1-14(15) 真羽人feat.杏奈 帰り道
バーチャル世界のチームリーダーの告別式に参加して解散するまで、メンバーは自己紹介以外のことは会話しなかった。
メンバー全員の共通の居場所である世界について語れなかったからである。
バーチャル世界にハマりすぎて時間をリアルの時間以上に費やして、人生の一番大事だったかもしれないことに失敗して自殺を選んだリーダーについて全員が考えさせられていた。
自殺したリーダーは、まだ中学生であった。 中学3年生で受験の真っただ中にいたはすである。
家族の別れ際のあいさつによると、それほど勉強ができなかったわけでもなく、志望校になんとか入れるレベルにあったらしい。 ただ、今考えると睡眠時間がほとんどなかったのではないかというくらい、この半年痩せこけてきたとのこと。
メンバー全員、思い当たることがあった。 ちょうど、ミッションが達成されそうだがライバルの存在で潰されることが連続されて起こっていた時だ。
あのとき、参謀である”孔明”が、これはゲーム運営側の罠かもしれないから、課金することや時間を必要以上に費やすことはやめようと提案してきた。 リアが忙しい面子の、この小隊には荷が重いと。 ほんとに、もうちょっとでクリアしてレア報酬が手に入るところだったので、みんな、なかなかミッション見送りを渋っていた。
そんな小隊の雰囲気の中、リーダーが決断したように話した。
「俺がなんとかするから、メンバーはできる限りのバックアップしてくれればいい。 俺は、今、ちょうど余った有給休暇を消化しなければならない。 休みの間、頑張ってみる」
その世界の中で個人的にも名が通っていたリーダーだったので、皆、その言葉を頼った。 いや、おそらく、メンバーは口に出さなかったが、今までどおり、リーダーがこの局面を打開してくれるものだと信じていたのだ。
まさか、リーダーが中学生で一番年少と思わなかったため、そのゲーム世界のかりそめの姿に頼ってしまったのである。 もちろん、感覚はゲームなのだが、煽られる欲求心にはみんな勝てなかった。
あとで考えると、リーダーはいつも大人びた服装アイテムを選び、絶対に深く被った帽子アイテムを外さなかった。 年齢を悟られないようにしていたのだ。
メンバーは、何かを口にしたかったが、誰一人出せない帰り道だった。
真羽人は、あの告別式の日から久しくゲーム世界に入っていない。
放課後、真羽人が学校の近くの廃屋に止めてあったエアバイクを引っ張り出して、乗り込もうとする。
「ふ―ん、やっぱり今日もそれで登下校ですか。 真羽人君が制服で走ってる姿を何回か見かけたんだよね~」
真羽人の背中越しに、女の子の声が感情もなく語りかけてきた。
真羽人が振り返ると、制服に身を包んだ杏奈が立っている。
その姿を確認すると、真羽人はエアバイクにまたがりながら吐き捨てた。
「学校にチクるのか? 別にいいよ」
杏奈は、あらかじめ用意していたヘルメットを被ると、エアバイクの後ろにチョコンと乗った。
「はい、レッツゴー!」
そう言うと、前に乗っている真羽人のヘルメットにヘルメットをコツンとぶつけた。
真羽人は、それを合図にするように二人乗りで発進する。
杏奈は、後ろから思いっきり真羽人にしがみついた。
「暑苦しいから離れてくんない」
真羽人は、邪魔くさそうに言う。
「ほら、こうして背中に耳を当ててれば、君が何かを呟いても聞こえるんだよ。 あー! もしかして何かいかがわしいこと考えたな。 けっこう、大きいでしょ」
しばらく走ると、夕暮れの埠頭に着いた二人。
「杏奈って、勉強できるし、スポーツできるし、人気あるし、ゲーム世界でも上位ランカーだし。 しかも、誰でも知ってる元宇宙飛行士と今世紀最高の天才科学者の娘。 将来は、日本だけじゃなく、世界のヒロインになれるでしょ」
「俺なんかとは、特に、リアル世界では違いすぎる世界の住人」
海の彼方に沈みゆく夕日を見ながら、真羽人は自虐的に杏奈につぶやいた。 真羽人は、まだ、杏奈の顔を見ることが出来ない。
そんな、真面目にオチもなく話してくる真羽人に杏奈は笑い転げる。
「ははは、なーあんか、あっちの世界の盛り上げ役の彼と大違いだー、アハハハ」
茶化しながら話す、杏奈。 年頃の女の子なので、いったんツボにハマると笑いが止まらない。
日が沈み、暗くなった湾岸でエアバイクに乗る真羽人と杏奈。
「なんで、リアル世界の俺と一緒に来たの?」
杏奈は、エアバイクに、来た時と同じようにチョコンと乗り、真羽人の背中にしがみつく。
「決まってるじゃない。 話したかったから」
杏奈の小さいげんこつが、真羽人のヘルメットを軽く叩く。
真羽人は、それを合図に闇夜にエアバイクを切り込ませていった。