降臨祭の始まり
向こうの神々が生誕祭を楽しんだ翌日、今度は降臨祭の始まりが告げられる。
しかし、そこには見知ったルシフ王の姿は無く、同じ背格好の木々の精霊剣士の姿があった。深い緑の髪と瞳でルシフ王にそっくりな少年は、自分の属性の特徴である緑の剣士服に身を包み、木々の精霊剣を持っていた。
周りには光の騎士とアルフィートと呼ばれていた聖獣、そして…見た事も無い銀色の髪をした双子らしい人物だった。
一人は騎士服を着込み、もう一人は長衣を着込んだ二人は、その木々の精霊剣士の傍で何かを話していたが、ルシェルド達の視線に気が付いて彼等と挨拶を交わす。
「一応、初めて御目に掛かる。
我等は、神龍王に仕える銀蛇と呼ばれる者で、我は闘のジルシェと申す。」
「この姿では初めまして。同じく、知のハルシェと申します。」
前者は真面目な顔で後者は微笑を湛えて挨拶をするが、視線だけは双方とも厳しい物であった。
理由は恐らく神龍王…リシェアオーガの身を危険に晒した相手だと言う事だろうが、それ以上の何かがある気もする。
そんな事を考えているルシェルドの耳に聞き覚えのある声が届く。
「ジルも、ハルも、一応、客人なのだから、あちらの神々を威嚇するのは止めないか。」
口を開いたのは彼等の傍にいる木々の精霊の少年…。
暗緑色の瞳をルシェルド達に向けて溜息を吐いている。
「もしかして…オーガなのか?」
「やはり、リシェア殿なのですね。」
確認の為に疑問形となったルシェルドの言葉へ、カルミラの肯定の言葉が重なる。彼等の言葉に向こうの神々は驚き、目の前の木々の精霊へと視線を送る。
如何見ても精霊にしか見えない姿と気配…本来持ちうるリシェアオーガ自身のそれが、全く感じられないのだ。
彼等の様子で、リシェアオーガの傍にいた光の騎士が溜息を吐く。
「如何やら、カーシェ様の教えは、リシェア様の神話まで至っていない様ですね。
カーシェ様からの御説教が多いのも考えものですが…リシェア様達が置かれた状況を考えると、仕方無い事ですが…ね。」
妹馬鹿の兄の事を告げる光の精霊に細やかな反論が返る。
「ルシェ、こればっかりは仕方の無い事だし、私自身、譲れない事だよ。
それは父上や母上、伯父上達も承知だし、何より、リシェアとリーナからも御願いされている事だからね。」
妹達から頼まれている事を告げると、そうでしたねと光の騎士も呟く。
この遣り取りで今のリシェアオーガの姿が何を意味しているか、カルミラ以下、神龍王の事を教えられた者は悟った。
これから始まる催し物は、彼の神話に関わる事。
今とは全く異なる姿で綴られる彼の神話。
舞台にいるのは黒髪の神龍であったが、その手にある剣は何時も彼の腰にある物と違っていた。これに気が付いたルシェルドであったが、大きく鳴り響いた竪琴の音で尋ねそびれてしまった。




