた。
城内は血の海で、召使いなどの非戦闘員が何人か生き残っているのみだったと話す。
この血と王座を絶やしてはならないと、御使い達はレイデリアを王に据えた。
幼い少女の身には酷な事だと誰もが考えたが、遠征より帰還したノラン・ポルトリガスが責任持って支えると誓ってくれた。
以降は少しの支援を行い、御使い達はこの地を去った。
その告白に、俺はしばし考える。
キャラクターだから表情はわからない。
だけど、その心情は想像するにあまりあるものだ。
無念さが募っただろう。
「仇は討ちましたよ。
五本指も、スールも。」
「そうか・・・、そうか!
ありがとう、フーヤ・・・!」
徐福の握手に応じる。
何年越しだったかなどと聞き出そうとは思わない。
しかしそれで、やっと一段落だ。
命は帰らないし無念は晴れない。
けれど、終わりを迎える事は出来るはず。
「良かったね、徐福。」
「ああ、そうだな。
やっと・・・。
ああ、済まない。
湿っぽくなってしまったね。」
「良いんですよ、そんなの。」
「それじゃ、続けようか。
先を聞かせてくれ。」
もう良いのかい?
何か急かすようで悪いね。
「ヤムとは、古代メナリス遺跡で戦いました。
結界を破壊して逃げたヤムを追って、その先で。」
「そんな!
一体何故・・・いや、それよりもどうやって結界を?」
「専用、とも受け取れるような効果の付加された武器を持っていました。
・・・これです。」
貫通のバスタードソードをインベントリから引き出す。
これがヤムの持っていた剣だ。
「貫通?
あらゆるものを貫く・・・!」
「その効果で、破られたんです。」
「こんな物が、魔物の手に!」
「厳密には、ブレードランドにあったものですよ。
王族が殺された事件の裏で、彼らはそれを奪ったんです。」
「何だって!」
思わずマウスに触ったのか移動するキーを押したのか、徐福が立ち上がった。
レナも言葉を失い、何も言えず、動く事も出来ない。
「ではこれは、千刃城にあったと言う事か!
何故こんな物を・・・!」
「それは知りませんが。
スールは、結界の破壊を目論んでいました。
この剣の存在を何かしらで知って、奪うためにも襲ったのでしょう。
そして機が熟したのかようやく深淵への道を突き止めたのか。
その理由はわかりませんがこのタイミングで動き出した。
それを止めるべく対抗した結果、私は彼らと戦い、殲滅するに至ったんです。」
「私達が日々魔物との戦いに悪戦苦闘している裏で君は、フーヤは本当に世界のために戦ってくれていたのか・・・。」
「フーヤ、あんた何で・・・。
生身のはずなのに、日本人なのにどうして!」
どうして、と問われると、返答に困るな。
「理由、ですか。
ここには守りたいものがたくさんありますし、守りたいものが楽しい日々を過ごすには、楽しい世界が必要ですし。
風の一行の皆もそうですが、クロノやケイリン、レイデリア様にメリナさん、ミナさん、ヘレナ様、シルクス・・・、それに大樹様も。
オートランにもたくさん大切な、守りたいものが出来ました。
だから、そのためなら何でもしますよ。
皆を好いていますし、皆のいるこの世界も私は好きですから。」
嘘偽り無く、思うままを口にした。
ちょっと照れ臭いけど、何故と聞かれたらこれが理由だろうな。
二人はしばらく静かだった。
ゆっくり待つ。
空になったカップに茶を注いでくれるニルは、涙ぐんでいた。
そっと、ハンカチを渡す。
何か言おうとして、唇が震えて、結局何も言えずに、ニルは目にハンカチを当てた。
「度々待たせてしまうな。
男まで泣かせてどうするつもりだい、全く。」
「ありがとね、本当に・・・!」
泣かせてしまったか。
大層な話はしてないんだけども。
悪い涙でないのだから、まあこちらとしても嬉しい事か。
「これは返そう。
フーヤになら、預けられる。」
「わかりました。
最悪葬り去ります。」
「出来るのかい?」
「多分、ですが。」
さてさて、ようやっと聞きたいところまで来たよ。
けど、既に二人も知らないだろう事が確定しているな。
「で、ヤムの動きについて、何か聞けたらと思ったんですよ。
不審に思った経緯を話しますね。」
そこでストーリークエストの話が出て来るわけだ。
「シキについては、実は既に調査したんだ。
目撃者が多くて、フーヤの時だけ何故シキが配置されていたのか、と私達のところまで話が回って来てね。
しかし、君がこちらにいる事がわかってからは、簡単な話だった。
あれは、本物のシキだった。
そしてストーリークエスト内の戦争ではなく、本物の戦争だったんだ。
本当にシキの軍が、攻め込んで来ていたんだ。
ただ、それだけの事だったんだ。」
「本物・・・?」
「BLOは、ゲームと言う性質上どうしても外せない戦いと言うものが発生してしまう。
また、それによってプレイヤーの強化を計っている面もある。
それが、シキだ。
ストーリー中に魔王戦を経験させて、魔王への免疫を付けてもらいたかったんだ。
それにシキのデータを使った。
つまり、ストーリー中に戦うシキは、私達の作った偽物なんだ。」
なるほど・・・。
そうなると、インスタンスも偽物と言う事か。
「同様に影使い五本指も、その後イベント戦として少しだけ戦うスールについても、偽物だ。
他にもインスタンスは場を含めて全てそうだし、クエスト関連の魔物達も皆、偽物となっている。」
ちょっと、衝撃・・・。
待てよ、そうなると!
「ではペンタスは、ネラバは!」
それは、俺にとっては大きな問題だ。
リアとの約束、仇討ち。
「リア、だね?
あのクエストは、実際にあった事だ。
タルは実際に滅ぼされ、ペンタスは冒険者によって討伐されている。
しかしネラバは、未だ討伐出来た者はいない。
奴は強い。
現状の冒険者で戦える相手じゃなかった。
だから地下墓地は常にインスタンス化させて、迷い込まないように処理した。
ネラバ側からは出れてしまうが、外からは本物のところへは行けなくなっているんだ。」
「そんな!
仇討ちが終わったと思っていたのに、本当はまだ終わっていなかったと?
ロードを倒してクィーンも倒して召喚された悪魔も倒して、ネラバを、仇をやっとの思いで討ち取ったのに?」
「待ってくれ!
召喚?何の話だ。
インスタンスのネラバには、そんな力は・・・。」
「ネラバはサモン・デモンを使いました。
他にも闇属性の魔術を幾つも。」
「それは本当なのか?
・・・だとしたら、本物かもしれない。
偽物のネラバはサモン・デモンは使わない・・・、使えないんだ。
魔術レベルは五なんだ。
第六階位は使えない!
フーヤ達は、本物のネラバを倒している!
そうか、ネラバもフーヤ達は倒してくれていたのか・・・。」
その言葉でようやく、俺は安堵した。
まさかとうに終わったと思っていた仇討ちが、実は終わってないかもしれないなどと言う事になるとは思いもしなかった。
ちゃんと終わっていたか、良かった・・・。
「何故インスタンスへと誘導されなかったのだろうな?
それも調べておかなくては・・・。
フーヤと話していると新たに判明する事実が次々湧いてくる。
メモが手放せないよ。」
「それはこちらも同じ思いですよ。」
「それもそうか、ははは。」
しかしこれも重要な事だ。
互いに断片しか知らない事でも、持ち寄れば今のように発見に繋がる。
俺達にも、徐福達にも有益だろう。
情報交換はさらに続く。




