ラブパー 2
シャオーネ姫に連れられて、扉の前に待機していた女性騎士と共にもと居た部屋に帰り着く。
緊迫した空気で待ちかまえていた侍女さん達の表情が安堵で一瞬緩むが、次にはまた別の空気が場を包む。
知ってる……これはプロが仕事をする時の空気だ……もう、逆らうことは出来ない。
逆らうつもりも無いが、無駄のない動きで私の着替えを始める侍女さん達に私はひきつった笑みで「よろしくおねがいします」と伝えた。
さっと衝立が用意されて私はまた素っ裸にされた。
そして、私の髪の色に似たシルバーのホルターネックドレスを着せられていく。
はいはい、これはスパのスペシャルサービスですね。
高級スパなんでさっき隅々まで洗ってくれた侍女さん達にもう見られて恥ずかしいモノは無いのだ! ありませんとも!!
自分に言い聞かせ、ただされるがままになりながら、衝立の向こうのシャオーネ姫の言葉を聞く。
「まず、国賓であるあなたにお詫びしなければ」
とやけに堅い声で彼女が話始めたので
「ごめん、こんな真っ裸な状態で堅苦しい礼儀とか無理です……申し訳ない、無礼を承知で腹割って話してもらっていい?」
だらけきった声で衝立の向こうに声を投げた。
晩餐会はリベルボーダ主催で勇者一行は国賓である。彼女がきちんと立場をわきまえる教育をされてきているのはよく解る。
解るがしかし、それを理解した上で私はあえて崩して欲しいと頼む。
「なっ!あなたって人は……わかったわ」
ヴァルに薬をもったり、【初めの魔女】の所に騎士を送り込んだり、いかにも我が儘放題と思われたシャオーネ姫。
だけど、あの時少人数で直接乗り込んできた彼女と腹を割って話してみて、私は彼女を嫌いにはなれなかった。
魔王に良いように不安を煽られ彼女との話し合いはあれで終わってしまっていたけれど、彼女と〈前世での彼を寝取った女〉とは違う。
まぁ、そもそも私的には女より男に罪があるという持論で決着しているし前世の私自身に非がなかった訳ではない。
それは置いておいて、シャオーネ姫とは彼女が望むならちゃんと目を合わせて話したいと私は思うのだ。
忙しなく素っ裸で衝立越しとかじゃなくね。
シャオーネ姫はそれでも堅い声で話を続けた
「あなたをこの部屋から連れ出せるような状況をつくってしまった事と……その、疑って怒鳴ってしまった事、ごめんなさい」
頭のいい子だなって思った。
きっといろんな思いもあるだろうにちゃんと謝って私の要求にも柔軟に答える。
さすがリベルボーダの姫君だ。
「それと……あの時、あなたの所に突然おしかけてしまって……」
語尾が消え言いよどむ気配で彼女がどれほどあの事について考えたのか解る気がした。
感情豊かでそれに流されてしまうのは、きっと王族とか高貴な人々達の中では良くない事なんだろう。
実際、王族で美人ってあんた、威圧感は半端ないならね。
でも、私にしたらそれは人間らしくてシャオーネ姫ぐらいなら逆に好感がもてる程だ。
「いいよ。ここにこうして戻ってこれたしね」
だから、私はちゃんと謝罪を受け入れて許した。
それが、彼女の思いの結末であるならピリオドを打てるのは私だから。
とは言え、この部屋から連れ出された事に関しては私がぼーっとし過ぎだったと反省している。
ただ、それを口にすれば謝罪合戦幕開けになるだろうから、心の中で猛省だ。
シャオーネ姫が小さく息を吐いて、さっきより柔らかな声で呟いた。
「……よかった」
ドレスを着せられて侍女さん達が動きをちょうど止めた時だったから、その声は私の耳にも届いた。
侍女さん達の空気もふっと和らぐ。
会話がある程度落ち着いたと見て侍女さんの一人が言った。
「装備の許可をお願いします」
「え? 装備? このドレス?」
心地よい肌触りのゆったりめの上半身に、スカート部分は流れるように裾をひく美しいフレア。
声を掛けた侍女さんが頷く。
「テオール様からそう伺っておます」
シャオーネ姫や護衛もいるし、テオールが手をかけてくれたものなら、装備した瞬間にステータスにドクロマークがつく部類の装備品ではないはずと私はドレスにマナを流した。
途端に、フワッと上半身の布から魔法陣が浮かぶ。
「お願いします」
と許可を出すとドレスがピタッと私の身体に吸い付いた。
「ぬおっ」
吸い付いたというか、私の身体に合わせてドレスが形になったというか……
つか、布に魔法陣仕込むのは特殊な糸が必要でかなり高価なんだよね。それをこんな形状記憶合金みたいに使うとか、テオールの能力の無駄遣いも良いところです。
なにやってるのぉ天才魔術師よぉ~もっと高価な防具とかに使いなさいよぉ!!
このドレスが準備されたのはかなり短期間だった筈だ。
浮き出た魔法陣の複雑さに目をむきながら、これを朝飯前とか!? もうこれだからナチュラルボーンチーターどもは……とため息を吐く。
でもその無駄遣いは、何かから身を守らなければならなかった日々が終わって平和な時が始まった象徴のようでもあり……胸がほっこりした。
ドレスの装備が終わると──ドレスの装備とかまさにRPGゲームですよ! 次回は水着ですか!?──衝立が取り払われ、私の前には全身を映す大きな鏡が用意された。
シャオーネ姫が私のドレス姿を見て、ただでさえ大きなルビー色の瞳をさらに大きく見開いたのが鏡越に見えた。
高級なドレスなど見飽きるほど見てるだろうに、そんなに孫にも衣装だったかのぉっと鼻白んで鏡に映る私自身を見てみた。
「ぎょっ!」
ホルターネックのドレスとは思ってたけど、上半身からヒップラインまでピッタリフィットしたシルバーのドレスは背中が大きく開いていた。
合わせ鏡もいつの間にか用意されて、私は初めてこのドレスの全貌を目の当たりにした。
とっさに魚を被ったやけに声の高い魚類学者のタレントのような声が出てしまったとして誰が責められよう。
3分の2は見えてるがなぁ! なんじゃこの露出度はぁ!!!
私もシャオーネ姫同様に目をむいていると、さっと侍女さんが黒い透け感のある柔らかな──シフォンみたいな感じか──幅広の長い布を私の首に巻き後ろで蝶結びにして大きなリボンを作る。
リボンの端がヒップラインより下に長く豊かに垂れていて、背中の露出度が一気に減った。
ほっとしながらも、なんで素っ裸でドレス着るのかやっと理解した。
こりゃ、上はもちろん下も着てたら下着のライン見えまくりだもんなぁ
つかもっと前に怪しめよな私……orz
まぁ、バストはかなり形よくちょっぴり盛られております。天才魔術師の女子力高し!
自分の気の抜け具合に危機感を覚え始めた私は、しかし精神的ダメージが蓄積してしまって死んだ魚のような目でシャオーネ姫に問いかける。
「それで、今私って、どうなっちゃってるの? つか、晩餐会には間に合うのかな?」
「まだ余裕はあるわ」
とシャオーネ姫が経緯を説明してくれる。
ドレスを持って帰って来たら私が居ない事に気がついた侍女さん達はテーブルの上にあった「私のような下賤な者はあの方の隣には相応しくありません」
と書かれた紙を見つけたという。
この晩餐会はリベルボーダの王妃様が取り仕切っており、シャオーネ姫はその補佐として動いていた。
王妃様より自由に動ける持ち場にいて何かトラブルが起こった時、それを王妃様に伝えるかなどの判断を任されていたという。
年齢的にこちらの世界では既に成人しているのだ。
ホストとしての判断力を試されているのだろう、きっとお目付役もいてどうにもならない事態や判断を間違った場合には対処されるようになってはいる筈だ。
「すぐに私に報告がきたわ」
シャオーネ姫は私が逃げ出したと思って頭に血が上った。
フロアの警備は完璧な筈だ。
魔法や聖霊の力が働けばすぐ解る結界がはってあるがその反応はなかった。
刃物はもちろん錬磨媒体も侍女さん達が使う魔道具以外は預けられ大切に保管されている。
そこでフロア内に隠れてると踏んで、空き部屋を回っていたところ、のん気に茶をのんでる私を見つけたという事だった。
「犯人も必ず見つけるわ!」
と意気込むシャオーネ姫。
私は仕上げの化粧で眼力がどんどんUPしていく自分の顔から視線を外して彼女に言う。
「それは、スルーしない?」
「え? するぅ?」
「あぁ、無視ってことね。そもそも私が違和感に気がついてこの部屋から出なければ良かったことなわけで」
多分、犯人は私がちょっと恥をかけばいいぐらいの軽い嫌がらせをしたつもりだろう。そこが王城内だってのを失念するぐらい衝動的としか思えない犯行だ。そもそも、私が警戒して言うことを聞かなければ簡単に失敗するようなイタズラだ。
シャオーネ姫にとっては責任ある立場として見逃せないかもしれないけど、犯人探しとなると大事になる可能性もある。
せっかく平和な時を祝う晩餐会で、こんなどうでもいい事で場の空気を冷やす必要はないと伝える。
私が不問にしたいと言ってるので、どーかこの事はなかった事にして欲しいなぁと頼んでみる。
それでも、納得出来ないシャオーネ姫はその形の良い眉をしかめた。
「シャオーネ姫は今回の経験を活かして、次回は未然に防ぐ方法を考えて欲しい。今は晩餐会の成功の為に沢山ある仕事をこなしてよ」
ここにこうして留まっている間にも彼女がホスト補佐として動かなければいけない仕事はあると思う。
もし、なければ休憩して一息ついけていたかもしれない。
「私は、どうでもいい犯人探しに時間をさいてもらうより、シャオーネ姫に私が恩を売っておく方が得だと考えるわね」
ニヤリと笑った私の唇に紅筆をもった侍女さんの手が近づいてきたのでむっと唇を閉じる。
「……かなわないわ……」
瞳を伏せてつぶやいたシャオーネ姫が再び鏡に映った私と目を合わせて
「わかったわ。それじゃ私は先に行くわよ」
応接室で国賓を迎える準備をするという。
侍女さん達に目配せをして、颯爽と真紅のドレスを翻し去っていくピンと延びた背中が扉の向こうに消える。
「ふぅ……」
自然と息が深く漏れた。
メイクもちょうど終わって、私とシャオーネ姫のやり取りを仕事しながら無言で聞いていた侍女さん達も緊張感をほんのりと解いたようだった。
一番年嵩の侍女さんが柔らかい口調で、迎えの騎士が来るまでここでお待ちくださいとフカフカの高級そうなソファーへ誘導してくれた。
そして、室内に用意されていた暖かいお茶を出してくれる。
さっきのお茶も美味しいと思ったけど、このお茶の方が断然美味しい!
「迎えの者が来るまで私もここにおりますのでなんなりとお申し付けください」
そう言って彼女は私の視界に入らないようにソファーの後ろに待機する。
他は鏡や化粧の片づけをはじめて慌ただしく部屋を後にした。
さて、犯人は自分の嫌がらせを無かった事にされてどうでてくるだろうか……
王城内の侍女さん達はきっと身元のはっきりした人たちばかりだ。となると、私を空き部屋に誘導したあの侍女さんが怪しすぎる。
私はお茶を飲みながら後ろにいる侍女さんに雑談を仕掛けながらまったり迎えを待つことにした。
* * *
私は侍女さんを先導に、女性騎士2人に両サイドを守られて豪華な応接室の扉の前にたどり着いた。
侍女さんの手ですっと開かれた扉の向こう──晩餐会の会場へ入る前にパートナーと落ち合うためのウェイティングルームには華やかな雰囲気が満ちていた。
女性のドレスの色はもちろん髪色も前世には無い色合いが混ざり合い部屋の中は目にも楽しい。
室内の装飾品や魔法の明かりが煌びやかな空間をさらに豪華にしていて、夢のような豪華絢爛空間に私は息を飲んだ。
そんな色の洪水の中でも、私はその色を瞬時に見つける。
──ヴァル……!
心臓がトキトキと忙しく鳴り出す。
暗黒色の燕尾服をさらりと着こなし、自然に流すように整えられた黒髪に、いつもは隠れている形の良い眉毛が見える。
そして、銀の瞳が私を捕らえて、眩しそうに細められる。
厚めの唇が微笑みと共に緩んで白い歯が少しだけ見えると、溢れ出した色気におされ私はクラクラした。
「モニィ」
かけられた声が甘くて、緩む……なにもかも……うっうぉぉぉおお!
すみません……いえ、ありがとう!
私は激しくなる動悸と熱くなっていく頬と膨らむ鼻孔、緩む表情筋をどうにかしようと、止まっていた呼吸をゆっくり再開させこめかみに力をいれて微笑みを作る。
人波の向こうにみえた長身のヴァルが、器用に人々を避けながらこちらにやってくる。色気を撒き散らす微笑みを称えながら。
ぱねー! イケメン正装! まじぱねー!!
残念思考で残念な魂の叫びをしていた私は、トロリと細められた瞳を前にして、はっとした。
そして、やっと気がついた。
私の髪色と合わせたと思っていたドレスの銀色は、突然に別の意味を成していく。
ヴァルの瞳の色。
そして、彼の纏う漆黒は私の瞳の色。
「好きな色」と言った彼の声が、突然別の意味をもって私の思い出を塗り替えていく。
彼はいつからあの色を身につけていたのだろう。
二つ名になるほどに、常に身につけていた色。
彼の首元に巻かれたクラバット──装飾用のスカーフ状の布──は白に近い銀で、それが正に私の髪色だった。
だから、私の首に巻かれたリボンは彼の髪色。
なんとか抑えようとした蕩けるような幸せな感情が溢れて、もしここが家だったら絶対、ヴァルに飛びついて抱きしめてしまったかも知れない。
なんとか思い留まれたのは、動き出した彼の手を掴もうとした黒色ドレスの女性の手が見えたからだ。
私へ向かうヴァルを引き止める動きに見えた。
しかし、その手は空振りした。
ナチュラルに──無意識にヴァルのチートが発動して障害物を避けただけという動きに、その女性の手は空を切り見覚えのある赤い髪が踊った。
ヴァルの背景に映りこんだ黒色のドレス。まるでヴァルのお揃いですと言わんばかりのドレスだった。そんな衣装の赤髪の女性と目があって、水色の瞳が私を鋭く睨む。
おんやぁ? その髪色にはうっすら見覚えありますわよぉ? ……ふふふ、お前だったのかぁ。
私を連れ出した侍女姿の女性はその鮮やかな赤色の前髪が目を隠して、顔の印象は余りない。
しかし、髪色やそのぷくぷくピンクの色気溢れる唇は何となく覚えていたし、こうやって本人が分かりやすい主張をしてくれた事で事件はスピード解決した──私の中で。
ここにいるということで、今回の魔王討伐において功労者である筈だ。
あからさまに、ヴァルの服色に合わせて仕立てられたら暗黒色のドレスは、私では着こなせる気がしないほど色っぽい。
多分、私に嫉妬させようとしたのだろうか?
遅刻してきたら迷惑をかけたと恐縮させる気だったのだろうか?
私を連れ出せた事以外は見事に失敗である。
そして、ヴァルを彼女が引き止めようとして──もしくは、私に何かを見せつけるつもりだったのか?──完全スルーされたのを見て、私はただただ、彼女に「お疲れ様」と心の中で合掌した。
「ドレス……とても、にゃってっ……似合ってる」
ここで噛むとか、なんなの? なんなの?その乙女スキル!
決まらない! だが、そこに惹かれる萌えてまうやろ!!
私が背景に気を取られている間に、恐ろしく間をつめていたヴァルが照れながら、私を見おろして褒めてくれる。
些末な妨害は、この勇者の前になんの効力も持たない。
だってほら、私は彼の一言でウキウキしてしまってる。
私はまたドキドキと跳ねる鼓動と緩みだす表情筋にピリリと気合いをいれた。
乙女勇者にやられっぱなしでは、なんか悔しい。
そんな無駄な抵抗を私はしてみる。
「ふふ、私ね、最近だけどこのドレスの色をとても好きになったんだよ」
きっと間違いないだろう彼のトレードマークの服色の理由を重ね合わせて、からかってみる。
効果覿面とはこの事ですか? と言わんばかりに彼の頬が朱に染まる。
あわてて、両手で顔を覆って俯いてしまうヴァル。
きゃわわわ!!
もふりたーい!その頭なでなでさせて欲すぃ~!
いえ、しません! せっかく格好よくセットされてるのでしませんとも!
想像だけで留めておきますよ、ハイ!
「ヴァル、せっかくだからちゃんと見せて『私の好きな色』をさ」
ひひひ、追い込むぞぉ~♪
私は背の高低を利用してヴァルの顔を下から覗き込む。
もっと追い込んでもっと萌えるイケメン映像を心のハードディスクに永久保存じゃ!
「ぬっ、いや待って待って、今俺ほんと見せられる顔でない、です……モニィ、勘弁して、ください」
敬語になりながら顔を隠したまま私から顔を背けようとするヴァルを「ひひひ」などと言いながら必要に追いかけるように覗き込む私。
あかん、こりゃ私は完全に変態だ。
「はいはーい! いちゃつくのはその辺にしてくださーい」
鈴のなるような声が聞こえて、そちらをみればピンクのドレスにカラフルな赤・青・黄・緑の花のコサージュが散りばめられたテオールがやってくる。
首には蔦をイメージした薄い緑色のネックレスだった。
「いろいろ予習したのにぃ~、アグりんの一言で撃沈かよ。へたヴァルく~ん」
薄い緑色の髪はオールバックにきっちりまとめられて黒に近い深い紫の燕尾服、青紫のクラバットを着たルートもニヤニヤと笑いながらテオールの後ろについて来た。
ルートは本来は桃色の瞳なのかぁ。
いつも、細められた目の奥を覗き込むほど近くで観察したこともないので初めて知った。
私がテオールのドレスを見て、ルートの顔を見たのに気がついてロリボイスが自慢げに言った。
「おほほ! 本日の勇者パーティーのドレスコードの意味に気がついたみたいね♪」
胸を張るテオールは、ツインテールをフワフワに巻いてあるのもあいまってとても可愛い。
「テオール、ドレスの調整ありがとうね。そして、そのドレスめちゃくちゃ可愛いね」
深い紫色の瞳をじっと見て本心を伝えると、ふん! 当然でしょ! と頬を染めるテオールを見てから私はルートへニヤリと目線を送る。
「俺の色だから、テオールに似合わない筈はないよね~♪」
などとのたまった。
はいはい、お互い様でした。
ステビアステビアぁ~。
「わぁ、アグリさんとても、とてもお似合いです!」
ふんわりとしたレイナの声が近づいてきた。
──警戒態勢! 大量ステビア接近注意!!
蒼いドレスは肩から二の腕を隠すゆったりとしたパフスリーブでそこから手首までしっかりと布で覆われている。
デコルテ部分は金色のレース状の布がしっかりと隠して、首から顎の下まである。
さらに、そのハイネック部分には金の首輪──否! チョーカーがしっかりとはまっていて、聖職者だからなのか、誰かさんが露出を許さなかったのか、華やかではあるが落ち着いたドレスだった。
案の定だけど、その腰にはしっかりと腕が巻きついており、端からみたら場慣れしてない聖女のフォローをしている紳士がうっそりと隣に控えていた。
濃い焦げ茶の燕尾服に、同色のクラバット。
金髪碧眼の聖騎士様は何処にいても様になる。
「シックだけど、センスのいいバランスだね。金と青でめちゃくちゃ高級感あるよ」
私が言うと
「ありがとございます。でも、ピンヒールが慣れなくて……フラフラしてしまうんです」
嬉しさの中に少し困ったように眉を寄せるレイナ。
──でたー! 絶対策略だ!
身内には、バレバレですよ。
溺愛リーダーが腰を支える為に、ピンヒールを用意したんだろ!?
こいつはそう言うやつだ!
「あぁ、そうすればよかったぁ」
とヴァルが呟いたのを私は聞こえなかった振りでスルーした。
すぐ、見習うのやめなさいね、おヴァルちゃん。
私がフォスターを睨むと
「ふっ」
勝ち誇った様に鼻をならした聖騎士様は、とても満足気にレイナを支えていた。
だめだこりゃ……
八時になるとみんな集合しちゃうバラエティー番組よろしく、私の諦めきった脳内ツッコミが決まったところで
「お待たせいたしました。準備が調いましたので皆様、こちらへ」
と王妃殿下の声が響いて晩餐会の会場の扉が開かれた。