ビギラバ
お待たせしました。
本編終了時後、二人がご飯たべながらまったりしてます。
今夜の魔女飯は?
☆ハンバーグと卵スープ
これに、炊きたての白飯
普通ぅ~いたってフツウゥ……
いや、だって何の用意も出来なかったんだからしかたないじゃんかぁ!
「うまっ!!!」
なんの変哲もない、いたって普通なハンバーグを頬張り、飯をかき込むヴァル。
白い軍服から黒いゆったりとした上着と黒い柔らかい生地のズボンに着替えた彼は、この世界でも一般的なおかずをそれはそれは美味しそうに食べている。
ちなみに、普段着と思われる黒い服は軍服のポケットから出てきた。
魔法陣の仕込んであるアイテム収納スペース付きの軍服なんだね。式典用の軍服にそんなん仕込むって……まぁ、あれ着て要人警護とかするなら戦闘もありうるのかぁ?
式典舐めたらあかんな。
私も料理する前に着替えて今は白いブラウス膝下丈の黒いスカートだ。急いでいたのでこれまた普通の格好です……はい……
スープを啜りながら、湯気の向こうの彼の笑顔をみて私は頬が緩む。
今世の初彼への初手料理がどんどんその口に納まっていく様を見てフワフワとした幸福感に包まれた。
こうやって、ここの食卓を誰かと一緒に囲むのは久しぶりだなぁ。
工房の奥にあるキッチンスペースは、コンパクトで使いやすさ重視だから、決して大きくない。だから木製の使い込まれた食卓も、二人分の食事を並べると手狭に感じる。
手を伸ばせば、相手に触れられる──そんな距離に好きな人が居るのがなんだかくすぐったい。
お婆ちゃんと二人で食べたのは二年以上前になる。たわいない話をしたり、お店にくる近隣の村人の話をしたり、うちの実家や旅の思い出を話したり。
それが無くなって……いつの間にか独りで食べても寂しく思わなくなってた。
たけど……この机も二人で囲めば暖かかったんだなぁって思い出した。
ハンバーグをナイフで切って口に運ぶ。
じゅわっと肉汁が口の中に広がった。
うまく作れたなと、目線をヴァルへ向ける。
彼は付け合わせのニンジンのグラッセもニコニコしながらもぐもぐと食べる。キャベツの千切りにレタスを混ぜ、自家製のドレッシングをかけただけのサラダをワシワシと口に入れて、大きめに切ったハンバーグを頬張り、頷きながら食べている。
君は、『腹が減って死にそうだ』が口癖の下戸なのに居酒屋に入り旨い飯を自分の信念で選び、もくもくと食べる輸入雑貨貿易商を個人で営む人かぁ?
脳内では『いいぞ! ハンバーグいいぞぉ!』とか言ってんのかなぁ。
あの深夜の飯テロはヤバかった。
そんなどうでもいい思考が回るぐらいすっかり和んでいる自分に苦笑する。
フォークに大盛のライスのせ、はぐっと口にいれたヴァルがそんな私の苦笑に気が付いてこちらを見た。
「うまいっす!」
にかっと笑うその顔が、無邪気過ぎて更に吹出しそうになる。
そして──マジかぁ?!
ヴァルの口元に付いたご飯粒ひとぉつ!
私はまばたきで二度見した。
──これは! ご飯粒取ってパクしなきゃいけないあれかぁ?!
いや、それどーなの? やっちゃっていいの?
いいのかぁ? 否、私はヴァルの恋人なんだし? いいよね? いいよね!
なんの決意を固めてんるだと自分ツッコミしながらも、イケメンの口元ご飯パクチャンスを逃す訳にはいかない!
私は持ってたフォークを一度皿に置く。
よし! やるぞ!!
そう! 何を隠そう私は残念な思考の持ち主だ! やってやる、飯パクチャァァアンス☆
心臓がバクバクしてるけど、それは長年培ってきたぶっきらぼうスキル(そんなの無い!)を駆使して、さりげなさを装って手を伸ばす。
「ご飯ついてる……ぞっ」
──がっしかしだぁ!
「え? あっ、はは」
素早く口元を手の甲で拭い、そこに付いたご飯粒はぺろっとヴァルの口の中に、ゴォォオル!
……速い。
勇者の反応速度舐めてた!
私は脳内で『Noooo!!!』と叫ぶ。
差し出した手をさりげなく指差しに変えてショックを握り潰す。
次は声をかけないと心に誓った。
いや、そんなのどーでもよいのだ。
とりあえず、私もフォークを持ち直し食事を進めながら、なんとなく照れ隠しで話題をふる。
「そうえば、絵本の代金払わなきゃね」
ハンバーグを三分の1残して白飯を食べきってしまったヴァルは名残惜しそうにご飯粒の残る皿を見ていた。
おかわりいる? と手を差し出すと嬉しそうに「お願いします」とお皿を渡してくる。
「あの、絵本は俺からのプレゼントです」
両手を膝に置いてご飯のおかわりを待ってる姿にほっこりしながら、白飯を皿に盛る。
「え? いいの?」
白飯のお皿を目の前に置きながら訪ねると彼は少し顔を赤らめながら私を見た。
「俺、まだモニカさんの好みとか解らないから、でも何か……その今日の記念になるものとかプレゼントできたらって……だからその絵本はプレゼントしたいと思って」
この絵本自体はそこまで高価なものではない。
照れながら理由を一生懸命語るヴァルが可愛くて、私はその心ごと頂くことにする。
「ありがとう」
ご飯のお皿をヴァルの前に置いて、私も目を見てお礼を言った。
「後で、一緒に読もうね」
そう言うとヴァルは「だはぁっ!」みたいな意味不明の言葉を発して大きく頷いた。その笑顔がまた嬉しそうで、私も「むぐふっ」と意味不明の音を発して頷き返す。
もう、ニヤニヤが止まらないんですけど……恋愛ってこんなんだったけかぁ。
久しぶりの感覚に酔っ払ったみたいに頬が熱くなる。
「ほぉら、冷めないうちに食べな」
隠し切れない照れが言葉に乗ってしまうが、待てスタイルだった彼は許可を得て、意気揚々とご飯に戻った。
「でも、それなら私も何かヴァルに送りたいなぁ」
食事を再開してヴァルに訪ねる。
「何か欲しいものとかある?」
さっきより空腹が落ち着いたのかゆったり味わう感じで、もぐもぐと咀嚼しながらヴァルはキラキラと私を見た。
「そ! それならっ」
ゴクンと口の中のものを飲み込んで彼は言う。
「特別な呼び方が欲しいです」
テオールやルートが『アグりん』と呼ぶのが羨ましかったらしい。
「モニカさんという呼び名は、初めの魔女の時は控えた方がいいですよね?」
その辺りの察しの良さに、さすがいろんな経験を積んだ勇者だと感心してしまう。
銀の瞳が真剣に私を映す。
あぁ、この目もカッコよくて好きなんだよなぁと見とれてしまう。
「だから、誰の前でも呼べる俺だけの『呼び名』が欲しいんです」
ヴァルだけに許す呼び方──しかも誰の前でもって!
くっそ嬉しいじゃないかぁぁあ!
きっとそれは彼にとっては無自覚な独占欲。
乙女な思考回路のヴァルは、その特別が周りにどんな風にとらえられるか知っているだろうか。
でも私は、そんな小さな独占欲がこんなに甘く心地好いって今まで知らなかった。
胸がキュンとして食卓がなかったら抱きついていたと思う。
「いいよぉ」
上がる口角をごまかすように私は甘ったるいニンジンを頬張る。
「ついでにさぁ、敬語もやめないかい? 勇者殿」
冗談めかしてないと痴女化しそうでヤバい!
「あっ、そ、そうですっ……うっ、そうだね、だな……だのぉ?」
「そうだのぉって、なんじゃい!」
ツッコミ入れて、我慢できず吹き出してしまう。
慌てて訂正を重ね、何がなんだかわかんない事になってるヴァルが面白い。
「もぉ、そんで? なんて呼びたいの?」
クスクスと笑ってしまいながら、聞くと、
「あっと……それが……具体的には考えてなくて……」
私が笑ってしまったせいか、すこしションボリしてヴァルはスープを飲んだ。
* * *
ああじゃこうじゃと話した結果……
「モ……モニィは末っ子なんです……末っ子?」
そこで、照れられると私も恥ずかしいんじゃぁ!!
というわけで、アグリモニーとモニカに共通する部分を取って『モニィ』となりました。
響き的になんか可愛い過ぎる気がしてこそばゆいが、『アニー』とか出た時、どう考えても英語で明日を繰り返すアフロ風ヘアでソバカスほっぺの女の子が出てきて無理だった。
さらに余談だけど、ひっくり返して『ニーモ』ってのは魚にしか思えず『グリー』だと、やっぱり歌い出しそうで却下でした。
「いや、下に弟がいるよ。 ヴァルは?」
呼び名の話で、両親はモニカって普通に呼ぶし、兄ちゃん達から『モニッこ』と呼ばれた事もあったと話した。
「一番上は兄で二人姉がいて、俺は末っ子」
「ははっ、なんかそんな気がしてた」
私もヴァルも食べ終わったので、すっかりお皿をピカピカにした彼にお茶を出す。
「負けず嫌いなところとか末っ子っぽいもんね」
ありがとうございますとカップを受け取り、無意識に敬語になるヴァルはいつもの持ち方でお茶をすすり、少し拗ねた顔をした。
「最近はあまり言われないんだけどなぁ」
「そりゃ勇者にまでなると、そんな事言われないでしょーよ」
負けなかった結果が勇者という立場ってことでしょぉに、この子は……。
「俺には出来ない事はあるし、勝ち負けじゃないってちゃんと解ってま……る」
うんうん、そーだよね。
そうやって、己に厳しく進んで成長して魔王を倒したんだもんね。
感慨深いなぁと目が細まる。
十分解ってるけど、こういう所をかいたくなっちゃうんだよね、ぐひひ。
「でも、15の時のヴァルちゃんは我が儘っ子で負けず嫌い感ありましたよぉ」
するとヴァルはガックリとうなだれて、
「それを出されると、なんも言えない」
しょぼんと呟くヴァルが──もう! 可愛いすぎるぅ!
「あと、そういう甘えん坊っぽいところ?」
ヴァルのお皿を下げるついでに彼のほっぺたをムニッと摘まんでみる。
眉を八の字に下げて横に立つ私を見上げる顔は『くぅ~ん』というわんこようだ。
むほ~ぉ、わしゃりたい! その頭わしゃりたい!
「モニィは、なんか一番上の姉ちゃんっぽい」
やっと砕けた口調が自然に出て来たのが嬉しい。
皿を持ってるからわしゃりたい欲求が解消できない。とりあえずささっと洗い場に食器を持ってく。
「まぁ前世の記憶がある分、兄ちゃん達の面倒をみてたってのはあるよね」
うちは兄が3人いて下に弟がいる。
一人女の子だったのでかなり甘やかされていたけど、10歳で前世を思い出してからは、将来(フォーサイシアお婆ちゃんに弟子入りする計画)の為にかなり頑張った。
そして、しっかりもののモニカちゃんとなり、私が居なくても母さんが困らず、兄達がやっていけるように家事や洗濯をいっこ上の兄と弟にがっつり仕込んだ。
ヴァルは「それでかぁ」と納得した声で呟いている。
「なに? 口うるさいとか?」
やけに納得するからどういう所がヴァルにとって姉ちゃんっぽいのか気になる。
私は食器を洗いながら後ろに声をかける。
「甘えるのが下手な所」
突然後ろに人肌を感じたかと思うと、耳に息がかかるくらい近いところで声がした。
──どきっ!
艶っぽいその声が前からお気に入りだったけど、そんな息混じりに耳元で囁くとか?!
それなんてバイノーラル録音CDなんですか!?
違うわぁ! これ現実だった、そう、これはヴァルのーらるぅぅう!!?
ひえ~と突然の甘い空気に心臓が跳ねる。
仕返しか?! からかった仕返しなのか?!
勇者の気配0による背後0距離への接近は、相変わらず私を翻弄してくる。
「こっ、こら! 洗い物してるんだよ」
「手伝う」
とか言いながら腰からお腹へと手が周り、ギュッと抱きしめられる。
背中にヴァルの体温を感じて頬が熱い。
レベルアーーーープ!
なんかヴァルが、なんか恋人とのスキンシップレベル上げてきてる!
「も、もう、それのどこが手伝う状態なのよ!」
と顔を見て抗議しようと首を捻ると、これまた蕩けるような笑顔があって、すっと顎を片手で捉えられて唇に軽くキスされる。
「なっ……」
言葉は銀の瞳に吸い込まれたように、後が続かない。
「俺、頼りないかもしれないけどモニィが甘えてくれるような恋人になりたい」
キュンキュンするんじゃぁーー!!
落ち着けぇー落ち着けぇーこいつは天然なんだ、末っ子で甘え上手さんなんだ。
甘やかしてくる甘えん坊ってどう扱うの?
私の余裕さん! 戻ってきてぇ!!
「ほほう、じゃぁ甘えてお皿拭いてもらっちゃおうかなぁ?」
石鹸水で汚れを落とした皿を真水の入ってる桶に沈ませながら、なんとか余裕風に言ってみる。
はい! と上機嫌に返事してあっさり私から離れて隣に並び、かけてあった布巾を「これでいい?」と聞いて拭き始める嬉しそうなヴァル。
すっと離れる体温に名残惜しさを感じてるのは私だけ?
指示したのは私なのに、もう終わり? とか思ってしまうのは、どういうこっちゃ!
うーん、私の思う甘えるの方向性が行方不明です……
皿を二人で洗いながら、ヴァルの実家の話になる。
「えー!! 『ナファート商会』なの?!」
ナファート商会といえば、ここリベルボーダでも結構有名なお店だった。
【初めの国 リベルボーダ】の王都から隣国の国境へは整備された街道が通っている。
それぞれの街道に副都があって【武の国 カフスターク】の国境へ続く街道にあるのが副都タールベリ。
そのタールベリでそこそこ名のしれた商会の息子だった事を知って私は驚いて声を上げた。
「うちの村の薬草、たしかナファート商会でも扱って貰ってるって買い付けの商人さん言ってたよ」
「お! どこ?」
「ピュン村」
私の実家は、王都からタールベリ方向へ下り途中で交錯する河川の上流にある。タールベリから直接いくにはかなり険しい山道(途中に断崖絶壁があったりする)だけど、位置的には今いる道具屋とタールベリを底辺にして、あっちよりの三角形の頂点がピュン村だ。
「おっ、近いな」
その弾む声に横を見上げると、肩をすくめてくすぐったそうに笑うヴァル。
そして、すっとこちらを見下ろしてちょっぴり頬を赤らめ唇を一度閉じて、でも何か言いたそうにまた唇を少し開けてまた閉じた。
もじもじしてはるよ! イケメンもじもじ永遠にループしていいですぁ?!
というか、この甘えん坊はあれか? こう多分これだって答え解るんですけど?
誘われてますか? 誘導されてますか?
魔王戦の最後も誘導してパリイかましてたもんなぁ。
えぇーいくそ!
「魔王討伐の間はさ、ポーション作りで忙しくて帰れなかったから、そろそろ実家に顔だそうって思ってるんだ」
私は、手元に目線を移して最後の皿を真水に落とし、手を拭きながらしゃべる。
──一緒に行く?
と言葉にしよとして、それってなんか両親に挨拶しろって言ってるみたいでない?
多分、ヴァルの言いたい事はこれだって思ったけど、結婚をあせる女の勘違いだったりしない? と急に不安になった。
しかし、その一瞬の間に、
「一緒に行っても?」
──ドキュッッん!
ナイスパリイ!!!
こ、こういう、なんつーか決めてくる感じが、その……はまってくっていうか……
「いいよぉ」
私、こればっかりだなぁ……
「俺、モニィと一緒に幸せになりますって、ご両親にちゃんと言うから」
見上げると銀の瞳が真剣に私を見つめていた。
胸が幸せでいっぱいで苦しい。
苦しいけどすっごく嬉しい。
「うん」
唇が近づいて、私は目を閉じた。
優しく柔らかい触れ合い。
彼の鍛え上げた腕が私の腰を抱く。
──あぁ、物足りない。
ヴァルの首に手を回し、下唇をそっと甘噛みした。
突然、溢れ出した欲望がもっと深く彼と繋がりたくて体中を駆け巡る。
前世での経験が、私を次のステップへと導いていく。
照れとか戸惑いを超えて、本能的な渇望を私は知っている。
ヴァルが唇を震わせて甘く息を漏らす。
リップ音を立てて唇を離し見上げる。
「レッスン2、据え膳には別の意味があって」
とろりと揺れる銀の瞳。
上気した頬が食べたくなるほど可愛い。
「それはね……」
私は口角をゆっくりと上げて、熱く彼を見つめる。
──ドキドキ
と心臓が鳴る。
コクンと喉を鳴らすヴァル。
────ヒュュ
ヒュュと鳴る……ヒュュと鳴る?
────ゥゥホーーーーーーーゥ
独特の音階をつけて近づいてくる音。
まさか?
私は、はっとして工房の方を見た。
──ピカッ
と工房側の扉から光が漏れた。
──プップクプップププゥー♪
間の抜けたファンファーレが扉越に聞こえた。
「…………」
「…………」
甘い空気がその陽気なだけのラッパの音に霧散する。
「えっと……」
「……魔法便ですよね?」
ヴァルが敬語に戻ってしまう。
「ですね」
……しゅーりょぉぉ……
本日の甘甘タイム閉店でおまーすorz
すっかりそんな雰囲気じゃなくなった私は彼の首から手を外した。
ヴァルも腰に添えてた手を離す。
私はむっつりとして、工房へ向かう扉を開いた。あれはサプライズ用の魔法便につけるファンファーレってのは知ってる。
それと緊急用のを併用してくるあたりが誰の仕業が解ってムカつく。
──ちくしょぉぉおお!いい所だったのにぃぃいい!!!! 本能の渇望カムバーーーーク!!
覚えてろよ!! ギルマス!!
私は、扉を力任せに開いた!
更新はまったりになると思われます。
まったりお付き合い下さいませ<(_ _)>