ラブパレ・後編
本日、2話目の投稿になります。
ラブパレ・前編 を読んでない方は、前の話へ
では、続きをどうぞ♪
ブラス隊の華々しいファンファーレが耳から魂に突き抜ける。
──来た!!!
どぉぉぉおおお!!
足元から人々の歓声が地鳴りのように上がった。
私は身を乗り出して大通りの先を見つめる。
最初に現れたのは、
──クケェーーーー!
金属音を調整して本物のようにそれが鳴く。
マギ式グアラランだ!
トサカの上に、出陣の時にはなかった虹色の王冠をちょこんと載せて、浮き出る魔法陣はさらに美しく、扇形の尾羽根も虹色に輝いていた。
その愛嬌ある動きで音楽隊のリズムに乗り、楽しそうに闊歩する。
騎乗するのは、その操り手であるテオール・アイヒホルン。
それを後ろから抱きかかえるようなルート・ロロキ。
ルートの周りには四色の守護精霊達が小人のような愛らしい姿で具現化していた。
炎の姫はグアラランの王冠の中で楽しそうに。
雷帝はルートの肩にちょこんと馬と一緒に腰掛けてる。
土竜はテオールの膝の上で欠伸をして。
水氷の女王はルートの頭の上で澄まし顔。
そんな事できるの?
つか、SDキャラ化した精霊王達が超カワイイ!
ラバーストラップとかグッズ化しないかなぁ……マジで欲しいほど可愛いのですがぁ。テオールとルートに許可もらって作ってみようかなぁ。
そんな二人がこちらに気が付いた。
私は声を張り上げて手を振る。
キャーこっち見たぁ!!!
単なるファン化してテンションが上がる。
と、ルートがニヤリと笑い、突然テオールの顎を捉えて……
──キャーーーーー!!
──うぉぉおおああ!!
観衆から驚きや冷やかしの混じった声があがる。
……キスしたよ……
まじか、オイ……公衆の面前でラブラブアピールですか?!
ルートから唇を離したテオールが真っ赤になってプンスカ何か言っている。
ポカポカと殴られながらも、ルートは上機嫌だった。
ご……ご馳走さまです。
私は目の前を通り過ぎていくラブラブ劇場にいろんな意味で手を合わせた。
そして、次の山車が見えてくる。
最初に姿を現したのは純白の法衣にフードを目深に被った集団。
彼らが金色の錫杖を空にかざす!
──リンリーン
澄んだ音が空気を一変させた。
フードの集団が高らかに歌い出すと調が変る。
純白フード集団の歌声に後ろからストリングスの流れるようなメロディーが加わった。
静謐な調べの中、馬の蹄の音が聞こえてくる。
わぁ!馬が、馬が増えてる!!
白馬の大軍には白銀の鎧に身を包んだ聖騎士が騎乗し、【神おわす聖なる国】の国旗と教会の紋章が旗槍にはためく。
それが引いてきたのは眩いほど白く、長さも高さも出陣時より立派になった屋根なし馬車。
装飾は金色で、蒼い縁どりも上品で神々しい。
その頂点に二人。
寄り添うのは、優しく微笑む聖騎士フォスター・オルロフと聖女レイナ。
仲むつまじいその姿は、誰も疑う事が出来ないほど二人の世界を構築していた。
その美しい光景に、人々はため息を漏らし聖女の慈愛の微笑みに涙する程だった。
出陣時には無名だった聖女は、黒い霧の広域浄化やタゴレ解放などの活躍によりその神業に崇拝者はうなぎ登りだ。
そして魔王からその聖女と仲間を守り抜いた聖騎士フォスター・オルロフに人々は拍手喝采した。
優雅に手をふる二人が私の目の前に来た。
私も負けじと拍手を送る。
レイナが私を見つけ手をふる──その時。
フォスターがレイナを抱きしめて熱くキスをした。
うはっ……君らもか……
観衆もヒューと口笛を鳴らすもの、悲鳴も少しは混じっていたが、二人の雰囲気からして当然とばかりにどっと歓声が上がる。
私も、「ご馳走ぁー!!」と叫んで、その歓声に加わった。
ぽぅとフォスターを見上げていたレイナがはっとして私を見て、照れまくった真っ赤な顔で笑う。
その後ろで、挑発的に口の端を上げるフォスターの言いたい事がわかってムカつく!
うらやましいだろ? てか?!
ああ! うらやましいよぉ!
彼らは公衆の面前で交際宣言してるのだ。 自分にはこの相手しかいないという宣言は今後の、起こるであろう恋愛関係の諸々に予防線をはる為だろう。
そうだよね……彼らとは違う私の立場を思った。
シャオーネ姫を筆頭に、ヴァルを狙って来る女性はきっとこれからも増えるに違いない。
ヴァルが裏切らないと信じる事は出来るが、粉を掛けてくる女性がベタベタとヴァルに触ってくるのに嫉妬心を抱かないでいられるかは解らない。
はぁぁ~相手が相手だけに心穏やかにってのはなかなか難しいよねぇ。
以前から思ってたけどフォスターもルートも場所を選ばずイチャイチャしてたよなぁ。
あれって、こっ恥ずかしいとか思ってたけど、ああいう人達にとって大切なパフォーマンスなのかもなぁ。
勇者はアイドルとかタレントとは違うもんね。どっちかと言えば、金メダリスト的な感じかな。
しかし、こんなラブラブワールド展開しちゃってさぁ~、これからやって来るヴァルのボッチ感ぱねーなw
まぁ! 出陣の時とは違って恋人はいるんだがねぇ~。
ふははは! それは、私だぁ!!!
などと脳内では──脳内に限り強気に宣言してみる。
現実では、その他大勢の一人……なんだけどね。
なんだか当てられて、ため息がでる。
そして、すこしだけ……ほんのすこしだけ……残念だなって思ってしまっている自分を自覚したんだ。
あの時、魔王戦後。
私は英雄になる資格はないと判断した。
ここまで努力を重ねてあの場にいた彼らと、フォーサイシアお婆ちゃんや魂産巫女様の加護がなければあそこに居られなかった私。
だから、その選択を間違ったとは思わない。けど……もし、あそこで別の選択肢を選んでいれば、テオールやレイナのように頬を赤らめながら、誰にも邪魔されない至近距離でヴァルと一緒に居られたのかも。
ははは……たく、つい二日前に思いを伝えたばかりで、散々イチャイチャしたくせにな。
欲張りな自分の思考に苦笑する。
いつかは私もヴァルとあんな風にできるんかなぁ……なんて通り過ぎていく白い集団を見送っていると、
「おうおう、やってんなぁ」
ちょっぴり恋する乙女おセンチ風な私の思考を吹き飛ばすあっけらかんとした声が後ろから掛かった。私は振り返りながら言う。
「やっと来たねジグザ兄ぃ」
来いと言った癖に、結局パレードの準備や警備の手配など諸々の事情で忙殺されたギルマス──ジグザ兄。そんな彼と話が出来たのは夕べの深夜にグラス一杯の酒を飲む間だけだった。
ヴァルとの事を話し、残念ながら未だに生娘である事を嫌みたっぷりに伝えると爆笑された。足をしこたま踏みつけたが、その笑いは一杯のグラスが空になるまで続きましたとさ……とほほ。
「ふぅ、間に合ったぜ」
「お疲れ様、今夜のつまみに私の恋人見物しよぉぜ!」
私もジグザ兄のあっけらかんを見習ってこの場を楽しむ事にする。
「ははっ、いいノロケ具合だ。うまい酒が飲めそうだ」
私の横で、でっかい体が石の手すりにもたれる。
「まぁ、その前にもう一仕事だがな」
顎髭をゾリゾリと触りながらニヤリと笑うジグザ兄。
パレードの後処理があるのだろうか?
「手伝うよ?」
と私が言うと、
「あぁ、ご協力願うぜ」
ニヤリと笑ったまま熊面が目線を大通りへ向けた。
──ドーン、ドッドッドッド、ドーン
パレードは白の世界から一転。
雄々しい黒の世界へ。
響いてくるのは原始的な太鼓の音。
屈強な男達が太鼓のリズムに合わせてゴウゴウと燃え盛る大きな松明をブンッと振るう。
飛び交う火の粉が夜空に舞った。
男衆達はタゴレの民族衣装を纏っている。
頭に黒と白の鳥の羽根を差したバンダナを巻いて、顔には戦化粧と思われる勇ましいペイントがあった。
腰には黒い短い布が巻かれている。
日に焼けた素肌、厚い胸板。そこには、心臓部分でクロスするペイントが施され、屈強な腕には銀色の腕輪がはまり、剥き出しのぶっとい太ももにはダゴレの国章が描かれていた。
そして、雄叫びのような歌が聞こえてくる。
低く熱く響くそれは魂の叫び。
その中を黒い鋼製の巨大な馬が姿を現した!
銀色の装飾を施されたそれのまえがみ部分に、颯爽と立つ漆黒の戦士はヴァル・ガーレン。
愛剣である巨大な刀身は彼の後ろ──頭部分に立てられている。
──あぁ……
言葉がうまく紡げない。
腕を組みじっと前方を見据える銀の瞳。
漆黒のマントがその黒髪と共に夜風にはためいた。
笑顔はないのに、その顔を見れば心が安心感で満たされる。
おかえりなさい。
お疲れ様。
そして……思いは溢れて、
──おぉぉおおおおお!!!!
観衆達が叫ぶ!
魔王への最後の止めをさした勇者ヴァル・ガーレンに最大の讃辞が降り注ぐ。
「ありがとう!!!」
私も叫ばずに居られなかった。
私の日常を、お婆ちゃんが守ったものを、この世界を救ってくれた勇者のひとり。
そして、私の大切な、大好きな人!
「ヴァルーーーーーー!!!」
皆に混じって大声で名を呼ぶ。
それが溢れる感情で涙を含む。
帰ってきたら沢山なでなでしてあげる!
そして、沢山甘えるよ!
「ヴァル・ガーーレーーーン!!!」
隣でジグザ兄も叫んでいる。
いや、吠えているといっていいほどの大音量。
それがなんだか嬉しい。
すると、ヴァルがジグザ兄の声にこちらを見た気がした。
すげーな、さすがギルドを束ねる長だよね。
体だけじゃなく声もでかい。
なんて、笑っていたら
「お前の【初めての魔女】はここだぞー!!!」
ちょっ!!! なっなんて事をいってますのぉぉおん?!
私は初めの魔女であって、初めてじゃないから!
そこに『て』とかつけちゃうと、なんか意味深過ぎるからぁ!!
ギョッとして、ジグザ兄を見た私は赤くなってるはずだ。
──キャーーーーーーー!!!
黄色い歓声が上がる。
何事?! とパレードに目を戻しヴァルを見た。
そこには極上の笑みをたたえた激イケメンがいた!
キャーーーーーーー!!
私も叫ばないでっかぁ!
合格! 100点満点!!
それそれ!
これはもう気絶レベルの麗美スチルですわぁ!
とか大讃辞を送っていると馬頭の漆黒の影が突然飛んだ。
──え?
トサッと軽やかに目の前──無骨な石の手すりに降り立ったそれに目を見張る。
観衆も山車から忽然と消えた勇者の行方を追ってざわめきだす。
私は突然どアップになった極上スマイルに完全にやられていた。
「わーお……」
いや! 違うだろここはっ
「なんでさっきまであそこにいたヴァルがこんなところにぃ?!!」
やっとツッコミが出て我に返った。
ふわりと漆黒の髪が銀色の瞳の上をかすめて揺れる。極上の微笑みをたたえたまま手すりから音もなく降り立った戦士が、
「モニィを連れて行きます」
私の頭越しに話しかける。
「はぁ?」
素っ頓狂な声が出てヴァルの目線を追えば、熊面がフンっとほくそ笑んだ。
「けっ! 後でちゃんと報告しにこいよ!」
「ちょっとどういうっ」
ジグザ兄に詰め寄ると両脇の下にデカい手が差し込まれ、ふわっと足が浮く。
「はっ?! えぇ?!!」
突然の事に脳内が真っ白。
「はい!」
ヴァルの上機嫌な返事。
そして、私は逃走する術を絶たれた事に気がつく暇もなく、後ろから来た腕に横抱きにされる。
「最後の仕事はこれでしまいだぁ、楽しんでこい妹よ! ガーハッハッハーー!!」
という声が聞こえたと思ったらふわっと体が浮いて、すぐに落下する感覚がくる。
訳も分からずお姫様抱っこされた私はヴァルにしがみついた。
「ひゃぁぁあああ!!」
ど、どーなってんどぁぁあああ!
──スタン
着地の振動も軽やかで、感覚的には一段飛ばしで階段を降りたぐらいの衝撃しかなかったが……
──どぉぉぉおおおお!!!!!
──きゃーーー!!!!
歓声が空気を震わせて私を包んだ。
私は突然パレードのど真ん中に降り立っていた。
そう、さっきまでヴァルのいた鋼製の巨大な馬の頭部分。
「ちょ、ま、ちょっち、まっ」
混乱する頭は、さっきまで観衆として見ていた光景に自分が入ってしまっている事をなかなか現実として受け入れられてないようで、
──ドローンの空撮みたいでない?
と鋼の馬頭からの景色をまるでテレビ画面越しに見ているようなそんなふわふわな状態だった。
「モニィ」
耳元で甘い声がする。
自然に目があって銀の瞳が私を心ごと捕らえた。
──トキトキ
小さく震えるように私の心臓が鳴る。
大歓声の中、それでも私はその音が耳に聞こえる気がした。
赤く染まる頬を隠すためのフードがこのマントには無い。
ちくしょぉ……ルートやフォスターの仕掛けに、まんまとハマってしまったなぁ。
悔しくて心の中で悪態をついてみた。
でも、本心は羨ましくて……だから、ちょっぴり残念程度でなんとか誤魔化してたのに。
──ほんとやってくれる。
私はやっと思考が追いついてきた。しかし、戸惑いや執着心なんて恋する乙女がおちいる可愛い感情をすっ飛ばして、結局は……
「ありがとう、ヴァル」
彼がこうして私をここに居させてくれる。
それはつまり、ヴァルが私との関係を先の二組のように公に宣言してくれるって事で。これから来るであろうやっかみや嫉妬への不安よりも何よりも。
ただただすっごく嬉しかった。
ヴァルは嬉しそうに笑う。
すぐそこにある笑顔がさらに近く。
自然と目を閉じると、柔らかくて心地よいキスが私の唇に落ちてくる。
幸せが唇から全身に伝わる。
抱きしめられてる腕の力強さ。
彼の鼓動が伝わってきそうで、そっと鍛えられている胸板に手をあてる。
ふっと離れていく唇に名残惜しさを感じて目を開くと、やっぱり大好きなヴァルが嬉しそうに笑ってて。
私も笑みを返す。
──わぁぁぁぁああああ!!!
歓声が怒涛のように耳に入って来て私は我に返った。
そして、すっ飛ばしたツケが帰ってきた。
──ぐぉぉぉおお、こっぱずかしいぃ!!
ヤツらの思うつぼ……チョロチャンデスガナァ……
すっかりラブラブ劇場にのせられて、本来ならハードル高過ぎで出来ない筈の公衆の面前でのキスとかしちゃう私って。
今更に照れだした私をヴァルが覗き込む。
「モニィ?」
心配そうな声。
「あっと、その、照れてるので……ほっておいてかまわないから」
そう伝えると、何故かヴァルの頬がどんどん赤くなっていった。
「助言されて、実行しようってここまで突っ走ったけど」
ヴァルは頬を染めながら
「なんか俺も照れてきた……ははは」
そう言ってくしゃりと笑うから、私も同じように笑う。
「ははは……なんか前の二組にすっかりのせられちゃったね」
くすくすと二人で笑う。
大歓声の中。
夜空に煌めく魔法陣と祝福。
舞い散る花びら、舞い上がる色とりどりの紙片。
吟遊詩人が歌い、精霊達が踊る。
そんな中で私達は幸せを噛みしめて小さな声で笑いあった。
みんなに心の中で宣言する!
──彼は私のもの。私は彼のもの!!
凱旋パレードはリベルボーダの城へ向けて進んでいく。
そして、私達も未来に向けて一緒に進んでいくんだ。
「あっ、でも」
「ん?」
「これからは、公衆の面前でキスは控えましょう」
人差し指を彼の唇に当てて言うと、ヴァルは頷きながら
「レッスン3?」
と聞いてくる。
「いや、レッスン1の補足かな?」
了解と言ってヴァルは再度頷く。
しかし……ちょっと待て……
「あの……ヴァル」
「他にも追加?」
よしこい! って感じの顔で私を見るヴァルに首を横にふってから純粋な疑問を投げかける。
「私……ここからいつ降りるのかなぁ?」
「俺と一緒に王城で降りる」
「そかそか、とりあえずパレード中は一緒に居られるって事ね」
こっぱずかしいけど、幸せなこれはもう少しで終わる。
リベルボーダの王城が大通りの向こうに、立派な門を構えて建っている。
あそこまでかぁ、それまで楽しむぞっ!!
とヴァルに抱えられながら、上機嫌で辺りを見回していると
「その後、祝賀パーティーで一緒に食事」
「わぁ、晩餐会いいなぁ」
城の豪華な食事を思って、食べられるヴァルが羨ましいとか考えたところで気がついた。
「……へっ? 一緒?」
「俺の席の隣にモニィの席用意してもらってるから」
さらっと言ってのけたその勇者は、そうヴァル・ガーレン!
「えっ、えぇぇぇぇえええ?!」
私はヴァルの繰り出した言葉に、いろいろ麻痺してた感覚がやっと本来の形で戻ってきた!
──なんで、そんな話になってんのぉぉぉおおお!!!!
ブクマ・評価・感想ありがとうございます!
励みになります<(_ _)>