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スーパーエスパー 1

 街はお祭りのようだった。いちおう、西洋風だからカーニバルか……。


 ぼくと亀執事は両側に石づくりの建物のならぶおおきな道のとちゅうで、随分先に行ったイゾルデを追いかけていた。

 彼女は飛ぶように歩いた。

 ぼくも急ぎたかったが、亀執事はゆっくり。急かしても、大丈夫大丈夫、とか、鷹揚な反応しか返ってこない。

 けっきょく、ぼくは二人の真ん中に入るようにして、亀執事が彼女を見失いわないようにした。


 風景は夕日の光でそまっている。長いスカートをはいて尻を振りながら歩いている女や、あたまにカゴを乗せた物売りたち、そんなコスプレをした群衆がおおぜい行き交っていた。ところどころに馬も歩いていて、その上にあくびしながら乗っている甲冑の騎士もいる。

 緑のカーテンを巻き付けたような服装で目の前を通りすぎた女の手に、顔にスリットのある赤ん坊が抱かれていたのには驚いた。この世界では子どもまでコスプレしているらしい。

 女は小さな声で子守歌を唄いながら去っていった。


 おかしな風景を見た。刀をぬいた和服のサムライと西洋風の甲冑をきた男が、とっくみあいの喧嘩をしていたのだ。

 甲冑のやりの先がサムライの方を指していたらしい。

 それを農民風のかっこうをした街の人たちが、遠まきに面白そうにながめている。


「いろいろな世界観のコスプレがまじっているのは、いまや社会問題ですな」

 見とれていたら、いつの間にかうしろに来ていた亀執事が話しかけてきた。

「ほれ、姫が行ってしまいますぞ」

 急かされてぼくは歩き出した。


「百年前は整然と世界観によってブロックが区切られていたものです……」

「亀爺さんは、お、おいくつなのかしら……」 いちおう、女装中なので、女言葉にしてみた。

「忘れもうしたわ、かかかかか。そういう貴女は、おいくつかな」

「う……、レ、レディーに歳を聞くのは失礼です」

「かかかかか」

 もちろん、記憶のない僕はじぶんの歳などわからない……。


 冗談か本気かわからない爺さんだったが、しかし、このコスプレ状態は百年以上も続いているのか……。

 もともとの世界のようすはどんなだったんだろう?


 亀執事の話では、この町は、おもにアーサー王と円卓の騎士たちの物語のキャラクター(のコスプレをしたやつら)を中心にできている(この街の名前は『アーサーエリア』というのだそうだ)。

 なので、騎士トリスタンの恋人になるイゾルデは、特権階級なのだそうだ。

 生まれた時から、お姫さまとして育てられたと。

 あの性格も納得だ。


 街がかなり大きいのは、アーサー王系の話がかなりあるからだ。

 小説のアーサー王や、詩のアーサー王、映画のアーサー王、アニメのアーサー王、イメージはそれぞれだから、アーサー王もいっぱいいるのかと、おどけて亀執事にたずねてみたら、そうだという。

 それぞれ、格調高い詩風、ダイナミックな映画風、コミカルなアニメ風というふうに、統治の仕方が違うのだという。

 どこまでもおかしい街だ……。

 かっこうが中世っぽいのは史実とちがっておかしいと亀執事に指摘してみたが(そんな記憶はしっかり残っていた)、大事なのはイメージだという。

 自分たちが再現しようとしているのはイメージであって、歴史ではないのだと。

 世界を、現実ではなくてストーリーにしたいのだ、と。

 そんなものかもしれない。


 すでにイゾルデは人ごみの向こうに行っていた。

 ぼくは亀執事の手をとって足早になった。


 夕日を背景にそそり立っている何本かの城の塔。

 まわりを気にすることのないイゾルデは道の真ん中で立ち、道ゆく人々は、高貴な(コスプレの)彼女にたいする礼儀として、大きく避け、その周りに空間ができている。


 彼女はだれかと話していた。


 ぼくは近寄っていいものかわからず、気づいた瞬間に足を止めた。手をとられていた亀執事がつんのめった。


「止まるなら言ってくだされ」

「おい、あれは誰だ?」

 ぼくたちのことは、誰も避けてくれない。人の波のなかでぼくは戸惑っている。


 彼女と話している、やや背の低いシルエット。それだけで、すでに周りとは違っていた。

 バイザーを開けたヘルメットにアンテナが付いている。

 レトロな未来人、といった風だろうか?

 ……小太り、アニメっぽい黒髪(じっさいは茶色だ)、全体は銀色で青色のアクセントのある妙なコスチューム。

 そう、彼は昔の日本の「アニメ」っぽいコスプレをしているのだった。古い「特撮」かもしれない。


「君の瞳は一億ボルト」

 ……なに言ってんだ、こいつは? しかも人差し指で彼女のほうを指差している。

 彼女は興味ないようだ。


「待ッテクレヨ、すーぱーえすぱー、ソレジャ私ガ死ンジャウ、一億ぼるとハ強スギル……」

 肩に銀色のカブトムシみたいなのがくっついていて、何か言っている、キーの高い声だ。


「あー、……大丈夫よ、私はあなたを見ないから」半眼のままで冷静に語るイゾルデ。

「その瞳を閉じてくれるのかい?」 彼女のあごに手を伸ばそうとするエスパー。

 彼女はすっと身をひく。「アホエスパー……」

「七つの力、聴力停止!」 メットのアンテナあたりに手を伸ばし操作してる。

「スーパーエスパー、聴力停止ハ1分間ダ」

 イゾルデは、空を見つめて「……あぁ」といっている、そしてため息。


「あの男は、昔のテレビ特撮のキャラクターで、ええと、なんじゃっけ、確か『スーパーエスパー』といったかの。本職はヒーローなんじゃが、まめなやつで、姫をナンパし続けているんじゃ。色っぽいのが好きらしいの、なんで姫が色っぽいかというと、そもそも幼いころから……」

「どうしましょう?」

「気にせんでいいよ。あの男、本当に彼女以外は目に入らないらしい。わしもなんど無視されたことかな……、それより早くマズラ様のところに行かないと……、時間が経てば経つほど、あんたのことがバレる確率が高くなる……」


 それでもぼくが戸惑っていたので、亀執事は人ごみをかき分け、どんどん二人のところに近づいていく。今度はぼくが彼のあとを追うかたちになった。


「日が暮れてしまいます、姫、いきますぞ」

 口調こそ落ち着いているが、亀執事は手をパタパタさせて注意を引こうとしている。ぼくも彼も、遠巻きにしている人垣を抜けたあとだった。


「そうよね、行かないと!」

「なんか用事ですか?」


 イゾルデとスーパーエスパーの、二人が発言したのは同じタイミングだった。

 それなりに息が合っているようなのは、この見込みなさそうなナンパを長期間にわたって続けてきたからだろうか?

 ニヤリとするスーパーエスパーとムッとするイゾルデ。


「さすが僕たち、息ピッタ!」

「あなたに関係ないわ」

「人類みな兄弟といいますがね」

「余計なことをいうと、円卓の騎士を呼ぶわよ」

「く、……私にはジェットがある。円卓の騎士なんてこわくない……、まだトリスタンも不在だというし……」

「んなこと言っていると、マーリンも呼ぶわよ」

「マー……、くく」


 ある意味、この二人の掛け合いには付け入るスキがなかった。

 いい込められたエスパーを見ながらぼくは爺にたずねた……。


「マーリンって、海に潜れる少年戦士だっけ? それともパチンコの?」

「違いますぞ、アーサー神話最大の魔術師です」

「この世界の設定だと、魔術が光線銃に勝てるわけ?」

「設定? 魔術は実在しますぞ」

「……? 『ごっこ遊び』じゃないの?」

「そう思っていると、怪我しますぞ。すべてはマズラ様の力により……ですな」

「??????」


 実際に、この世界はコスプレの世界とはいえ、魔術や超科学が存在する世界だった。それは、この時点では全然わからなかったのだが、この後にきっちりと体験していくことになる……。


 エスパーがイゾルデを口説き、それを彼女が受けながし続けている状態が長く続いていた。

 気がつくと少し日が落ち始めてきた。

 亀執事も時間が気になってきたようだ。


「イゾルデ様、そろそ……」

「おーっと、亀爺さん、げんきかーい?」


 エスパーはとつぜん気がついたふりをする。それとも本当に今まで気がつかなかったのか? 

 この世界は、どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、それが本当にわかりづらいのだ。


「こちらのメイクたっぷりの姉さんはどなたかなぁー?」

 マシンガントークで、イゾルデを行かせまいとしているらしい……。

 子供か……。

 それから、ぼく(アタシ)は馬鹿にされているのだろうか? イゾルデは落ち着いたもので、「あたらしいお友だち、レジーよ、となりの部屋に越してきたの」とか、打ち合わせどおりてきとうな話をでっちあげている。

 亀執事は頭を掻いている……。


 ぼくの名前は、とりあえず『レジー』らしい。もちろん、たった今できた思いつきの口からでまかせである。

 「レジー、こちらはスーパーエスパー、特撮番組の主人公なの」 いちおう、ニッコリと微笑んでうなずいておく。


「ふーん、イゾルデの隣の部屋か、いい部屋にこしたんだねぇ……」

 エスパーがぐるっとまわり込んでぼく(アタシ)の後ろに移動してきた。バイザーの陰で目は見えなかった。ぼく(アタシ)は、直立したままだった。


「ぼくもできれば越したいね……」


 亀執事が動こうとしたのと、エスパーがぼく(アタシ)のカツラを持ち上げて取ったのが同時だった。

 頭が涼しい、首の周りも涼しい!

 いや、やばい……

 短くてボサボサの髪の毛がまる見えになる。


 一瞬、フリーズしてしまったが、まわりの人の唖然とした視線を感じて、とりあえず「きゃあ」と叫んだ。そして頭を押さえしゃがみこむ。ぼく(アタシ)は、なかなか演技派かもれしれない……。ざわついた周りの空気からすると、そんなこと考えている暇はなさそうだが……。

 コスプレをしていないことがバレてはいけない。確か殺されるとかなんとか。化粧は念入りにしてくれていたが、髪の毛の生えぎわは心もとない。


「レディになんてことを……」

 亀執事がぼく(アタシ)の頭に上着を被せながらエスパーの方をにらんでいる。

「姫の友達の割には、サイズ違いのカツラなんて……」

「エスパー、あんたにしても性格悪いわね!」

 イゾルデが彼の腕からぶら下がったカツラをひったくる。

「彼女をそのまま置いて行ってくれればいいんだ、……今日は、二十六週目なんだ……」


 一瞬の沈黙、エスパーは何か期待しているようだったが、イゾルデと亀執事は反応しない。


「なんか事情があるみたいだね……」ぼくは亀執事にきいた。いつものことですよ、と、小さな声で彼はこたえた。


「ほら来たぞ……」


 とつぜん、超低音の響きが街じゅうを揺らし、地面がゆれだした。


「わわわわわわ、地震だ、地震だーっ!」


 度肝を抜かれた。城がゆれている。落ちはじめる。窓に置いた花瓶が大地震である。亀執事のスーツをかぶったぼくは、思わず経とうとしたが、すぐにまたしゃがみ込んでしまった。街人たちも逃げようとして倒れたり、立っていられなくて転んだりしている。

 ずべての人が仮装しているこの街にも驚かされたが、じっさいの地震のインパクトには敵わない、……と思っていたのだのだ、まだこの時は。地震も仮装の一部とは思ってもいなかったのである……。


「あら、いい反応!」

 平然と立ったままのイゾルデがこちらを向いてそうつぶやいた気がしたが、ぼくはパニックになっていてその意味を理解するどころではない。亀執事はのんきそうに壁にもたれている。エスパーは大地を踏みしめ、カッコをつけて、おおおおお……とか言っている。


 しゃがんだまま並行移動したぼくは、近くにあった彫刻にしがみついていた。

 揺れはまだ続いている!

 亀執事が近くに来て、これがイベントですじゃ、と小声でいった。

 意味は不明のままだったが、彼のようすからすると、これは想定外の思いもよらない事態ではないらしい……。


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