5 サラ=ブレッド
俺達重機乗りには『獣騎闘技』以外に仕事がある。
ざっくり、モンスター退治。
特にこちらから好んで退治しに向かうことはないが、要請があればその付近の重機乗りが集まる。
依頼内容のほとんどが、「村が魔物に襲われている助けて」。
数台の重機がこぞって被害に遭う村などへ行けば、そりゃもうヒーローのご登場並みに、待ってましたの大歓迎だ。
集団で人里を襲うモンスター。
時に100近い集団も見かけたが、なあーに、重機軍団の前では千切られては投げられての存在でしかない。
傍から見れば蹂躙、の勢いで駆逐できる。
ただ、たまーに一つ目巨人のようなデッカイ魔物からひっくり返されることもあるが、まあ、ご愛嬌ってもんだな。
そして、モンスターを一掃した後は、本来の重機として俺達は活躍する。
荒らされた村の瓦礫の撤去とか、路地の整地とかだ。
時には、村の子供を鉄容器に入れ、ブランコ代わりにブランブランして遊んでやるが……良い子の皆はマネするなよ――と、注意喚起はいいとして、今目の前で闘うサラとは、同じ東地区の重機軍団でよく一緒になる仲だ。
んでもって、そんなサラにいいように扱われる現在の俺=ユンボー。
「こんにゃろ」
コンクリフィールド上、取っ組み合いの間合いを一度切られてからは、なかなか近寄らせてもらえない。
イメージとしては、こっちがダッシュしようとするところに額に手をつかれ、いなされる感じ。
向かってくる俺を、長いアームを伸ばし、先っちょのバケットでコツンと突く。そして、突きつつ後進回り込み&俺が伸ばす腕も払う。
お世辞なしに、重機バトルの重機乗りとしてはいい腕だ。
それで、重機の腕の位置としては、上部機体のほぼ中央から生えるから、操縦席の右左が正しいのかもしれないが、重機のアームには右利きと左利きがある。
一番多い右利きの場合、操縦席の右側で上腕部分(アームの付け根)が上下する。
操縦席を守る盾の役割をしてくれるそれではあるが、操縦者の死角を生む要因にもなる。
だから、利き腕が違う者同士が闘う場合は、死角の取り合い奪い合いが闘いの流れに含まれてくる。
サラ=ブレッドは、俺と同じ右利き。
お互いが死角を取ろうとすれば、お互いが相手を見づらくなるので、死角の駆け引きは生じ難い。
つまりは対等。だからこそ、アームの長さの違いによるアドバンテージが如実に現れる。
向こうはこっちの機体に触れられるが、俺の手は届かない。
「うが、うが」
ガン、ガン、と突かれるようにして叩かれる。
エクステによる追加重量によるものか(大会には重機の重さ制限がある。大きい方が有利だからな)、または、先端にかかる荷重を考慮してなのか。サラの腕の先端のバケットのサイズは小さい。
こっちの半分以下の細長い鉤爪のようなタイプだ。
またガツン、ガツン。威力はそうないが手数が多い。
反撃してもこっちのは届かない……。
「うーん、困った。なんだかんだで、ネトってきたような気がする。このままだと赤目ちゃんになっちまうなあ」
今すぐってわけではないが、ジェルレッドへは着実に近づいていっている。
「サラなら観客も興奮するだろうが、俺のスライムに包まれる様なんて、誰得って感じだつーの」
俺はガリガリっとコンクリをひしめかせ、後退。
さあ、攻めて来いと受け身で相手の重機を待つ。
当然ながら、サラは自機の手が届く最大攻撃範囲まで足キャタを回せば、それ以上は寄ってこない。
旋回からの横払い攻撃が俺を襲う。
「ちぇええ、ストおおおっ」
ガキン――と互いのアームが弾け合う。
サラの腕に、俺の旋回攻撃をぶち当てたっ。
バケット打撃は、機体本体には届かなくても、相手のアームには届く。
またサラが旋回攻撃をしてきたので、同じく俺も旋回して腕をぶつけ合う。
パワーの差か、俺の方が弾ける腕に機体を引きづられてしまう――がしかし、
「どうだサラ!? どうする!?」
白銀の重機がアームが水平に長く伸びる。
”誘い”にノってきた。
「よし、『腕試し』合戦と行こうぜ、ユンボーっ」
俺はコックピットの丸ボッチをぐいっと引き。
――ブーストに火を入れたっ。