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エンドリア物語

「蛇のいる所」<エンドリア物語外伝66>

作者: あまみつ

「蛇屋敷。なんですか、それ?」

「この間、バーウェル商会が買った屋敷の名前だ。ウィル、頼む。なんとかしてくれ」

 カーター・パランスが両手を合わせて、オレに頼んだ。

 季節は春。オレは暖かな日差しを浴びて、カウンターでウトウトしていた。そこにオレがバーウェル商会で働いていた頃に知り合ったパランス先輩が飛び込んできたのだ。

「なんとかと言われても、オレ、知っての通り、何も出来ない一般人です」

「わかっている。でも、ムーなら出来るかもしれないんだ。頼む」

 両手を合わせて、必死に頼み込まれた。

 パランス先輩には出会ってから、今まで何度も助けられた。3ヶ月前も洞窟内で道に迷い、飢え死にしかけていたオレとムーに『こんなところで、何しているんだ?』と暖かい言葉を掛けてくれたのもパランス先輩だ。あの時は本当にギリギリの状態で、ランタンを持ったパランス先輩がオレ達を迎えに来た光り輝く天使に見えた。暖かい砂糖塩茶を飲むと、いつものゴツいおっさんに戻ったが。縁があるのか、この広いルブクス大陸で何度も出会い、助けられた。仕事でニダウに来たときは、オレを心配して必ず桃海亭に顔を出してくれる。

 道具屋以外の仕事はしたくないが、パランス先輩が困っているのなら助けになりたい。

「ムーということは、魔法がらみですか?」

「魔法には魔法なんだが、魔法道具だ」

「魔法道具ですか?それなら、シュデルの方が………」

 パランス先輩が首を振った。

「屋敷の奥に特殊な魔法道具がある。そいつがシュデルの影響下になると困るんだ」

「そうなると、ムーということになると思うんですが……」

「頼めるか?」

「ムーだと屋敷が消滅する可能性が………」

「目的の魔法道具さえ手に入れられれば、屋敷はどうなってもいい」

 パランス先輩は強く言うと、今回の依頼内容について説明を始めた。

 事の発端は今から52年前にさかのぼる。オレもムーもパランス先輩も生まれていないが、バーウェル商会は既にラゴタで運送業を営んでいた。グラシュ王国の豪商がラルレッツ王国の魔法道具店で高額な魔法道具を購入した。それの輸送をバーウェル商会が請け負った。バーウェル商会は護衛の中でも腕の立つものをつけて運んだのだが、ベケルト街道で盗賊団に襲われ荷を奪われてしまった。購入金額を支払うことで和解したが、失われた信用は簡単には回復しなかった。

 それから52年間、バーウェル商会は奪われた魔法道具の行方を探し続けていた。

「そいつが、先月見つかったんだ」

 数ヶ月前、タンセド公国にあった犯罪者の巣窟プルゲ宮が崩壊した。そこに残された記録から、プレゲ宮の盗賊団が魔法道具を奪い、タンセド公国の魔術師に売ったということがわかった。

「その魔術師が住んでいるのが、蛇屋敷というわけですね」

「いや、魔術師は十数年前にラルレッツ王国で死んでいる。【蛇】に屋敷を追い出されたのだ」

「蛇が住んでいるのですか?」

「オレもよく知らないんだ。蛇屋敷と呼ばれているが、蛇が住んでいるわけじゃない。【蛇】と呼ばれる特殊な魔法道具が屋敷の奥に設置されているらしい。屋敷に住んでいた魔術師の趣味が変わった魔法道具収集だったそうで、【蛇】も魔術師が集めたコレクションのひとつらしい」

「蛇の形の魔法道具が屋敷の奥から攻撃してくるんですか?それとも周囲の蛇を操るとか」

「オレは5日前にバーウェル商会の会長に呼ばれた。その時『ムー・ペトリに頼んで、奪われた魔法道具を取り返して欲しい』と言われたんだ。その時に説明されたのは『【蛇】と呼ばれる魔法道具があって屋敷の中に入れない』ということだけだ。ここにくる前にバーウェル商会から調査に行った奴らに当たってみたんだが、何があったのか教えてくれないんだ。ここに来る前に下見に行こうとしたんだが、行った奴らに『行くだけ無駄だ』と言われてやめた」

「なんか、恐ろしそうな魔法道具ですね」

「頼む。ムーと行ってくれ」

「わかりました。取り返せるかわかりませんが、ムーと行ってきます」

 パランス先輩がホッとしたのか肩の力を抜いた。

「ところで、取り返す魔法道具の特徴を教えてくれませんか?」

「そいつが………」

 パランス先輩が言いよどんだ。

「もしかして、武器系の魔法道具ですか?」

 強力な武器の魔法道具の移動は、リスクが高い。

「いや、違う。そのな……」

「もしかして、裏で扱う品物とか」

「大丈夫だ。犯罪とかじゃないんだ」

 そう言ったあと、渋々と言った感じで言った。

「ナメクジだ」

「ナメクジの形をした魔法道具ですか?」

「そうだ。10センチほどで金色に輝いている。希少な魔法金属で作られており、常にぬめっている」

「ヌルヌルの金属製のナメクジ、ということでいいんですか?」

「そうみたいだ」

「そのナメクジはどんな能力を持っているんですか?」

「背中に塩をかけると、口から真水を吐くらしい」

「他には?」

「それだけだ」

「………面白い魔法道具ですね」

「おい、いきなりやる気がなさそうな顔になっているぞ。オレだって需要があるとは思わないが、金貨600枚で買い手はいくらでもいるマニア垂涎の魔法道具だそうだ」

「そんなもんに金払うなんて、金持ちっていうのは何を考えているのかわからないですねぇ」

「耳をほじるなよ。気持ちはわかるけどな」

「まあ、行ってみます。期待はしないで待っていてください」

「頼むな」

 蛇屋敷の場所を書いた地図をオレに渡すと、3日後にまた来ると約束してパランス先輩は帰って行った。

 翌朝、オレは自動二輪車の後ろにムーを乗せて蛇屋敷に向かった。タンセド公国はエンドリア王国の隣。地図に書かれた蛇屋敷は、自動二輪車ならば昼前には着く距離だ。

「こいつかな」

 街道から煉瓦で舗装されている道を見つけた。煉瓦の間から所々草が茂っており、使われなくなってから、かなりの時間が経っているように見える。道を進むにつれて、草の背は高くなり、かきわけるようにして屋敷に向かった。

 いきなり、門が現れた。

 金属で出来た巨大な門。門の内側は手入れされているようで、広い前庭の木々は剪定され、花壇には様々な花が彩っている。

 巨大な槍を並べたような門の真ん中には、凝った意匠の鍵穴があった。

 その鍵穴の上に、そいつはいた。

 細い金色の蛇が、オレ達に気づいて鎌首を持ち上げた。

『そなたたちに問う』

「こいつが蛇屋敷の【蛇】かな」

「ちっこい蛇さんしゅ」

 太さは1センチ、体長は30センチほど。

 でっかいミミズのような蛇は、鋭い視線でオレ達を見た。

『この世界の真理について』

 オレはムーの肩を叩いた。

「ほよしゅ?」

「まかせた」

 オレは背嚢を枕に地面に横になった。寝息をたてるまでに1分もかからなかった。




「まだ、開いていないのかよ」

 目覚めたのは12時近く。腹時計が『お昼ですよ~』とオレを起こした。

 門の蛇とムーが対峙して、問答をしていた。

 意味不明の単語だらけで、聞いていたら、また眠くなった。

 日が暮れるまでにニダウに帰るには、14時前には出発したい。

 オレは蛇の側に近寄った。

「蛇さん、蛇さん、ちょっとだけ通してくれないか?ナメクジを取ってきたら、すぐに帰るから」

 オレの方を見もしない。

 ムーは問いかけを真剣に考えているようだ。

「ムー、そろそろ………」

 ギッとにらまれた。

 ムーにしては珍しく脳味噌を酷使しているようで、白いくせっ毛の間から長い毛の束が突き出ている。アホ毛にしか見えないが、ムーが作った魔力で動く脳の補助システムで、複雑な計算を紙に書かずに高速で行うためのものらしい。魔法道具の設計、魔術の複合式の計算、特殊な魔法陣を書くときなどに重宝するらしいのだが、いつもはモジャモジャのくせっ毛に紛れて、目にすることはない。髪から飛び出すほどに、フル稼働している状態なるのは久しぶりだ。

「困ったなあ」

 ムーがこの状態だと、昼飯が食えない。

 腹の虫も限界だと喚いている。

「とりあえず、やってみるか」

 1人と1匹から離れ、門の端に移動した。そして落ちていた小枝で、門を突っついてみた。特に変化はない。指で触れてみた。何も感じない。

 トラップはないようだ。

「よっと!」

 門扉を構成する槍に似た金属棒をつかんで登った。とがっている先端を身体のしならせ、反動を使って飛び越した。

 内側に着地。

 何も起こらない。

 オレは軽い足取りで屋敷に向かった。分厚い木の扉は重かったが、手で引けば開いた。宝物庫を探すポイントは壁だ。石造りの家だとわからないが、この屋敷は木造だ。火事や盗難から守るために、壁が強固になっているはずだ。歩き回ること20分、2階の寝室から地下への入り口を見つけて降りた。

 豪華な扉は、光を放っていた。

「やっぱ、宝物庫は別みたいだな」

 この屋敷の魔術師は『蛇に追い出された』と先輩は言っていた。

 それが事実であるなら、奥にあるという蛇の本体が、この家の管理をしていると考えられる。鍵穴の上にいた【蛇】はムーとの問答に集中しているように見えた。ムーの問いに集中しているのならば、屋敷の防御システムを含めた管理が手薄になっているのではないかと忍び込んだわけだ。

 オレの読みが当たって、ここまでは簡単に入り込めたが、目的の宝物庫の防御は稼働している。蛇本体を守るために、別のシステムで動いているようだ。

「ムーを連れてくるわけにはいかないしなあ」

 貧乏でも本業は魔法道具屋。背嚢にはいくつかの魔法道具がある。この程度の防御は吹っ飛ばせる護符もある。

「一発だと無理だよな」

 蛇の意識がムーに集中しているから、楽に侵入できた。

 蛇に気づかれたら、そこでゲームオーバーだ。

「困ったなあ」

 オレは扉の前で腕を組んだ。

『何を困っているのだ』

「この扉を一発で…………」

 ナメクジがいた。

 階段脇にあいた裂け目から、顔をのぞかせている。

「あの、ナメクジさんですか?」

『ナメクジではない。ナメクジ型ソルトプッシュタイプ水分補給器、通称ヴァレンティーノだ』

「ナメクジ型ソルトプッシュタイプ水分補給器さん、ちょっとお話が」

『ヴァレンティーノで構わない』

「そっちが構わなくても、こっちが構うわ!」

『では、言い直そう』

 ナメクジが重々しく言った。

『ヴァレンティーノと呼ぶように』

 1秒間、過去が頭を巡った。

 2秒考えた。

「ヴァレンティーノさん、ちょっとお話が」

 ムーと出会ってから、オレが体験した数々の出来事に比べれば、ナメクジがヴァレンティーノだろうが、ヴィスコッティだろうが、些細なことだ。

『なんだね』

「ヴァレンティーノさんは52年前に盗難にあったナメクジですか?」

『たしかに私は52年前に輸送途中、プレゲ宮の無法の輩によって強奪された』

「やはり、そうでしたか」

『が』

「が?」

『ナメクジではない』

 殴りそうになった右腕を、左手で押さえた。

「あの時に輸送の任務に当たったバーウェル商会が、ヴァレンティーノさんをずっと探していたのです。どうか、オレと一緒に来ていただけませんか?」

『それほど、私が必要か?』

 右手が痙攣している。

「はい、それはもう」

 精一杯の笑顔を浮かべた。

『では、連れて行くがよい』

 割れ目から這いだしてきた。

 パランス先輩の情報通り、長さ10センチほど。金色の金属製のナメクジだ。

 オレが手を差し出すと、そこにヨジヨジと登ってきた。

「オギョォ!」

『どうかしたか?』

「いいえ、なんでもありません」

 ぬめっている。

 柔らかい金属がヌメヌメとし、いままでにない感触だ。

 どことなくなま暖かい。

「あの、動かないでいただけませんか?」

『なぜだね』

「落とすといけないので」

『わかった。気をつけよう』

 手の上で動かれたときの感触は、理屈でなく、本能で地面にたたきつけたくなる。

 ナメクジを連れて戻る途中、気になっていることを聞いてみた。

「宝物庫に抜け穴でのあるのですか?」

 ナメクジの価値が金貨600枚なら、宝物庫の中にあるべきものだ。

『違う。追い出されたのだ』

「誰にですか?」

『蛇にだ』

「もしかしてですが………」

『ナメクジに似た私の体型がイヤだということだ』

 魔法道具でも蛇はナメクジが嫌いらしい。

『この美しいフォルムがわからんとは』

 そう言うとナメクジが体をクネリと曲げた。

『まあ、紐にしか見えん蛇にはわからんだろうな』

 自慢げにオレを見上げたナメクジを、つい、うっかりと、床にたたきつけた。




「いらっしゃ………あれ、スモールウッドさん、どうかしましたか?」

 魔法協会本部災害対策室のガレス・スモールウッドが扉を開けて、桃海亭にゆっくりと入ってきた。

 顔色が青く、右手は腹を押さえている。

「困ったことがおきた」

「オレ達は何もしていません!」

「断言するところをみると、色々隠してそうだな」

「真面目に古魔法道具店を営んでいます」

「まあいい。先週、バーウェル商会の仕事を引き受けたな?」

「バーウェル商会というと、金色のナメクジの件ですか。あのナメクジでしたら、一昨日取りに来たパランス先輩に渡しました」

 オレがナメクジを連れて門のところに戻ると、ムーと蛇はまだ問答をしていた。目が血走っているムーの前に、ナメクジをヒラヒラさせるとムーはすぐに何があったのか理解した。そのタイミングで話しかけてきた蛇に『終わりしゅ!』と怒鳴ると、特大のサンダーを屋敷の落とした。屋敷は粉々になり、本体が壊れたのか、門の蛇も消えた。

 その後、オレとムーは自動二輪車に乗って夕刻にはニダウに戻ってきた。ナメクジがシュデルの影響を受けると困るので、ロイドさんに預かって貰っていた。そして、一昨日、パランス先輩がナメクジを取りに来た。ムーが食べたお菓子の空箱に詰めておいたナメクジは、出したとたんギャーギャー文句を言っていたが、パランス先輩が用意した豪華な宝石箱を見ると、ご機嫌になり、優雅な仕草で横たわった。すぐに蓋は閉められたが。

「ナメクジに何か問題がありましたか?」

 屋敷を壊したこともパランス先輩には隠さず伝えてある。ナメクジを取り戻した後なので、問題はなかった。

「ウィル。頼みがある」

「はい?」

「内容を伝える前に『引き受けます』と言ってくれ」

 オレは首を横にブンブン振った。

 絶対にろくなことじゃない。

「引き受けてくれないと、魔法協会本部としても桃海亭の営業を妨害するという非常手段に………」

「ちょっと、待ってください!」

「待てないんだ。非常に困っている」

 そう言ったスモールウッドさんの肩に見覚えのあるものが乗った。

『久しぶりだ』

 金色の蛇が言った。

「なんで、こいつがいるんですか?」

「ここに住みたいそうだ」

「オレの質問に答えていませんよね?」

「既存の一般管理システムが魔法協会本部のシステムに侵入したとは言えないだろう」

「魔法協会本部のシステム、セキュリティが甘いんじゃないですか?」

『溶けた砂糖よりも甘い』

「これを引き取ってくれ」

「桃海亭には関係ありませんよね?」

「蛇が桃海亭に住みたいそうだ」

「本部が引き取ればいいじゃないですか」

「蛇が桃海亭を希望している」

『いかにも』

 オレはスモールウッドさんの肩にいる蛇に聞いた。

「ムーと問答するために来たんですか?」

『違う』

「桃海亭に来た理由を教えてください」

『屋敷を壊され、私は次の住処を求め、魔法協会のシステムに侵入した。もっとも心地よいと思われる場所が、この桃海亭だったまでだ』

「もしかして、シュデルですか?」

『シュデルの能力は私には通じない。故に関係しない』

「ムーでも、シュデルでもないとすると、オレ?」

『ブッ………失礼した』

 スモールウッドさんがいきなり、天井を指した。

「ムーがどうかしましたか?」

「違う。ウィルの部屋だ」

「オレの部屋がどうかしましたか?」

 今はいない居候爺のせいで、ベッドしか入らない狭い狭い部屋だ。

「あの部屋に住みたいそうだ」

「はぁ?」

「魔法協会のシステムにある部屋を検索して、希望する条件に当てはまったのがウィルの部屋らしい」

『窓がなく、昼間も暗い部屋。壁にはヒビが入っていて、そこから細い日が射し込む。すきま風も吹き込む。それでいて、奇跡的な角度ではいったヒビは、雨は入り込ませない。まさに、理想の部屋だ』

「蛇はこう言っている」

「わかりました。オレの部屋は蛇にゆずります。代わりに魔法協会がオレに豪華な部屋を用意してください」

「その予定はない」

「蛇には本体があるはずです。そいつはどうするんですか?蛇だけならともかく、本体まで置かれたら、オレが眠れません」

「その心配はない」

『私の本体は、これだ』

 蛇が尻尾をゆらゆらと動かした。尻尾の先端を丸めて、砂粒ほどの何かを持っている。

『見ての通り、邪魔にはならない』

「わかりました。では、蛇の居候料をください」

「魔法協会は、蛇の持ち主ではない」

「現在の蛇の持ち主は誰ですか?」

「魔法協会に登録されている持ち主は、ウィル・バーカーだ」

「ウィル・バーカーって、オレ?」

「蛇の希望だ」

 金色の蛇が鎌首を持ち上げて、オレを見た。

『感謝するがよい』

「どこをどうしたら、感謝になるんだよ!持ち主はムーか、シュデルにしろよ!」

『いきなりサンダーを撃つようなチビとは関わりたくない。変な能力を持つオタクにも近寄りたくない』

 ムーもシュデルもイヤ。

 ようやく、蛇の狙いが読めた。

「モジャに会いたいんですね?」

『ウィルの部屋に住みたいだけである』

 スモールウッドさんを見た。スモールウッドさんがわずかにうなずいた。スモールウッドさんも蛇の目的はわかっていたらしい。

「わかりました。でも、居候と呼ばれるのは蛇さんのプライドが許さないでしょう。桃海亭に下宿というのはどうでしょう?」

『下宿代は魔法協会のシークレットファイルの内容でどうだろう?』

 スモールウッドさんの頬がひきつった。胃を押さえている手も痙攣している。

「それで結構です。代金は桃海亭オーナーのオレに必ず渡してください。ムーとシュデルには渡さないようにしてください」

『了解した』

 スモールウッドさんの緊張が解けた。

「モジャは昼頃に来る予定です。オレの部屋で休んでいてください」

『そうさせてもらおう』

 蛇はスモールウッドさんの肩からスルスルと降りた。半開きの扉を抜け、奥に消えた。

「助かった」

 スモールウッドさんが額の汗を拭った。

「あの蛇、シュデルの影響を受けないようですね」

「ムー・ペトリの表現するところの『ベロベロ魔力』の持ち主らしい」

「ムーから聞いたんですか?」

「いや、蛇が言っていた」

 なかなか優秀な蛇らしい。

「ウィル、シークレットファイルの件だが」

「わかっています。他言しません」

「あとで内容だけ教えて欲しい」

 オレがうなずくとスモールウッドさんはローブの袖から、小瓶に入った水薬を出した。ラベルは【速効強力胃薬痛み止め配合】一気に飲み干すと、深いため息をついた。

「あの蛇、魔法攻撃がほとんど通じなかった。物理的な破壊を試みようとしたところ『もし桃海亭に連れて行かないのなら、魔法協会が密かに開発した広域消滅兵器を起動させる』と脅したのだ。蛇に起動できるかはわからないが、あれの存在がバレると………頼むぞ、ウィル」

 オレが絶対に知りたくない極秘事項を、サラリと言ったスモールウッドさんは胃を押さえながら桃海亭を出て行った。

 昼になるとモジャが来たので事情を話した。すぐにオレの部屋のいる蛇に会いに行き、1分ほどで店に戻ってきた。

ーー 黙考するそうだ ーー

 それだけ言うと食堂にいるムーのところに、飛んでいった。

 オレが部屋にあがると蛇は身体を巻いて固まっていた。本体を包み込むように球状になった身体は、オレの手で握り込めそうな小ささだった。触ってみたがピクリともせず、固い金属の感触がした。

 食堂に行き、モジャに聞いた。

ーー 答を手に入れたら目覚めるであろう ーー

 自発的に休眠状態に入ったらしい。

 オレは固まった蛇をベッドの上に置いた。いつかは目覚めるのだろうが、それまでは転がしておく予定だ。

 暗いオレの部屋で、金色の玉は今も考え続けている。





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