表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/17

3 タクミとエリッタ



 野球、もしくはゴルフを知っていればなあ……などと思いつつ、俺は鋼材や木材が散らばる床から、野球バットのくらいの木の棒と、その半分くらいの長さになるもの二つを手にする。

 すでに手にしていたソフトボールくらいの丸っこいゴム珠は床に置く。


 別にバット代わりの木の棒と、ボール代わりのゴム珠があるからといって野球をしたりはしない。

 メンツもエリッタの爺ちゃん合わせても三人しかいないしな。

 長い棒と短い棒をエリッタに持たせる。


「さてさて問題です。棒っきれを使い、ここに置いてあるゴム珠を、おもいっきりぶっ叩いて遠くへ飛ばそうとするなら、エリッタは長い棒と短い棒どちらを使いますか?」


 俺の問いに、目の前のエリッタは口を尖らせる。


「タクミくんはエリッタをバカにし過ぎのような気がします。試さなくてもわかるのです。ゴム珠が一番遠くへ飛ぶのは長い棒で叩いた時です」


「正解。なんで長い棒?」


「えっと、……理論的なことはわかりません」


「うむ、素直なエリッタは可愛いぞ」


「タクミくん。どうして、長い方が遠くへ飛ばせるんですか?」


「詳しいことは、理科の先生に聞いてください。俺先生は長いバットの方がボールがよく飛ぶ。その理論です」


 とまあ、これがエクステの攻撃威力が増す理由で、


「つまりこのことから、サラのエクステ仕様のアームは打撃力マシマシってことですな。次に、善し悪しの悪しの説明をします。はい、棒っきれはその辺に置いて、エリッタは手を出してください」


 出されたエリッタの小さな両手を取って、水をすくうようにして胸元でお椀を作らせる。


「いいか、今からエリッタの手の上にゴム珠を置くから、その位置で受け取るんだぞ」


「はい、了解なのです!」


 そっと、そこそこに重たいゴム珠をエリッタの手の上に乗せる。


「上手く、乗りました」


「はい、よろしい。では……」


 俺はゴム珠が乗るエリッタの両手を自分の方へ引く。

 すーとエリッタの腕が伸び、今はぴん、と真っ直ぐに伸ばす両手の先にゴム珠が乗る。


「んじゃ、俺、手え離すけど、この位置で支えるんだぞ」


 エリッタの手の甲から俺の手が離れた瞬間、ストンとエリッタの腕が下がり、こぼれたゴム球は床をゴロンゴロン。

 エリッタの腕がゴム珠の重みに耐え切れなくなった結果だった。


「どうだった。同じゴム球でも手元と先じゃ重たさが全然違うだろ?」


「なるほどお。エリッタはこの実験から理解したのです。エクステつけると遠くへの攻撃は有利になりますが、先へは力が入りづらくなって、度が過ぎると制御が利かなくなるということなのですね」


「そうそう。アームが長ければ良いって話じゃないんだよな。もっと言えば、振り叩いたりの衝突の力は上がるけど、押したり持ち上げたりの地力は下がるからさ」


 などと俺がエリッタを使った実験を楽しんでいたら、そろりそろりお爺ちゃんリスが寄ってきました。


「ほうほう、伸ばし腕の講義かな」


「そうなのです。お爺ちゃん。タクミくんはやっぱりジュウキに詳しい来訪者さんだったのです」


「ジュウキ乗りには儂らと違って、経験から得ている知識が豊富じゃからのう。エリッタは鍛冶士としてもまだまだ見習いじゃて、タクミくんからたんと知識を盗むんじゃぞ」


「了解なのです」


 祖父へ、ピっとこめかみ辺りにつける挙手。敬礼はあるらしいこの世界。

 家族間でどうなのかはさて置き、


「講義ってほどのものじゃないですけどね。それに俺、だからといってエクステ対策とか考えてないっすよ、マジで」


 素直な俺は、エリッタの爺ちゃんに素直な考えを告げる。

 俺は当たって砕けろが信条の重機乗りだ。

 戦略とか作戦とか立てるのが面倒くさい性格――というのは否定しない。

 だが敢えて言おう。

 重機バトルの真髄しんずいは、気合と根性とセンスにある。

 闘いとは、これらでどうにかなるもんなんだよ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ