1-13(14) 真羽人feat.杏奈 同級生
2075年
春の日差しから夏の太陽へと変わろうとしている季節。
学生服に身を包んだ真羽人がエアバイクを走らせていた。
真羽人は、高層ビルと高層ビルの間にエアバイクを忍ばせるように置く。 まるで、いつものことのように慣れた感じのスムーズな一連の流れだ。
そして、真羽人は待ち合わせの場所に向かって歩きだした。
目的地につくと、すでに4人が黒い服装でそこに立っている。
バーチャル世界でのメンバーと待ち合わせをしていた。 バーチャル世界では親しんだメンバーであるが、実際に会うのは初めてである。
真羽人は、ゆっくりと近づいて声をかけた。
「マッハです。 はじめまして」
その言葉に反応するように、立っていた男たちが順々に口を開けていった。
「大明神です」
メンバー誰かの父親かおじいさんかと思っていたが、メンバーのサブリーダーであった。 普段から、リーダーの補佐をしつつメンバー間のとりまとめをおこなっていて、メンバー間では”おやっさん”と慕われていた。
たしかに、普段から落ち着きのある言動を繰り返していたが、まさかの実年齢に真羽人は目を見張った。
「孔明です。こんにちは」
続いての男性は、メンバーの頭脳ともいわれる作戦参謀。 こちらは、バーチャル世界のイメージと変わらず理知的なメガネがキラっと光る大学生である。
「咲のパパです。 8:30の男といったほうがわかりやすいですかね」
ニッコリ笑う顔は、洗練された営業スマイルとよぶにふさわしい爽やかさを持っていた。 年の頃は、30代にさしかかったくらいだろうか。 彼に関しては、バーチャル世界に登場する時間が限られているため、ある程度の状況確認を自らあっちの世界で行なっていた。 結婚している会社員で、奥さんは初めてのお子さんを妊娠中とのことである。
4人目の男性が、少し言いづらそうにはにかんでいた。
サブリーダーである”大明神”さんが、あっちの世界同様にフォローを入れる。
「彼は、あげは蝶さんだよ」
真羽人は、その言葉に驚いて、もう一度”あげは蝶”と紹介された男性をまじまじと見つめた。
「いやいや、やっとバレましたね。 前からメンバーに言おう言おうと思ってたのですが、機会がなくて」
そう笑うガッチリした体格の男性は、あっちの世界では女性アバターであった。 ようするに、ネカマである。
一昔前ならいざしらず、今のバーチャル世界では、個人プロフィール番号をもって登録することが必須となっていたため、複数アバターや年齢、性別を偽る事が困難とされていたので、真羽人は驚いた。
その驚く真羽人の顔を見ながら、”あげは蝶”は言葉をつないだ。
「実を言いますと、登録したときに性別認証のバグみたいで。 ちょっと面白いので、システムが直してくれるまで、このまま楽しませてもらおうかと。」
真羽人は、表情のない顔でうなずいた。 なにしろ、彼女。。。いや、彼はあっちの世界ではファンもいるほどの有名人だった。 真羽人が、このメンバーに入ろうとしたキッカケは”あげは蝶”の追っかけだったので複雑な感情であった。
このメンバーたちは、真羽人がバーチャル世界で参加しているサバイバルゲームの仲間である。 その世界では、小隊7人で構成され、中隊、大隊の中に組み込まれてミッションをこなしていき報酬と名誉を重ねていくゲーム社会。
7人のメンバーのうち5人が集まり、ここに来ることができないリーダーを除くと、あとは真羽人のチーム内ライバルでもある”あんてな”を待つのみであった。
真羽人は黒い学生服、他のメンバーは黒っぽい服装、喪服を着ている。 今日は、チームメンバーのリーダーの告別式であった。 メンバー全員で告別式に参加しようと、”大明神”ことおやっさんが提案して、全員一致で賛同した。
面識がないメンバーの集合場所として、駅前の有名ビルの前、しかもお昼時のお洒落なファーストフードを選んでいたため存在が街からひときわ浮き上がっている。 こどもたち、主婦などがジロジロ見ていた。
そんななか、ひとりの女子高生がセーラー服に身を包み指を指しながら近づいてきた。
待ち合わせ場所を変えたほうがいいよ、と刺すような目線をされながら言われると思い、メンバー全員ちょっと身を引いた。 みんな、無邪気な小悪魔である女子高生は怖かったのである。
「お待たせしました。 ”あんてな”です、みなさん」
メンバー全員が、ぽかんとした表情だった。 真羽人が、さっき”あげは蝶”を見たときの顔を男たち4人が並んで行なっているため、その女子高生は少しだけ笑った。
「あ、私を男性と思ってましたか? 別に、だましてるつもりはなかったんですけど」
はにかみながら話す彼女の声はバーチャル世界の低音声でなく、彼女のしぐさはキレキレの動きを見せる”あんてな”のさっそうとした姿でなく、すべてが年相応の女の子であった。
「やっぱり、真羽人君だよね。 あっちから見て気づいたんだ~」
もう一度真羽人を指さして、その女子高生は話しかけた。
真羽人もようやく気づく。 同じ高校の制服である。 しかも、化粧をしていないスッピンである学年のアイドル、杏奈であった。
真羽人は、今までに話したことも近づいたこともないため、わからなかったのである。
「杏奈。。。さ。。。ん。。。ですか」
杏奈のクリクリした眼に見つめられながら、真羽人は直立不動で、そう言うのがやっとであった。