王の執務室
部屋に通されて自分の荷物を置いた騎士達は、再び少年達に会う事を希望し、神官達によって執務室へ案内される。
そこ…執務室では同じ様に騎士で溢れ、数人の神官もいた。先程の大神官補佐も既にこの部屋へと帰っている。
「…ほゞ出来上がったのか…。」
「はい、後は、向こうの神々を迎えるだけです。
普段の準備とは別に、ランナとコウが独自に何かを作ったみたいですので、ご確認をお願いします。」
大地の女神の祝福を受けた騎士に確認を取り、ついでとばかりに言われた事に少年王は、名指しされた二人の騎士へ微笑みながら労いの言葉を掛ける。
「ランナ、コウ、御苦労だった。ランには、お咎め無しの申し入れを私からして置く。レスも彼等への説教は、今回の事のみ無しにしてくれ。」
言われた言葉に、仕方ありませんねと返す大地の精霊。その遣り取りが終った頃に扉が叩かれ、向こうの世界の騎士達が訪れた事を告げる。
彼等を招き入れた少年王は、先程の微笑のまま対応した。
「何か足りない物でもありましたか?
御食事の方でしたら神官達に告げて貰えば御部屋へ持って行くか、食堂へ御案内しますが…。」
時間的を考えて、そう告げる少年王であったが事実は違っていた。
「いえ、そうでは無くて、施設をお借りしたいのですが…ここにあるか如何かが、全く判らない物なので…。」
彼等を代表して太陽神の聖騎士がそう言うと、王と周りの者は何かを悟った。そして、残念そうな顔をする少年が返事をする。
「訓練場でしたら、残念ですが屋外の物は使えません。
今は祭りの為に、その場所を訪れた舞踊家の方々と一般の方々で、野外での御泊りを御望みの方に開放していますので。」
ルシフ王の言葉に彼等は納得した様だったが、その様子で少年王は微笑んで続く言葉を付け足す。
「ですが、屋内の物でしたら御使いになれますよ。
もし、宜しければ此処にいる騎士と共に、訓練されては如何ですか?丁度、彼等も祭りの準備も一通り終えた所ですし、体熟しをする者もいるでしょう。」
周りの者達の事も考えての提案に、向こうの騎士達が内心喜んだ様に見え、先程の太陽神の騎士が代表して質問をする。
「宜しいのですか?」
向上心が見え隠れする騎士の質問に、少年王は喜んで答える。
「構いませんよ。ティル、レス、ランナ、案内を。
それと他の精霊騎士の方々で、彼等との訓練を望まれる方がいらっしゃるのでしたら、一緒に行って貰えますか?」
少年王の承諾を得て頷く騎士達へ、名を呼ばれた騎士達が近付き、緑の髪の騎士が彼等へと気軽に声を掛けると同時に、他の者を迎えに行く騎士にも話し掛ける。
「と、いう訳で、宜しく。
ティル、多分、ルシェさんとラン大伯父さん、アレィさんは来ると思うから迎えに行ってね。あ…レアさんを忘れたら駄目だった。」
他に来そうな騎士の名を上げる木々の精霊へ、名指しされた炎の騎士が答える。
「判った、ランナ。多分、向こうには既にべルア殿がいると思う。
他の精霊達も来るかもしれないから、そこの処を宜しく頼む。」
「ずるい~!僕も行く!!」
先程の黒髪の少年に同行を宣言され、苦笑するランナと部屋を出るように促すアンタレス。そんな彼等と共に騎士達は、王の執務室を後にした。
静かになった部屋では、大神官とその補佐達が彼に声を掛ける。
「陛下、御一緒に行きたかったのではありませんか?」
少年王の性格を熟知している大神官の言葉に首を振り、真剣な顔で答える。
「リュート、まだ仕事が山済みだ。それが終わるまで此処を動けないだろう。
それに彼等なら、一日中でもあの場所にいるだろう。」
騎士達の行動を想像して告げられた言葉に、もう一つの可能性を付け加える。
「それに彼等を、精霊騎士達が離さない可能性もあるし、仕事も後少しで終わる。そうしたら……って、リュート、レムト、カレア、…フェリまで…。
それは私の仕事だろう?」
この後の予定を言い終わる前に、傍にいた神官達によって机にある書類を全て取り上げられ、文句を言う王へ彼等は告げた。
「此れ等の仕事は、陛下が直にしなくても宜しい物ばかりです。
此処一か月の間、ずっと書類と睨めっこして御出でで、御不満も御有りでしょう。まあ、此れから色々なされる御予定ですし、気分転換にあば…いえ、一休みなさりませ。」
大神官の忠告を皮切りに、大神官補佐の一人からも声が掛かる。
「そうですよ、大神官様のおっしゃる通りですよ。
陛下も久し振りに、御逢いになられた方々でしょう?フェリも貸し出しますので、存分に御話されたら如何ですか。」
不意に名を上げられた新米大神官補佐は、驚きながら声の聞こえた方へ向く。
「…えっ私もですか?大神官様、レムト殿…
あっ……カレア殿、何故、背中を押しているのですか?其方は出口でしょう。」
持った書類をレムトに取られて部屋の扉へと押されるフェリスは、強い抗議の声を上げるが、押している本人・カレアから声が掛る。
「フェリ殿に、陛下の監視を頼みます。
陛下…いえ、リシェア様、大神官様の言う通り一旦、軽く息抜きをして来て下さい。」
三人に言われた少年王は、仕方無く席を立つ。そして脱いでいた上着を羽織り、フェリスを従えて彼等へ声を返事を投げる。
「判った、そなた達の言う通りかもしれない。ちょっと息抜きをして、また仕事に戻る。
それまで頼む。」
あくまでもルシフ王として言う少年に、彼等は行ってらっしゃいの挨拶を返して送り出す。
残された神官達は、完全に終えるべく再び仕事を始めた。