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神の欠片の降り注ぐ刻   作者: 布良瑞芽
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第一章-2-

山守と竜胆が24Bスキルブロックを出発して1時間ほどたった時であった。

 

24Bスキルブロックの作戦本部へ一通の連絡が入った。その内容はこうであった。


「24Bスキルブロック内に異世界獣が出現しています。近くの能力者のアナライズではA--相当と判別」


この通報を受け、つい先ほど解散したばかりの本部にさきほどのメンバーから援軍出撃した二人を除いた4人があつまることとなった。


「この短い時間に狙ったようにAクラスが2体も出現するとわねぇ・・・」


困り顔でそういう雪奈に対して愛崎が思案顔で話し始める。


「まさかAクラスがこんな短い期間に出現するなんて思ってもいませんでしたからね。うちのメイン戦力のほとんどが出払っちゃってますから。どうやら報告によると市街地方向へ向かっているそうなので極力早く何らかの対策をとる必要があるでしょう」


「対策と言ってもまともにA相当に当てられる能力者がこちらにはもう山守さんしかいませんし、山守さんでもA相手に前衛にだすのは危険ですよ」


スフィアがおそらくこの場の全員が考えていたであろう唯一の可能性を口にしつつもそれを否定する。それに対しておそらく同じことを思い、そして案を考えていたであろう当の山守本人が話し始める。


「確か研修生にA--がいたはずだが・・・。研修生を前線に出すのは危険すぎるか。   仕方がない。ここは私が一応ロングレンジで牽制できないか試してみよす、それが難しいようならなんとか私が前線にでて時間を稼ごう」


これに対して九条がわずかに思案したのちOKサインを出す。

これにたいそう驚く愛崎であったが、それは無理もないのかもしれない。

24Cスキルブロックに応援を出したことでもわかるように、通常A--相当の異世界獣に対しての適正戦力はA--能力者5名程度相当である。

普段九条は無茶は言っても無理は言わない為、愛崎が驚くのも無理はないだろう。

最終的な作戦としては、まず第一段階で山守による長々レンジでの攻撃により討伐ないし進行方向の誘導を行う。

これに失敗した場合山守が前線へ出て時間を稼ぎつつ他の【射程外通知(アウトレンジ)】のメンバー5人による援護のもと討伐を試みる。そして第二段階での【射程外通知】の陣地作成ならびに負傷時対応で九条とスフィアが付き添うことになった。


作戦は本部にて解散後直ちに実行に移された。


「なぁ雪奈、私は危険と感じた場合は躊躇なく撤退する。その際の撤退支援は信じるぞ」


「ああ、俺にできる限りは助けてやるよ。そんときゃ無事戻って来い」


作戦地点に向かう最中、山守が九条に信頼しきった笑みを浮かべながらこう話しかける。それに対する九条の返答もお互いの信頼を感じるものだった。



--24Bスキルブロック内 異世界獣出現地点より2kmほど離れた建物の屋上



市街地のはずれにある作戦の第一段階の実行地点には山守含む【射程外通知】のメンバー6人と九条そしてスフィアが到着していた。


「さてと、それでは第一段階を試すとしよう」


到着早々からそう言って能力の展開を始める山守を横目にスフィアと九条がコソコソと話し始める。


「やっぱり何回見てもこのレンジでの能力狙撃はすごいですよね~」


しみじみと言うスフィアに対し、雪奈は自分のことのように自慢げに山守の能力について話し始める。


「【一点集光ピンポイントショット】。山守の能力はレーザービーム系能力者の中でもずば抜けた射程があるからな。最大レンジの2.5km以内に微弱な光線を発射、その後狙った地点付近で急激に光線の威力が増大し、その後すぐに減衰する。通常のビーム系能力者の持つ一直線上の攻撃範囲と引き換えに射程と威力が上がった特注品だ」


二人がそのように話している間にも山守のほうはすでに準備が整ったらしく第一射を発射する。そして微調整をしながらも立て続けに2射、3射と繰り返す。

計12発ほどの攻撃を行い、その様子を確認して、といっても実際に見えているのは山守本人と一瞬だけなにやら目を光らせた雪奈だけであるが、第一段階の作戦失敗を告げる。


「やはり私の能力ではこの距離でA--相当のオートガードシールドは突破できないか」

「仕方ないさ。いくらお前の能力が強くても本来前衛込みでシールドはがして戦うもんだしな」


こうして大方の予想通り作戦は第二段階へ移ることとなった。


移動中、九条はスフィアにだけ聞こえるようにこのようにつぶやいた。


「そろそろかくれんぼはおしまいかもなスフィア」



--第一作戦地点から1.5kmほど前進した地点、化け物まであと500m



辺りは先ほどとはかわり周りに木々の散在し、雪奈達以外の人の気配は感じられない。雪奈達はそんな中でも低めの木が生える草むらの奥を拠点としていた。


「さて、とりあえず俺はここに陣地を作成して援護体制を整える、お前らは相手の動きに注目しておいてくれ」


こういってなにやら奇怪な魔方陣のようなものを地面に書き始めた雪奈を除いた7人が、今回の作戦の対象である異世界獣に注目する。さきほどよりも近づいた為すでに全員がそれの姿を捉えていた。

それは真っ黒な体をしており大きさは自動車かそれよりやや大きいくらい、そして、なによりも特徴的な二つの蜥蜴のような頭を持つ胴体は犬のような生物だった。

そいつはまるでその先に獲物がいることを知っているかのようにまっすぐこちら側に歩いて向かっていた。


7人がそれの姿を観察していると数分も立たないうちに作業をすませた雪奈がなにやら詠唱を始める。


「力の流れよ、我が身を守れ」


短い詠唱ののち雪奈の書いていた魔法陣が光り、魔方陣の周りから立ち上がるように薄い幕のようなものが展開される。

雪奈の使用したこの現象は【術式】と呼ばれているもので、個人の持つ固有能力とは別に魔方陣や詠唱を用いることで神の力を具現化する技術である。雪奈がリーダーを務める研究部門でのもっぱらの研究対象でもある。


「よし、まぁ簡易術式だがこれであれが何らかの遠距離攻撃を持っていても一撃避ける程度の時間は稼げるだろう」


そういう雪奈に対して山守がやや緊張した面持ちで雪奈に声をかける。


「研究部門の非戦闘員なのに前線まで出てきてもらって悪いな」

「ああ、まぁいいってことよ。それよりお前のほうこそ無理はするなよ?一応撤退用ここまでこればステルス術式かけれるようにしとくから、やばくなったらすぐに逃げて来い」

「言われなくとも、私もまだ死にたくはないからな」


そんな会話を交わし、山守は前線へ出るべく懐から小さな赤い宝石のようなものを取り出す。


「共鳴」


山守がそういって少し力むと先ほどまで指先ほどの小さな結晶だったものが山守の身の丈ほどもある長剣に変容する。

共鳴具。人に宿らなかった神の力の欠片が結晶になったもの。普段は小さな宝石のような見た目だが、能力発生の源である【能力波】と呼ばれる力をこれに共鳴させることで道具の形をとり力を貸してもらえる。

この共鳴具は先ほどの術式とセットで、自身の固有能力が届かない範囲のカバーに用いられる。が、扱いが難しくあまり好んで使用する者は少ない。


今いる8人の中ではこの他に、スフィアが腰のベルトに一つ、雪奈が腰につけている小道具容れに七つ持つのみである。また普段は山守も携帯はしていない。


「それではいってくる」


そういい残し山守がやや早足で蜥蜴犬に向かって歩き始めた。







「さて、このレベルの敵相手に近距離戦は初めてか」


山守はそんなふうにぼやきながらも油断無く近づいていく。

山守は非常に優秀で戦闘力の高い能力者ではあるが、自身の固有能力のスペックが射程に大きく傾いている為このような緊急事態でなければ前線に出ることはない。


「ふぅ、・・・はっ」


山守は草木の間に隠れながら、拠点から400mほど進むと草むらから跳び出しながら先制の一撃を放つ。


山守の放った光線は丁度蜥蜴犬の右目の辺りで急速に強まり、命中するかのように思われた。

しかし、実際には突如現れたバリアのようなものにはじかれてしまう。オートガードバリアと呼ばれる一部の上位異世界獣などが持つ自動防御の一種である。そして先ほどの作戦での遠距離狙撃を無効化していた防衛システムである。


「ギュル」


蜥蜴犬はその四つの瞳を山守へと向ける。

一瞬怯んだ山守であるがすぐに立ち直り、10mほどの距離をとりつつ背後へと走りこむ。

それを巨体に似合わない動きで追従した蜥蜴犬が山守に向かって飛び掛る。10mはあろうかという距離が一瞬で詰められ凶悪そうな爪が山守に襲い掛かる。

山守は襲い掛かる爪を手元の剣でうまくそらし、そのままの勢いでバックステップをする。


「貫け 2重線の刃よ【スカイダガー】」


山守が蜥蜴犬から離れたそのタイミングで雪奈の放った術式から二つの衝撃が襲来する。

またほぼ同じタイミングで五つの光線が蜥蜴犬に殺到する。

しかし、それらは全てバリアによってはじかれてしまう。だが、若干ではあるが蜥蜴犬の動きを止めることに成功した。


「はぁあああああ」


その隙を突いて山守が距離を詰めつつ3連続の狙撃と剣による刺突をバリアの同じ場所に命中させる。

このオートガードバリアには、いくつか種類があるのだが基本的には短時間に集中した攻撃を受けることに弱いものが多い。

その結果、先ほどまで攻撃をはじいていたバリアに亀裂が走った。


(よし、いける!)


山守は確かな手ごたえを感じながらも慎重に距離をとり、次の攻撃に備える。

距離をとった山守に対して蜥蜴犬は再び飛び掛る体勢をとる。

山守はこれを迎撃すべく素早く剣を構え牽制に一発の光線を放った。

光線は先ほどのバリアの亀裂に命中しさらに亀裂を広げてゆく。

しかし、その光線の命中を合図にするかのように再び蜥蜴犬が飛び掛る。

今度は先ほどまでと異なり2つある口のうち右側の口を使い噛み付きを繰り出してきた。


山守は先ほどと同様に牙を剣で受け流し距離を取ろうと試みた。

しかし、先ほどの爪での攻撃を防がれたことで学習したのか、蜥蜴犬は一撃目がいなされるや否や左側の口で追撃を繰り出す。

山守はとっさにバックステップをサイドステップに切り替えることでこれをやり過ごす。そして山守は今度こそ距離を取るべく跳躍をしようとした。

そのとき山守は見てしまった。先ほど避けた左の口の奥が赤く輝いていることに。


(ブレスかっ)


ブレスを避けようとする山守であったが跳躍を始めてしまった体では回避することができない。

とっさに防御姿勢をとり剣を盾にする山守を高熱のブレスが飲み込まんとする。

その瞬間山守の服の裏に刻まれていた魔方陣が光り輝き本来ならば撤退用にと仕込んでおいた雪奈の防御術式が発動した。

しかしながら術式は基本的には固有能力に劣る効力しかない上に、あらかじめ仕込んだ陣での遠隔操作による術式の起動。

その結果、一瞬ブレスを押しとどめただけの防御術式はあっさりと破壊され、山守は剣で炎を受け止めながらも大きく吹き飛ばされてしまった。

【射程外通知】による遠距離攻撃が降り注ぎ若干蜥蜴犬の動きが止まるが、蜥蜴犬はそれらを無視し山守に止めをさそうと動き出す。





その頃拠点ではこんな会話がなされていた


「スフィアやはりかくれんぼは今日でおしまいだ」

「うん。雪奈、気をつけて。昔みたいにはいかないからね。いってらっしゃい」


「ああ、行ってくる」


雪奈は腰に身につけていた共鳴具のうちの一つを手に走り始める。

「久々の出陣だ、行くぞ【鳴速の片手長剣フリュウソーン】」


拠点で5人の【射程外通知】メンバーが必死の攻撃を仕掛ける中、非戦闘要員として2年間一度も前線に立たず、戦闘能力のない物として活動し続けていたはずの雪奈が動き出した。





蜥蜴犬が口の奥を光らせながら倒れる山守に迫る。


(くそっ、足をひねったか)


山守はどうにか逃げようとするが、ブレスのせいで剣を掲げていた右腕は焼け焦げ感覚が無くろくに動かず、吹き飛ばされた際にひねったであろう足では満足に移動することすらかなわなかった。

せめてもの抵抗に蜥蜴犬めがけて光線を発射するがそれで終わり。蜥蜴犬にわずかな傷を負わせる代わりに山守は二発目のブレスの直撃を受けて死亡する。

そのはずだった。

覚悟を決めようとしていた山守の瞳に信じられないものが写った。

それは蜥蜴犬の右首が吹き飛ぶものであり、そして戦うことのできないはずの親友が、今まで使っているのを見たこともなかった長身細身の剣と、氷で作られたものであろう短剣との二刀流で横切っていく姿だった。


「康秀、前衛交代だ。後ろで休んでてくれ。  あと、いろいろすまなかったな」


そう小さく言い残して雪奈は素早く反転し片首を失った蜥蜴犬へと向き直る。

半狂乱となった蜥蜴犬は残った左首でブレスをはきながらガムシャラに雪奈に襲い掛かる。

そのことごとくを通常ではありえないような速さの体裁きで避けながら、蜥蜴犬のブレスが途切れた一瞬。雪奈は小さく跳躍し手にした【鳴速の片手長剣】を一閃する。

剣は綺麗な弧を描き蜥蜴犬の首にに吸い込まれていった。こうして、蜥蜴犬は自らが左首すら失ったことを知覚することなく断命した。



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