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ヒルト観光

日課の鍛練を始めると、武人がやって来た。

木剣を用いて繰り返す剣の確認作業でしかないのだが、まだずれがあるために毎日続けている。

それを少し離れたところで見ていた。


「どうしました?」

「いや、こっちで生きるのも大変だと思ってな。

俺も毎日身体を鍛えているが、フーヤは生き死にに直結してるんだよな。」

「生活がかかっている点では、武人も同じでしょう。

あなたの身体を見れば、どれだけのトレーニングを重ねているかを少しは察せられます。

風也として生きていた頃の私には考えられない程、厳しいものでしょうに。」

「そりゃそうなんだろうが・・・。」


正直滅茶苦茶格好良くて、男の俺でも見入ってしまう程だ。

触ってみたいものだけど、気恥ずかしくて躊躇うね。

そこへさらに悟と美沙の二人もやって来る。

おはよう、と挨拶を交わした。


「フーヤは朝のトレーニングか。

さすがだな。」

「魔法が使えるって本当?

見たいんだけど。」

「こら、美沙。

お前は・・・。」


美沙って、何か自由な人だよな・・・。

魔法ねえ。

何を見せたもんかな。


「悟は、何か見たいものはあります?」

「良いのか?

済まないな。

では、ガーディアンを見てみたいのだが。」

「良いですよ。」


俺はガーディアンを呼んだ。

真っ白な輝きが差し出した手の先から溢れ出し、一際強く光を放った次の瞬間には、そこに翼を持つ人形のようなガーディアンが出現していた。

男性型にするか女性型にするかは呼び出す時に決められる。

今回は男性型とした。

整った顔立ちの、銀色に日の光を照り返す守護天使。

聖衣を纏い、地上から少し浮く姿は、まさに絵に描いたような天使である。


「ほう!

これは美しいな。」

「すごい・・・!

触っても大丈夫?」

「ええ。

この子は、攻撃能力は持ち合わせませんし、叩いても問題無いくらいですよ。」


武人も寄って来て、すぐそばで見上げている。

男性型のガーディアンは、がっしりした体躯の天使だ。

如何にも守りに向いていそうな、頑強な身体付きをしている。

ちなみに女性型は、清楚な聖衣に見合わない豊満な肢体を持ち合わせていた。

美沙には、見せない方が良いと判断したのだ。

彼女が貧相と言うわけではない。

恐らく標準的な肉付きだろう。

避けた理由は、嫉妬深い人物であるようだったからだ。


そこへ、ニルがやって来た。


「皆様、朝食の支度が整いましてございます。」


流暢とは言い難いが、日本語でそう言った。


「ありがとうございます、ニル。

言葉、上手ですよ。」


褒めると照れたようにはにかんで、一礼して戻って行った。

その愛らしさに、四人はしばし見惚れる。


「・・・びっくりしたぜ。

日本語教えたのか?」

「いえ、私も驚いています。

多分、百合辺りの入れ知恵ではないかと。」


と話す横で悟は美沙に、思い切り尻を叩かれていた。




朝食の後、俺は馬車の支度をしていた。

幌の側面を開き、外を眺め易くする。

それからナファに協力を頼み、アクアと馬になって引いてもらう。

同行するのは夏樹と優にラミアだ。

念のための警護も兼ねている。


「では行きましょう。」


御者席からナファ達に指示すると、馬車はゆっくりと動き始めた。

客人三人は門まで続く林を横に眺めている。


「この林、ニルやナファが作ったんだろ?」

「そうですよ。

成長速度には驚きましたが。

大樹の眷属なのだそうで、あっという間にここまで育ちましたよ。」

「そうなのか?

始めから植えられていたわけではなかったのか。」

「林の中には、やはり彼女達が作ってくれた貯水池もありますよ。」

「精霊、すげえな。」


門は、俺のテレキネシスで勝手に開く。

馬車が出れば、勝手に閉まる。

三人の目は釘付けだ。

自動的に開閉しているように見えるのだから、そうもなるか。


「自動ドアじゃないよ。

兄貴の仕業。」

「そんな魔法、あるんだな・・・。」

「テレキネシスですね。

便利ですよ。」

「本当に、魔法の国なんだね。」

「美沙、これはフーヤが規格外なんだ。

あんな事が出来る者は、他にはいない。」


馬車はヒルトをゆっくり一周する。

蒼炎十字軍の宿舎の前も通る。


「中には入れないでしょうが、少し覗きますか。」


俺達の屋敷は、元が貴族のものだったから塀が高いが、普通は低い塀か柵だ。

中を見る事は容易い。

蒼炎十字軍の宿舎は大きく、また敷地も広い。

とは言ってもBLOプレイヤー達の住む場所だ。

訓練に励んでいたり、警護に人を立てていたりするわけではない。

和やかに喋っているところが見えたりするくらいのものだ。


「皆が、いるな。」


自分の目で見ると、感慨深いのだろうな。

悟はゆっくり進む馬車の中から、じっとそちらを見つめていた。




千刃城の前に差しかかり、馬車を一旦停めた。

悟達は城の偉容に絶句し、言葉も無く見上げている。


「おや、フーヤ殿!」

「どうも、お疲れ様です。」


俺は衛兵の男性に話しかけられていた。


「遠方からの客人でして。

城は是非見て帰っていただかないと、お思いましてね。」

「我らが千刃城は、大陸一ですからな!

美しく荘厳にして威厳溢れるこの姿。

存分に堪能して下され!

フーヤ殿の客人であれば、きっと立派な方々なのでしょうな!」

「あちらの国では名の知れた方々ですよ。

私などとは、比べる事すら申し訳ない程です。」


有名な歌手二人に、武人も競輪界の星らしいからね。

百合情報。


「もしや貴族か王族の方で?」

「あちらには貴族と言う存在は無いのですが、お三方共に名のある方々なのです。」


適当なところで切り上げて、次へと向かった。




冒険者ギルドの中に入るのは危険過ぎるので、外から眺めるに留めた。

何せ、クリックすれば名前が出るからね。

三人の名前は知ってる人が多い。


「レダ支部長には会いたかったなあ。」

「おや、武人もお気に入りなんですか?

支部長は人気ありますよね。」

「そりゃ、あのスタイルに親しみ易いキャラ、そしてプレイヤーの事をよく気にかけてくれるとなれば、そうもなるんじゃないか?

そんな彼女が実在してるってんだから、一目くらいはな。」

「そんなもんですかね。」

「悟ちゃんはどうなの?」

「俺はお前一筋だ。

心配するな。」


苦労してるな、悟よ。




昼には屋敷へと帰った。

酒場で食べても良かったのだが、人目が気になってしまうからな。

今日の昼食は、ニルとリアの二人が作ってくれた。


「午後はどんな予定なんだ?」


武人の質問に、俺はにやりと笑う。

素晴らしいところへ連れて行くつもりなのだ。


「レンブルの向こう、見たくありませんか?」

「何だと!」

「うおお、マジか!」


二人は食い付き、思わず立ち上がる。

来年の実装はナーガの出現によりほぼ確定だ。

だがそれに先駆けて、見せてしまおうと言うわけだ。


「来て良かったぜ!」

「ああ!

まさかこの目でオートランまで見られるとは!」

「ただし、時間は計算しておいて下さい。」

「そうだな。

美沙、何時には家に帰っていたい?」

「遅くとも八時なら間に合うかな。」

「ならば俺達は、七時に帰れれば大丈夫だな。」

「俺は新宿に七時過ぎるくらいなら大丈夫だ。」

「それなら、日付が変わったら送りましょうか。

ここへは四時に帰るとして、湯浴みと軽い食事を済ませて六時前には就寝。

十一時頃に起きれば、余裕を持って帰れますね。

そんな予定で良いですか?」

「もちろんだ。」




昼食後、馬車でレンブル付近へのゲートをくぐった。

まずはレンブル内を通る。

この町も景観は素晴らしい。

三人は海を見渡せる街道からの眺めに目を奪われていた。

反対を見上げた町並みもなかなかだ。

緩やかに登る斜面には、整えられて軒を連ねる家屋。

異国情緒に、美沙などは思わず溜め息をこぼしていた。


「良い町だとは思っていたが、まさかこれ程とはな。」

「うん、すごく綺麗。

そっか、これ海外旅行みたいなものなんだ。」

「ああ、そうか!

言われてみればそうだよな!

初めての海外が異世界か、やべえな・・・。」

「異世界、なんだったな。

考えてみると、恐ろしい体験だ。」

「貴重でしょう?」

「フーヤ君に感謝だね!」


レンブルを過ぎ、広大な草原へと出た。

ここからは、いよいよオートランとなる。

悟と武人が感無量となっている横で、美沙は日本ではまず見られない光景にはしゃいでいた。


「広い!

ここがオートランって国?

すごいね、ここでロケしたい!」


無茶言わんといて下さい。


「ここからは魔物が出ますので注意して下さいね。

三人共、迎撃をお願いしますよ。」

「任せて!」

「この辺りだと、危なくもないけどね。」

「気配はまだ無い。

そのまま進んでくれ。」

「助かります、ラミア。」


優と夏樹はインベントリから武器を出した。

ラミアは元々腰に下げている。

そして俺の強化が施された。

連続で光を放つ四人に、悟達は面食らっていた。


「強化魔術か。

なかなか派手だな。」

「綺麗だね。

これは何してるの?」

「身体能力などの強化を行っているのだ。

フーヤは、そう言った事が得意な職業に就いている。」

「あれ、とんでもなく上がるんだぜ。

大樹へ一緒に行った時は、快適過ぎて最高だったよ。」


今はそこまで上がらないけどね。

その辺りの事情は、ダーク・ファクターやらラグジアータやらまで話さないといけなくなるから黙っとくけど。

どちらも、さすがに危ないネタ過ぎる。

俺自身の事なら何でも話せるけど、世界に関わる事だからな。

特にダーク・ファクターは。


そろそろゲートで移動しようかと言うところで、ホブゴブリンの群れに遭遇した。

数は十二。

夏樹とラミアが飛び出し、優が続く。


「あんなのと、俺達は戦ってたんだよな。」

「そうだな。

実際に見ると、なかなか怖気を誘う姿だ。」


冷静な男二人に、美沙は疑問を口にした。


「ねえ、女の子だけで大丈夫なの?」


美沙の疑問は当然のものだろう。

弓の優はまだしも、夏樹などは本当に細い。

とても戦いを生業としているようには見えないだろう。


「美沙は、グロいの大丈夫なのか?」

「俺よりも見れるはずだ。

美沙、見ていろ。

彼女らは、あの化物より遥かに強い。

アニメやゲームの中の主人公達だと思えばわかり易いだろう。

五分もかからんぞ。」


その言葉の通りに、優達はホブゴブリンの群れを一方的に蹴散らしていく。

夏樹が敵意を集め、ひと振りで三体程まとめて吹き飛ばす。

優が放つ矢は貫通し、やはり三体は仕留めた。

潜伏し、姿を消した状態から放たれるラミアの剣閃は、六体を一瞬で絶命させた。

それで、終わりだ。


「完全生産職が挑発に絶打。

弓職は見た事も無い貫通の大技。

潜伏したと思ったら、剣のひと振りで敵を殲滅する盗族職。

一体何が起きているのだ・・・?」

「だいたい兄貴のせいだよね。」

「フーヤだもんね。」

「風の一行は、そうやって納得しているのか?」

「まあ、確かに私が分けた力ですけどね・・・。」


酷い言われ様じゃないのさ。


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