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生誕祭  作者: 月本星夢
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ルシフと言う国

今回から少しの間、アルフェルトとその仲間の聖騎士達の話になります。

 一方、数日前のルシフでは、既に向こうの神々の騎士達が到着していた。ルシフと言う国へ向かう、たった一つの街道の入り口である草原に彼等はいた。

面子は光の兄妹神の騎士達、守護神の騎士とその見習いに水と炎、風と大地の騎士の計八人。御互い顔見知りの騎士達であったが、月の騎士が重く深い溜息を吐きながら愚痴を零す。

「本当に、ここで良いんだな。この駄々広い草原で。」

彼等の中で一番体格の良い騎士の、低い声が響く。

これに応じて、優しげな声が返る。

「ええ、アルフが教えられた場所は、確かにここですよ。ね、アルフ……?何か考え込んでいる様ですが、如何しました?」

大地の精霊の声に、アルフと呼ばれた騎士が振り返る。

「え?…あ…れ?ディエンは、ここにいるよね。…こっちへ近付いてくる大地の気配があるんだけど…誰だろう?」

アルフの言葉に他の者も気配を探ると、確かに近付いてくる者がいる。大地の気配を纏い、ルシフとは反対の方から彼等の処へ来る気配。

以前会った大地の神龍とも違う気配に、彼等は警戒した。

「ようこそ、ルシフへ。君達が、向こうの神々の聖騎士達だね。

初めまして、俺はこちらの大地の精霊騎士でアンタレス。主の命を受けて、君達を迎えに来たんだけど…もう二人程、見なかったかな?」

彼等を迎えに来たという精霊騎士に、敵や不審者であると言う疑いは拭えないが、その姿に驚いてもいた。

カーシェイクと同じ彩…緑の髪と紫の瞳。

不思議に思う彼等へ、再びその精霊から声が掛る。

「ああ、カーシェ様を知っているんだったね。俺の髪の色と瞳の色は、生まれながらにして、大地の神・リュース様の祝福を受けている証なんだ。」

「大地の神の祝福ですか?…あ、挨拶が遅れました。

私は大地の神・カルミラ様に仕える聖騎士で、ディエンファムと申します。」

ディエンファムに続いて、他の騎士もアンタレスと挨拶を交わす。その間に再び、彼等へと近付く気配があった。

闇と一緒に、大地と言うより森の様な気配。その気配達から声がした。

「レス~遅くなって御免、ランナをやっと捕獲したよ~。っと…そっちは、お客人を捕まえたみたいだね。」

「ちょっ、コウ、この馬鹿力!!引っ張るなよ。」

「人の呼びかけを完全無視する方が悪い…と、初めまして、僕の名はコウで、こっちはランナ。」

初対面の聖騎士達に向かって、簡単に挨拶する黒髪黒目の小柄な少年と、彼に引っ張られている緑の髪と瞳の青年。近くの森から出たらしい二人の姿に、周りの視線が集まる。

共に精霊と思われるが、少年の腰にある剣に違和感を感じた。

アンタレスと名乗った精霊と、もう一人のランナと言う精霊の剣は、同じ装飾の色違い。対して、少年の剣は全く別で、向こうの世界では幻獣である龍…然も、向こうの装飾品で良く見る黒龍であったのだ。

彼等の目線に気付いた少年は、悪戯な笑みを浮かべて彼等の出方を見ている様だった。しかし、未だ少年に右腕を引っ張られている精霊は、その視線達を無視して少年への言い訳を告げる。

「無視した訳じゃあないって。ちょっと、所要があって…。」

「…ランナ、今回の祭り用に可笑しな仕掛けを作るなって、兄者から何度も厳重に(・・・・・・)言われなかったか?」

大地の精霊と緑の精霊の会話で少年の顔は呆れたようになり、彼等の出方を見るのを止めて、仲間の方へと向き直った。

「へ~ぇ、ランナ、あれ作ってたの?で、完成はまだなの?」

期待に満ちた言葉を返す少年へ、青年は嬉しそうに答える。

「一応、出来たよ…って、レス、痛いんだけど。」

ランナの答えに条件反射で頭を叩いたらしいアンタレスは、彼を一睨みした後、唖然として静観している向こうの騎士達へ向き直った。

「身内の恥を晒して、申し訳ない。取り敢えず、こちらへ。

ランナ、コウ、彼等をルシフへ案内するのが先だ。説教はそれからだ。…二人とも…たっぷり兄者から、とっちめて貰うからな。」

身内の恥と言われて顔を見合す彼等だったが、不思議に思った代表のアルフことアルフェルトがそれを口にした。

「アンタレス殿、身内ってランナ殿ですか?コウ殿ですか?」

「敬称なしで、愛称呼びのレスで()いよ。俺達と君達の立場は全く同じ様だから、勿論敬語もなしで。

他の騎士達も是非そうしてくれ。それとランナは、俺の甥の孫に当たる。」

大地の精霊と別の精霊が親族と聞いて更に疑問が増えたが、精霊達は微笑みながら、ルシフに着いたら詳しく説明をすると告げた。

こうして大地と木々、そして闇の精霊と出会った向こうの騎士達は、ルシフと言う国へと案内された。



 彼等が到着した先は、こじんまりとした小さな国であった。いや、国というには余りにも小さ過ぎると彼等が思う位であった。

村とか町と言っても詐称の無いここは、二つの真っ白な高い塔を持つ建物を中心に、平原の高台から見て右に神殿、左に人々の住居があり、その後ろに段を経て下に天幕のある広場と畑が広がっている。

広場と街中には人々が溢れ、街中の方には様々な屋台が立ち並んでいた。正に祭りの風景を彩っている場に、彼等は目を奪われる。

「凄いですね。生誕祭って、こんなに賑わう物なのですか?」

象牙色の外套を羽織る向こうの世界の聖騎士に尋ねられ、こちらの世界の精霊騎士達は楽しげに答える。

「少ない位だよ~。今回は特別のお客だから、普段もよりお客さんが少ないんだ。本当はもっと、多いんだよ♪

今年は生誕祭と降臨祭の同時開催だから、この倍くらいだね。」

最初に毎年の事を思い浮かべているであろう、闇色の少年が質問に答え、その後に大地の精霊が続く。

「そうだな。

何時もの生誕祭なら各国から大勢の王族とその護衛が来るし、その分、人も、屋台も、舞踊家も多い。だけど今回は、厳選した舞踊家と馴染の屋台の出店ばかりだから、この位の数になったんだ。」

「普段から、ちゃんとした人達で祭りを行っているけどね。

今回は特別だから、余計に気を付けたんだ♪

まあ、王族は来れないけど、一般の人は来れるようにはしてるよ。ただし、今年だけしか来れないって人限定!なんだけどね。」

最後の緑の精霊から事前に参加者を厳選していると言われ、騎士達は驚きつつも納得した。向こうの世界の神々が来るとなれば、様々な問題が起こるであろう。

それを想定しての、今回の祭りの準備を彼等がしている事は、感謝する事だと認識した。この気持ちを相手方の騎士達へ告げ、国をぐるりと半回転する坂を降りて、ルシフで一番大きいと思われる建物へ着くと一人の少年が佇んでいた。

聖騎士達に取って見覚えのある少年だったが、その身に着けている衣装は神聖な気を纏っていた。彼は案内の騎士に労いの言葉を掛けると、向こうの世界に騎士達へ向き直り、膝を折らずに一礼をする。

「ようこそ、ルシフへ、向こうの世界の神々に御仕えされている聖騎士の方々。

私は、この光の聖地を抱えるルシフの王、ルシム・シーラ・ファームリア・シュアエリエ・オルガと申します。この度は遠路遥々、我がルシフで行われる生誕祭と降臨祭に御越し頂き、誠に有難うございます。」

白地で太陽と月の装飾と盾の紋章に飾られた、国王らしい豪華な衣装を身に纏う少年に彼等は言葉を失った。

聞き覚えのあるどの口調とも違うそれと、見覚えのある物と全く違う態度。

本人である事が疑われるそれらに、彼の後ろで控えている紅い髪の騎士が我慢出来なかったらしく、少年王へと声を掛ける。

「我が王、無礼を承知で口を挟ませて頂きますね。

こちらが見る限り、彼等が大変困惑しております。これ位で、建前の口上をお仕舞になされた方が宜しいかと思いますが、如何でしょうか?」

紅の髪と青紫の瞳の見知っている騎士の言葉に、彼等は我に返ったらしい。普通に挨拶を返す前に、少年の態度を確認する。

無言の少年は、自分の騎士の言葉を敢えて無視している。

この様子でルシフの王として対応する心算である事が判明し、向こうの騎士達も追及を避け、一部は初対面の様な挨拶を返す。

そして、もう一度彼へ視線を向けて、身に纏っている服装を確認する。

前に見た神龍王の衣装とまるで違う、人間の王族のそれと思われる衣装は、白地に月と太陽の裾模様と共に七色の線で縁取られた膝までの長さの上着、袖口の折返しにも同じ模様があり、その両肩には盾の装飾品が様々な色で刺繍されている。

他も全て白であるが、上着から覗く短衣には月と太陽の、布製の靴には盾の模様が見え、額には金色の鎖に通された小さな七つの石と、中心の小さな盾の飾りが存在していた。背中は見えないが上着の袖口から、小さな盾の装飾品が見え隠れしていて、この装飾が意味を持つ事が判る。

そして、この衣装は、以前見たフェリス神官が来ていた服並の神聖さを持っている。いや、それ以上の神聖さを放っているように感じ、彼等は無言になっている。

この様子にオルガと名乗った少年は、クスリと軽く笑い、

「此処はルシフ、正式名・ルシム・シーラ・ファームリア、私達の神聖語で、神々の護る国と呼ばれる小国です。

故に私の衣装は、神に仕える神官達の衣装と同じ材料、同じ方法で作られており、この為、神々の気配を御借りする事が出来るのですよ。」

と、簡単な説明をした。その後、向こうの世界の聖騎士達を見回し、何かを思い当たったらしく言葉を続けた。

「聖騎士の皆様方は、向こうの世界と言う遠い所から御越しになられておられるので、大変御疲れと御見受けします。

このままでの立ち話も御辛いと思いますから、我等が王宮の中へどうぞ。

御部屋の方も御用意は済んでおりますので、王宮に入城次第、担当の係の者達が御案内致します。」

総労いの言葉を掛けながら少年王は、彼等を白い建物の中へ招き入れた。

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