11 アイアンペッカー
ファンファーレが鳴りやめば、ゴーンと決勝戦開始の鐘が鳴る。
俺は迷わずに、ガンと出力レバーを手前に叩き込むっ。
爆発でも起きたかのような歓声に後押しされ、出力最大ウサギの最短直進ルートを驀進ならぬ爆進する。
土フィールドを抜け、コンクリフィールドを横断すれば捉える。
機体をトリコロールカラーで染めるアイアンペッカー。
おっさんの故郷の国旗とかなら別に文句はない。
けど、断言する。絶対にあいつはただの日本のロボットアニメかぶれだっ。俺の第六感がピキーンと鳴って、そう伝えてくる。
俺がギャルゲ『どきパラ』に出会い魂を捧げる前、夢中になって観ていた宇宙を舞台に搭乗型ロボットで戦うアニメ。その人気シリーズで主人公が乗り込み活躍を見せてくれたロボットの色彩はブル―、ホワイト、レッドの三色を基調とした。
「ボブマッチョ。お前は重機の操縦席に乗り込み、宇宙で敵と戦ったことがあんのか。ねえだろ」
俺は(妄想で)ある!
「ジュウキスターかなんかしらねーけど、こっちは筋金入りの元ロボット大好きっ子なんだよっ。かぶれごときが、その伝統カラーを使うんじゃねえっ」
俺から見て、右方向へ回り込もうとするアームの付け根が左仕様のサウスポー重機アイアンペッカー。
俺はそんな相手に対し、挨拶代わり兼憤怒を込めた左旋回からの回し腕手刀打ちっ。
が――、チュインと伸ばすバケットの先がかすめただけに終わる。
意外に相手の反応と駆動性が高い。
ギャパパパと履帯を土面で滑らしながら、相手へ向き直る。
こっちの死角へ回り込もうとしてくるアイアンペッカー。
二機は螺旋を描きながらに、間合いを詰めていく。
「うだっ」
ドン、と重機同士がぶつかる。
乗り手の図体の割に、向き合う相手の重機の大きさは、俺=ユンボーより一回り小さい。
だが、重量はあまり変わらないのだろう。押し合いに優位性を感じる挙動は生まれない。
それに。
「しれっと、『排土板』のオプション付けてやがるし」
排土板――敢えて専売特許を枕につけるならブルドーザーの物。
アイアンペッカーの足元に備え付けられる横に長い厚手の鉄の板は、ブルに比べれば縦幅も厚みも小さい。
しかし押すためにある装備には違いない。
「こりゃ、押し合いも微妙だな」
アイアンペッカーが設ける排土板に気を取られていると、『破つりピック』のぶっとい鉄の棒先が、俺の機体に穴を穿とうと襲ってくる。
俺は機体に接触する棒先を、がん、とバケットを当てて弾き払う。
アイアンペッカーの腕先にある重そうな長方形の鉄箱から、にょっきと突き出る芯棒。その棒先に触れただけでは穴は開かない。
ピックはガガガッと、突き出る棒が目にも留まらぬ速さで上下運動することにより、突貫力とする。
なので、すかさす払えばそうそう貫かれることもない。
ただ、いかんせん、中身が空洞の拳とぎっしりとした鉄で芯を覆う拳では一撃の重さが違う。
純粋な殴り合いでは相手に分がある。
だから、俺は隙を見て土をすくう。
『さすがは決勝まで残る重機乗りだ。拳のウェイトによるハンデを、バケットに土を盛ることでカバーする。そういうことだろ、タクミ』
「このくそマッチョっ。殴り合ってる最中に、わざわざマイク使ってまで話してくんなよっ」
『おお、ソーリー。何かスピークしているようだが、拡声器を使用してもらわないとヒヤリングできない』
視界には肩をすくめるボブマッチョが映る。
「こんのお――」
その八の字眉顔やめろ。
こっちはハンズフリーな拡声器積んでないんだつーのっ。
「だらっ、秘技、肘掛け運転」
俺はマイクを掴む腕の肘で、操作レバーを操る。
地味で不格好だが、かなりの技量を要する上級テクニックだ。
『いちいち、スピーカー使って話しかけてくんじゃねえっ。あと解説っぽいこともすんな。なんか恥ずかしいだろうがっ』
なんか俺が、説明されないと理解できないような、おかしな行動をしているみたいじゃねーか。
『ノンノン。解説は必要不可欠だ。我々の間で行われている駆け引きを、観衆へ伝えれば、それだけエキサイトな舞台になるだろ。パフォーマンスも含めてプロ意識だとユーは思わないのかい』
『プロ意識でパフォ、パフォ、だあっ、意味わかんね』
ぶつけ合いで、ほとんどカラになったバケットの残る土砂を相手重機にぶっかけ、俺は一旦距離を置く。
土砂掛けが目眩ましになるわけではないが、俺の中で確信した気持ちが自然とそうさせていた。
ま、手足が出ないからの嫌がらせなんだけど。
ムカつくかな、ボブマッチョは強い。
言動が何かと癪に障るおっさんだが、それは認めよう。
俺くらいの重機乗りになれば、アームを交わすことで相手の力量を測れる。
重機バトルはただ殴り合って押し合っての闘いではない。
ちゃんと駆け引きやテクニックがある。
相手を攻撃するにしても、ジェルを赤く染めようと思うなら操縦席へ直接打撃を加える方が効果的。
だから、死角から襲えばゲームメイクは行い易いが、アームの付け根で守られる操縦席を狙うには好ましくない、なんて状況が生まれる。
この、こっちが立てばあっちが立たないを上手く使って立ち回れるのが、強い重機乗りだ。
死角からの転倒攻撃かと思えばフェイクで、急旋回でコックピットへの会心の一撃――狙いかと思いきや、それも引っ掛けで、相手の挙動を揺さぶった後にウイークポイントをついて一気に転がす、なんてのも日常茶飯事だ。
ボブマッチョにはこのバトルセンス的なものが、俺の駆け引きに屈しない程度にありやがる。
それから、重機バトルの重機は常に、攻守を同時に行う。
主に『攻』となる上部機体の旋回は説明するまでもなく、攻撃するための動作と操縦席の移動の意味がある。
それで、主に『守』となる下部機体の旋回であるが、俺達重機乗りは停まったままで殴り合いはしない。絶え間なく両足のペダルで操作している。
これはなぜかといえば、重機バトルに於いては、履帯の向きが直接的な弱みになるからだ。
仮に下部の横長の履帯が左右に伸ばして座る状態なら、横から加わる力には強いが、前後からの力には逆に弱くなる。
だから、相手の攻撃のベクトルに対しては、強い面で受けるのがセオリーだ。
相手がいろんな角度から殴ってくるのであれば、それに耐えられる向きで対応しなければならない。
左右の履帯を互い違いに前後したり、片方だけを回したり、かなり忙しいのである。
これをボブマッチョは俺と同等か、アームに回転機構なんぞという操作行動が増える物も仕込んでいるようだから、それ以上の技術でアイアンペッカーを操っていることになる。
「本戦の常連は、ダテじゃないってことか」
焦燥感を抱いているつもりはないが、レバーを握る手が汗ばんでいる気がする。
手をこまねく俺=ユンボーを中心点として、ぐるんぐるん回りながら、近づいてくるトリコロールカラーの重機。
俺はまたバケットで土砂をすくい、中身を相手へ向けて投げる。
牽制になりもしない土砂かけを続ける。
攻めあぐねる俺は、これしかやれることがなかった。




