精霊騎士達の提案
騎士達の暖かな遣り取りの中、幼き子供の目がアルフェルトを捉える。じっと見つめ、何かを捜している様な紫の瞳に気が付いた彼は、幼子に声を掛ける。
「アフリス様、私に何か、ご用ですか?」
自分の神の妹という事で、敬語を話すアルフェルトに、幼子が口を開く。
「アルゥって、リシェお兄ちゃまから祝福されたの???でも…アルゥの腕だけじゃあなくて、肩の方の飾りからもお兄ちゃまと同じ気配がするの。」
真剣な眼差しで告げる幼女に、アルフェルト達向こうの世界に騎士は驚く。それを気にしない彼女は、彼の肩にある飾りを指して質問を続ける。
「この飾り…リシェお兄ちゃまとリーナお姉ちゃまの輝石もあるけど、それを包み込む気配がお兄ちゃまと似ているの…なんで?」
問われた事柄にアルフェルトは一瞬不思議そうな顔をしたが、直ぐにその答えが判ってそれを幼子へ教える。
「一応、リシェアオーガ様の祝福の金環を授かっていますが、アフリス様がおっしゃっているのは肩の紋章の事ですね。
この紋章は、ルシェルド様の物ですよ。アフリス様が感じているのは、私に取って、もう一人の我が神に当る方の、気配だと思いますよ。」
アルフェルトの答えに、幼子は不思議そうな顔をしたが、何かに気が付いたらしい。直ぐに、にこやかな微笑を浮かべて嬉しそうに話し掛ける。
「アルゥって、しゅごいのね。二人のしゅご神に祝福されてるの♪
ル~~~う、ルドって、リシェお兄ちゃまとおなじ気配なの~~~。」
言い難い為か、教えられた名を短縮する幼子に周りは微笑ましさを覚える。そして、彼女の言葉に答えたのは、兄であるリシェアオーガであった。
「アフェ、ルドと私が似ているのは確かだ。同じ力を持つ神だからな。」
そう言って妹の頭を撫でる兄へ、もう一人の妹が体を寄せて彼の服を掴む。
「お兄様の御力は護る為の物。破壊しか知らない、あの方とは違います。
それに…私は…あの人達を許せませんわ。」
珍しく怒りの籠った少女神の声に、こちらの世界の周りにいる騎士達、神官は頷いていた。彼女の様子にアルフェルトが跪く。
「我が神と我が世界の安定の為とは言え、こちらの方々に他害なるご迷惑をお掛けして、申し訳ございません。
我が身を差し出しても、こちらの方々に許しを得るとは思いませんが、如何か、この場にて、我が神に代わりお詫びいたします。」
アルフェルトの言葉を受けて他の聖騎士達も跪き、同じ様な言葉を継げる。彼等の行動に一人の精霊騎士が言葉を掛ける。
それは、光の精霊騎士だった。
「如何やら貴方々は彼方の神々が此方に対し、どの様な事を仕出かしたか、理解出来ているようですね。
確かに世界の安定は必要ですが、他の世界の者を、他の世界そのものを犠牲にしてのそれは大それた事です。今回起こった事は、そう言った類の出来事なのですが……貴方々は他に何があったか理解されていますか?」
言われた事に、向こうの聖騎士達の中で三人程即答を返した。
「恐らく…巫女様のご家族が悲しまれたと、推測出来ます。」
「我が神から、向こうとこちらが同じ時間の流れだと聞いております。巫女様を失った方々が…悲しみを抱えたまま亡くなったと…。」
「家族を失った方々の心労を思うと…申し訳ないと思います。
ティルザ殿の様に、巻き込まれた方のご家族も…悲しまれたと思います。」
直接リシェアオーガに関わった者達が口々に正解を言うと、光の騎士は微笑を浮かべた。
「各々、判っておられるようで結構です。
然し貴方々の仕えている神々は、理解出来ているのでしょうか?
まあ、一部の方は理解していらっしゃるようですが、その事を私達は貴方々の神々へ伝える事を予定しています。」
向こうの神々に物申すを告げられ、聖騎士達は何も言えなくなった。
こちらの事を思うとそれは致し方ない事。
世界に危機に晒されたのだから、彼等の言い分は納得出来たのだ。その事を踏まえて彼等が頷くと光の騎士は表面だけの微笑となり、重要な事を告げる。
「一応、忠告までに御伝えしますが、私達はリシェア様を、この世界から攫った輩を許す事は出来ません。
然も、その御命まで危うくされたのでは余計です。
リシェア様は、我等騎士にとっても我が神同然の御方。その御方を蔑ろにした事も、私達は許せないのですよ。」
当然の言葉を聞き、彼等は何とも言えない顔になった。
この世界にとって大切な守護神を奪った事は、そこに住む者達の怒りを買って当たり前と感じた。彼等の態度を横目で見ながら、光の騎士は私情を付足す。
「まあ、私以下一部の者は私怨もございますので、この度来られる貴方々の神々へ文句を言わせて頂きますね。」
光の騎士の怒りを内に秘めた声を彼等は、無言で聞いていた。
自分の神を蔑ろにされ、その命さえ危険に晒された事で私怨が湧いても仕方がない事だと思い、向こうの騎士達は、お互いを見合わせた後、彼等の代表としてアルフェルトが口を開いた。
「ルシナリス達の言い分は判りました。
我等が神々に実力行使をされないのなら、我等は黙って見守りましょう。それが我等の神々の成長に繋がると、我等は感じます。」
返された言葉に冷たい微笑が消えて普段それに戻った光の騎士は、他の騎士達へ向き直った。
「神龍様方、他の精霊騎士達、聞きましたか?
実力行使だけは絶対に禁止ですよ。
神龍様方は勿論、特にアレィとべルア、レスは、ちゃんと覚えて置いて下さいね。リシェア様の事になると私を含み、暴走しかねませんから。」
さり気に己を混ぜる光の騎士から名指しされたアーネべルアとアンタレスは、溜息交じりで承知した。残ったアレストは、納得行かない様だったが、リシェアオーガの言葉で頷くしかなくなった。
「アレィ、気持ちは判るが今、兄上がアレィ達の分を含めて彼等に説教をしている。
未だ終わっていない所を見ると、かなりの私怨が入っている様だから彼等には良い薬だろう。故に、実力行使だけは絶対に我慢してくれ。」
「……カーシェ様が、自分達の、代わり、している、なら、諦める。
でも、許す事、出来無い。」
闇の騎士の言葉を受け、再び光の騎士が向こうの騎士達に声を掛ける。
「聞いての通りなので、私達が納得する妥協案を用意しています。それを向こうの神々に実行して貰う予定ですよ。
ああ、暴力ではありませんので心配は要りません。只、此方の世界への、誠意を見せて頂ければいいのですから。」
何か引っ掛かる様な言い方であったが、暴力で無い事は断言した彼へ向こうの騎士達は納得せざる負えなかった。
後は彼等の神々を待つのみ。その神々にどの様な試練が待ち構えているか、彼等聖騎士達にある程度想像出来ていた。
だが、彼等がその時出来る事は、無言で控えている事のみ。
それが向こうの神々の為になるのであれば、尚更であった。
聖騎士達の仕える神々が到着するのは、あと少し。
それまで彼等は、こちらの騎士達と神官達、そして、ルシフの人々と触れ合い、こちらの神々がどれ程慕われているか実感する事となる………。