神々の到着
数日後、生誕祭の前々日の夕刻に件の神々が訪れた。
始めに向かえるのは彼等の騎士達。そして次に出迎えたのが衣装と態度、名前の全く違う見知った筈の金髪の少年であった。
「ようこそ、ルシフへ、向こうの世界の神の御方々。
私は、この光の聖地を抱えるルシフの王、ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエ・オルガと申します。この度は生誕祭と降臨祭に御越し頂き、誠に有難うございます。」
向こうの神々への挨拶と口上を告げると、少年王はこちらの神々へ視線を向ける。
「カーシェイク様、ファース様、御勤め御苦労様です。
今宵は御ゆっくり、御休み下さいませ。」
ルシフ王の衣装は、騎士を出迎えた時とは異なる真っ白な足首までの長い上着。七色の線は、銀色の蔦模様に変り、額飾りは盾の物では無く小さな14個の石で作られた物へと変っていた。
彼は両足で跪き、両手を胸の前で交差したまま頭を垂れている。以前見た事のある、フェリスがした敬礼と同じ物を神々に捧げていた。
アルフェルト達は、その装いと敬礼の違いに内心驚いていた。出迎えをされた神々も彼の態度と言葉使い、そして、衣装の違いに驚きを隠せなかった様だ。
平然としているのは事情を知っている、こちらの世界の者のみ。
その一人であるカーシェイクが少年王へ声を掛ける。
「ルシフ王・ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエ・オルガ、出迎え御苦労様。
顔を上げて敬礼を崩して良いよ。それと、向こうの神々の案内を頼むね。」
カーシェイクに言われて顔を上げるルシフの王は、承諾の言葉を告げて立ち上がり、後ろに控えている者達へ指示を出す。
「判りました、カーシェイク様。
ルシフ・ラル・ルシアラム・リュートリレアム、ルシフ・ラルファ・ルシアラム・レムトバラン、ルシフ・ラルファ・ジェスリム・ルシアラム・カレアクル、他の神官達と共に向こうの世界の神々の御方々を、御部屋へと御案内して下さい。」
彼の言葉で神官達は神々に近付き、挨拶を交わして彼等を白い建物の中へと連れて行く。その神官の中に、薄緑の見知った神官はいない。
その事に気が付いたルシェルドとエルシアは、ルシフの王と名乗った少年を見ていた。その視線に彼は、微笑みながら尋ねた。
「如何されました?何か、不具合な事でもございましたか?」
「いや…そうでは無い。お前は…オーガなのか?」
逆に問われた少年王は、軽い微笑を浮かべたまま、答える。
「今の私は、ルシフの王、ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエ・オルガでございます。オーガとはリシェアオーガ様の事でございましょうか?」
他人事の様に告げる彼に、カーシェイクが近付く。
「もう、良いんじゃあないのかな?それとも、降臨祭が終るまで続けるのかな?
彼等が困惑しているよ。」
苦笑か、楽しみのそれなのか、判断出来無い微笑みで忠告する知の神へ真面目な表情で少年は答える。
「…祭りの間に関わらず、此処の装飾の衣装を身に着けている時の私は、ルシフ王ですよ。カーシェ様、神々が何とおっしゃろうと、それは変えられません。」
ルシフ王としての口調で、自らの肩に付いている盾の紋章を示して告げる彼に知の神も楽しそうな微笑となり、頷いた。
「そういう訳だから、混乱したまま放置させて貰うよ。
何か知りたいのなら、オルガに聞くと良いよ。あっと、間違っても、この服装の時にリシェアとして扱ったら、駄目だからね。特にルドはね。」
さり気無く釘を刺す神の毒は、健在であった。
苦笑するルシェルドに、エルシアも同じく苦笑いをしていた。その姿を確認するとルシフ王は、カーシェイクに問った。
「カーシェ様、予定外の方がいらっしゃるのですが、御案内した方が宜しいですか?」
誰を差しているか、もろ判りの質問に知の神は答える。
「一応、案内してあげても良いよ。
…っと、神官達はいない様だけど、ルドは如何するの?」
「黒髪の御方には、ちゃんと案内は設けております。フェリス、此処へ。」
名を呼ばれて現れたのは、見知った神官…珍しい薄緑の髪で紫の瞳の青年…。彼は微笑みながら、ルシェルドへ挨拶をする。
「私は、ルシフ・ラルファ・ファムエリシル・ルシアラム・フェリスと申します。
御久し振りですね、ルシェルド様、エルシア様。」
挨拶を交わした後、フェリスはルシェルドへ向き直り、もう一度、頭を下げる。
「私がルシェルド様の御案内を務めさせて頂きます。
………陛下、此方のエルシア様は、如何なされますか?」
一旦、エルシアを視界に入れてからルシフ王へ振り返り、指示を仰ぐ。嫌がらせに思える遣り取りでもあったが、直ぐにそうでは無いと、判った。
「其方の方は、私が御案内します。
我等が聖地の神と同じ御色の御髪の御方、此方へ。」
そう言って右手を差し出してエルシアを誘い、白亜の建物へ入って行く。ルシェルドも、知の神の夫婦も、その中へと入って行った。




