馴染みの神官との再会
向こうの世界の騎士達が招き入れられた建物の内装は、華美過ぎず地味過ぎない上品な物で、外装と同じ白地に小さな金の月と銀の月、縁取りの緑の蔦の模様が加えられていた。
この装飾に意味がある気がしたディエンファムは、少年に尋ねる。
「オルガ殿、こちらの建物の装飾には、どの様な意味があるのでしょうか?」
問われた少年王は、入り口正面にある紋章を見上げ、微笑を浮かべながら、紋章が掲げてある壁の装飾の意味を説明をする。
「白地に月と太陽は光の神・ジェスク様を、緑の蔦はその奥方である大地の神・リュース様を表しています。」
「白が光を表すのですか?」
再びディエンファムに質問され、紋章から彼へと視線を移して頷く少年王は、更に驚くべき真実を口にする。
「この建物は全て、光の神が無から創る輝石であるルシム・ガラムアで出来ています。かの神が創る白き輝石・ジェスリム・ラザレアで、この建物を形作っているのですよ。」
暗に光の神が創った建物だと告げられて、彼等は唖然とするが、周りの様子を気もせずに少年は淡々と説明を続ける。
この国はその名の通り神々が護る国であり、その紋章にも神々…初めの七神の剣が表現されている事。
盾は護りの結界であり、その内側の縁を飾るのが七神の剣、真中に配置されている龍は光龍…守護神たる戦の神の化身である事。
そして、これらが護るのは龍に抱かれている神の華…つまり光の聖地であり、この国でもある事を教えられる。
玄関の真正面にある盾の紋章を説明が終わると、この国が何故そんなに待遇が良いのか納得が行かない騎士もいた。しかし、次の言葉で納得出来た。
「この国は、終えた一生を神々から良き物として認められた者が、生まれ変われる国…そして、それ故に神々が彼等を護るのです。
争いの無い、平穏な国。
それがルシム・シーラ・ファームリア、略してルシフの国なのですよ。」
この国の成り立を告げ、続けて仕組みを説明するルシフ王。
先程説明した理由でルシフの国を治める者は、前王と神々によって選出される事。これ故に現王は、初めの七神の神官の役目も担い、大神官より上の地位を示す事。
そして、己の説明を終えるべく言葉を綴る。
「詳しくは、神官達に説明を受けて下さい。
彼等の方がより一層、判り易く説明出来ますから。」
そう言って説明を打ち切る王へ、神官達が寄って来た。
一同に彼等へ挨拶する神官の中に、見知った髪の色の神官がいる。かの神官は他の神官達を伴い、ゆっくりと彼等へ近付いてきた。
「御久し振りですね、アルフェ様、レイン殿、ディエン殿、クレオ殿。
そして、他の方々は初めまして。私は、この国の大神官補佐を務める一人で、ルシフ・ラルファ・ファムエリシル・ルシアラム・フェリスと申します。
私共が、御部屋への御案内をさせて頂きます。」
神官達の代表として彼が挨拶を終えると、以前と違う装飾が彼等の目に止まる。両肩にあるのは盾の紋章、額には小さな龍と共に盾が加わっている。
名乗った名前にも変化があり、ルシフの神官の装いと名だと理解出来た。彼の言葉を皮切りに神官達は其々の騎士に付き添い、彼等を案内し始める。
フェリスはというとアルフェルトを案内すべく、その場に残っていた。久し振りに会うフェリスに、アルフェルトは立ち竦んでいた。
まさか、来た早々会えるとは思わなかった師匠を、只、見つめる事しか出来無かったのだ。その様子に、フェリスは微笑み掛ける。
「相変わらずですね、アルフェ様。
我が神の祝福を受けている貴方様は、私が御案内させて頂きます。そうでないと他の者に示しが付きませんし、久し振りに御話もしたいので…
宜しいですか?」
訊かれて我に返ったアルフェルトは、大きく頷き、久し振りに会うフェリスと共に宛がわれる部屋へと向かった。
後の残った五人の内、二人…ルシフの少年王と紅の騎士は、笑いながら彼等を見送っていた。
「アルの奴、驚き過ぎて立ち竦んでいましたね。」
「そうだな、私の態度にも驚いていたし、フェリに会っても驚いていた。
…これから先、どれ程驚くのか、楽しみだ。」
悪戯好きの笑顔を浮かべ、愉快そうに笑う己の主に紅の騎士は、溜息を一つ吐いて進言をする。
「あまり苛め過ぎない様にして下さいね、我が王。…あっと、苛める相手は違いましたね。アルの場合は、彼が色々な事を知って反応を楽しむ…いえ、見るだけでした。
本当の獲物は、これから来られる方でしたね。」
思い出した面々の事を告げる彼に、木々の精霊が反応する。
「そうだよね、ティル。
あの子は俺達と同等の子だし、苛めちゃあ可哀そうだよ。」
二人も言い草に主が呆れ返って、己の口を開く。
「…ティル、ランナ、本当の獲物って…ああそうか、太陽神と風神の事か?
後、ルドも含んでいるのか?」
何かを悟った主の返答に、勿論と二人分の良い返事が返って来た。
それを聞き、更に微笑む少年。
驚かす手筈は整っているらしく、祭りの準備とその他に色々と付足しを行う為に、彼等も執務室へと帰って行った。
取り敢えず、ランナの説教は後回しにされ、この世界の騎士達とルシフ王は、前以て考えていた計画の準備を再開した。