剣の極致
闘技場の中央に、アーシアの力で舞台が出来上がった。
そしてそこへ、レイデリアの乗った翼ある馬が降り立つ。
ちなみにこの馬は、ウィンディアだ。
馬から降りたレイデリアは舞台の下に跪くケイリンを見下ろした。
観客達はただ静かに、成り行きを見守っている。
兵も騎士も貴族達も、今は息を潜めるようにして、王の言葉を待った。
「面を上げよ。
そして、立ち上がりなさい。」
言葉に従い顔を上げ、立ち上がって、その尊顔を見つめる。
その目を大きく見開き、そして俺の方を見た。
一つ、ウィンクしてやる。
呆れたような顔を一瞬見せるが、次の瞬間にはしっかりとした顔付きとなっていた。
王へとその目を戻す。
「そなたの望みを口にせよ。」
二人は見つめ合う。
その意味を知る者は、二人の他には俺一人。
「俺は、あなたを望みます。」
その言葉の瞬間、ケイリンの目の前に、舞台へ上がるための階段が姿を現していた。
そこを一段一段上る。
そして王が差し出した手を取って、その甲へ口付ける。
直後の行動に会場は、引っくり返る程の歓声と悲鳴と怒号と、祝福の言葉に沸いた。
レイデリアはケイリンの顔に手を回して、口付けた。
「皆様!皆様!
祝福しましょう!
何と言う事か!
プレイヤーとNPCが結ばれてしまいました!
何て懐の広い運営なのでしょう!
こんな要求にもすぐに応えて、叶えてしまう!
素晴らしい、今日は素晴らしい日となりました!
何てイベント立ちあげてんですか、あんた達!
最高です!最高ですよ!」
「レイデリア様、お気を確かに!」
「陛下!
下々の者となど、許されませんぞ!」
「手前えら、喧しいわ、
祝え祝え!」
「ケイリン、おめでとう!
末永く、爆発しろ!」
阿鼻叫喚の地獄絵図となったので、二人をウィンディアに乗せた。
ウィンディアには少し会場を回って、城の最上階まで連れて行くよう頼んでおく。
俺は先行して城へ向かい、最上階への道をストーン・ウォールで埋めた。
ゲートからウォーティアを呼んでおき、何食わぬ顔で二人を迎え入れる。
「すげえ事になったな。」
「二人共、ありがとう。
しかし、良いのかねえ?」
「悪い事なんて、何処にもありません。
愛し合う二人がただ、結ばれただけです。」
ウォーティアが蛇の姿で俺の腕に巻き付いた。
「この子はウォーティアと言います。
水の上位精霊で、ひとまずの世話係として残して行きますね。
私に用事があれば、この子に言って下さい。
そうすれば、私まで伝えてくれます。
ウォーティア。
お二人に干渉し過ぎないように。」
「はい、旦那様。」
馬から妖精に姿を戻したウィンディアは、俺の肩に座った。
二人はもう、気にしない事にしたのだろう。
何処か呆れたように笑った。
「最上階への道は封鎖したので、そのままなら二日程は誰も来れません。
けど、明日の昼には私を呼んで下さいね。
では、これにて。」
後は若い二人(省略)
翌日の昼に呼ばれて、ニルに頼んでおいた昼食を持って訪ねると、二人はしっかり着替えて待っていた。
ウォーティアも部屋の掃除などばっちりこなしてくれたらしく二人が感謝していた。
そして一緒に食事しながら、今後の方針を詰めていく。
「まず、貴族達は必ず反発するね。
それは例の作戦で行くつもりだけどね。」
「例の作戦?」
「文句があるなら勝ってみろ、ですね。
それに当たって、一つ提案があります。
ケイリンを三次職に就けます。」
「は?」
「よくはわからないけど、それで強くなるのかい?」
「ええ。
上手く組み合わせれば、私並に。」
「それは良いね!
早速やってくれ!」
「おいおい、んな事出来るのかよ!」
と言う事で、ケイリン強化計画が始まった。
もちろん裏技を使う。
剣闘士の三次職、舞闘士が進化しないわけがないと言う勘の下に探ると、拳聖と組んで双聖となった。
そこに剣聖や聖人を合わせようと試みると、聖人が当たり、双神に進化。
そしてその双神が剣聖と反応し、極剣となった。
他にも色々合わせようとしてみるが、これはここまでのようだ。
極剣
職業補正筋力、敏捷、器用、二倍
二刀流可
防御レベルに応じ攻撃力、命中、回避、防御力上昇
剣装備中剣レベルに応じ攻撃力、命中、回避上昇
格闘中格闘レベルに応じ攻撃力、命中、回避、防御力上昇
剣や拳での戦闘に限り、両者の特性補正がかかる
増刃・気力消費中、持続時間十分、二刀流可
剣レベルと同数の刃を作り出す
連拳・気力消費小、持続時間三分
打撃の瞬間に気を込める事でダメージ増加する
効果中打撃の瞬間に攻撃ボタンで増加
連続成功の度に効果量増加、失敗で初期値へ
聖化・気力消費中、持続時間十分
武器の属性ダメージを武器レベルに応じ強化
剣閃・気力消費大、遠隔、複数体攻撃可
剣レベルと同数回追加で斬る
剣舞・気力消費大、遠隔、持続時間一分
剣レベルに応じ斬撃を強化
絶撃・気力消費大、格闘レベル倍威力の一撃
誘引・気力消費小、パーティー外使用時悪影響無し
周囲広範囲の敵の敵意を大幅に上昇させる
一閃・気力消費特大、遠隔、複数体攻撃可
剣レベルと格闘レベルの合計と同数回追加で斬る
敵意により威力上昇
双閃・気力消費特大、遠隔、複数体攻撃可
剣レベルと格闘レベルの合計倍威力の二撃
敵意により威力上昇
極閃・気力全消費、遠隔
剣、拳、防御レベルの合計倍威力の一撃
敵意、消費気力により威力上昇
長っ。
魔導師みたいな究極形が出来たのかな。
ちなみにこの極剣、俺も取れたんで変えておく。
第二職業は導師となった。
魔導師でも良かったんだけど、光や闇の魔術を教えると貴族共が勇者だ魔王だとうるさそうだからやめた。
既に充分強いしね。
名前ケイリン
第一職業極剣レベル六〇
第二職業導師レベル六〇
筋力十八(+二)・体力十七(+三)
知力十三・精神十五
敏捷二〇・器用十四(+三)
魔力十五(+二)(+三)
武技
剣六・防御六
戦術
平地六・森林六・山岳六・水上六・狭所六
探索
野外六・屋内六
魔法
魔術六・治療六
生活
釣り四
特殊
言語
こうなった理由は、アレイシャの祝福があった、と言う事にする。
「本当に出来やがった・・・。」
「何が変わったのか、私にはわからないんだけどね。」
「恐ろしく強くなった、とだけ。
ところで名前、どうします?」
「そうだね。
私に合わせるかい?」
「ああ、家名?
そうだな、こっちじゃ持って無いからな。」
「こっち?」
「その話はおいおいとして、では変えましょか。」
「もう何でもありだな・・・。」
と言うわけで、今後はケイリン・サウザンドブレードと名乗る事になった。
いやあ、めでたいね。
正式な式はまだだから、公にはそれからだけどね。
その後は、なかなか大変だった。
貴族は騒ぐわ騎士は騒ぐわ上を下へのしっちゃかめっちゃか。
謁見の間で、レイデリアと貴族達の正面衝突となった。
「文句があるのか?」
「当然でございます!」
「何故か?」
「冒険者などと何処の馬の骨・・・」
「ブレードランドの貴族たる者が、武よりも血を取る、と?」
「サウザンドブレード家の血筋ですぞ!
それに見合う・・・」
「それに見合う力なら、ケイリンは持っているだろう?
それとも貴様らのような弱小の血を入れろとでも抜かすか?」
「しかし!」
「私とて力が全てとは言わぬ。
だが、力が無くては民を守れぬ。
民を守れぬ者に王たる価値は無い。
それが気に入らぬと言うなら、ケイリンと戦い、打ち勝って見せよ。
アレイシャ様の祝福のあった、今のケイリンを打ち倒せるのなら、その力も充分なものであろう。」
「ア、アレイシャ様の祝福・・・?」
貴族達の困惑は、さらに拡がる。
ざわめき、動揺し、或いは信じず一笑に付す。
俺はケイリンに、そっと剣を渡した。
「レイデリア様。
あちらの扉、構いませんか?」
「良いだろう。
ケイリン。
その力の片鱗、彼らに見せてやってくれるか?」
「良いのか?
どうなるか、わからんが・・・。」
(良いから、やっちまいなさい。)
(へいへい。)
その両開きの扉は大きく、そして分厚い。
縦三メートル、横四メートル程ありそうなサイズに、二十数センチの厚み。
重厚な、金属の扉だった。
まさか、と言う表情で見守る貴族達。
出来るのか、出来るわけがない、そんな言葉が聞こえてくるようだ。
ケイリンは剣を一瞬で引き抜き、横に薙ぐ。
頑丈なはずの扉が悲鳴を上げた。
耳をつんざく金属音と共に、横一文字に走る鮮烈な閃光。
その一瞬で扉は容易く斬り裂かれ、崩れ倒れた。
貴族達は、言葉を失っていた。
俺はすぐにフォースをかけて、ケイリンの気力を回復させる。
「ケイリン様は極剣と言う称号をアレイシャ様からいただいたそうです。
今のはその称号を持つ者だけが使える奥義中の奥義。
その絶大な力、超えられるものならば立ち上がるがよろしいでしょう。」
近付く事無く斬れた扉から、その場にいる全ての者が目を離せない。
その断面はあまりに綺麗で、如何に鋭い斬撃だったのかを明確に表していた。
その圧倒的な力と迸った輝きの前に、その場にいる全ての者達が畏怖する。
「わかったか、身の程と言うものが。
貴様らのような弱小の血など、王族の血を汚す事に他ならん。
以降、二度と口にするな。
理解したならば、態度に示せ。」
最早跪くしか無かったのだろう。
貴族達は恭順を示した。
俺はしばらく、ウォーティアを蛇のまま護衛としてレイデリアに貸し出しておく事にした。
ホランでもそうだったが、厄介な者はなかなか諦めない。
彼女の安全は、何よりも優先だと感じたのだ。
そうして、ようやく俺は屋敷への帰途に就いた。
久しぶり、と言う程空けてはいないが、意識的には久しぶりだった。
武術大会は楽しかったけど、貴族が絡むと途端に面倒臭くなるね。
もちろん良い人達も多いんだけど、悪党は目立つからな。
「旦那様、お疲れ様でした!」
「ただいま、ナファ。
こっちは大丈夫でしたか?」
「私達にかかれば、指先一つですよ!」
「・・・アナトですね?」
「はい、教えていただきました!」
着々と余計な言葉を・・・。
まあ、嫌いじゃないから良いや。
ナファの頭を撫でて、屋敷へと向かった。




