運命の神
向こうの神々の特訓と守護神の志が決まると、彼等はその場から去った。
明日の祭りの最終確認をする為に精霊騎士達がルシフのあらゆる処へ赴き、人々共に点検を行う。
こちらの神々は場所を広間に移して向こうの神々の相手をしている。しかし、その中に向こうの月神の姿とこちらの愛と美の神と大地の神の姿が無かった。不思議に思ったルシェルドは、己の一番近くにいた薄紫の髪をした男性とも女性とも取れる神に話し掛ける。
「確か…フェーニス殿でしたね。
つかぬ事をお尋ねしますが、イリーシア…いえ、私達の世界の月神とリーナとリュース殿の姿が見えなのですが、何故ですか?」
話し掛けられたフェーニスは微笑を添えて答える。
「多分、リュー達は、明日の衣装の準備で大忙しなんだよ。
ルド、だったね、私やリューに敬称は要らないよ。同じ様に神の役目を持っているのだし、出来れば敬語も使わないでくれると嬉しいんだけど…無理かな?」
柔らかな微笑と共に答えられて序でに敬称と口調を直して欲しいと言われるが、ルシェルドは首を横に振った。
「申し訳ないのですが、敬称と敬語は直す気になれません。
ナサやファー、オーガ達の御両親ですし、尊敬に値する七神の方々ですから。勿論、ジェス殿にも承知して頂きました。」
光の神から妥協策で愛称を求められた時は面食らった彼だったが、同じ様に目の前の神からも愛称で呼ぶ事を求められる。
以前こちらの神官であるフェリスが言っていた事が真実である事を知り、少し苦笑気味になった。その様子にフェーニスは更に微笑み、この事に関して説明をする。
「こっちの神々が私的な場面で堅苦しい事を嫌うって、フェリに教えられたでしょう。
特にジェスとかリシェとかは、その傾向が強いんだよ。まあ、あのジェスが納得してるんだったら私もそれで良いよ。」
敬称と敬語が取れない事を知ったフェーニスは、ふとルシェルドを見据える。そして意味深な言葉を吐く。
「ルド、君は今、最良の道に続く物を選択をして歩み出している。
だけどこの先、まだ君の道は分かれている。リシェの導きがあるけど君の努力次第で、それは最良にも、最悪にもなる。
…今までの君を見ていると、この先選ぶ道は最良に繋がるとは思うけどね。」
だけど、油断は駄目だよ、気を付けてと注意を付足す彼は、金色の瞳にルシェルドを映しつつも何処か遠い場所を見ている様だった。その意味深な態度と言葉にルシェルドは驚いたが、直ぐに目の前の神の役目を思い出す。
時の神または、運命の神…。
ここ一か月で教わった創世の神話で七神の名を知ったのだが、目の前の神の役目はそれだった。運命を紡ぐと言われる彼から告げられた言葉に疑問が残り、それを口にする。
「フェー殿、貴方は、我等の世界の輪廻神の様に全ての運命を紡ぐのではないのですか?」
尋ねられた言葉に運命の神は首を横に振り、ある程度は紡ぐが、全てはその運命を歩む者が選択する事によって変る物だと教える。
そして、自分の紡ぐ運命は一本道じゃあなく多数の分かれ道で出来ていて、それを選ぶのは道を進んでいる者自身であって他に影響があるとしたら周りの者達の導きだと詳しく説明をする。
これに納得したルシェルドは、その瞳にリシェアオーガを映す。彼の視線の先に気付いたフェーニスは楽しそうに言葉を綴る。
「リシェはね、最良の道を歩んでいるんだよ。
あの子の最大の分かれ道は、あの子自身が選び取った最良の道だから、この先、あれ以上に最悪な道は無いんだよ。」
昔の事を思い出して紡がれたそれは重い物であったが、まだカーシェイクからリシェアオーガに関する詳しい神話を習っていない彼にも判り易い物であった。
最良の道を選んだ故に今の彼女(彼?)がある。
破壊神で無く戦神の道を歩んでいる元巫女に自分が重なった。そんなルシェルドの様子を見ながらフェーニスは先を続ける。
「今回の事は少し良くない道だったんだけど、あの子自身が最良へと運んだんだよ。だから…もう、心配はないよ。
君もこの先、今回の選択間違いより最悪な道は無いよ。」
微笑を添えて告げられた最後の言葉にルシェルドの顔も綻んだ。
この先、今まで以上に最悪な道の選択は無い。間違えずに進む事は難しいが、破壊神としてで無く守護神として生きていけるなら、それで良い。
彼の考えを見透かしてか金色の瞳が優しく揺れる。
先を見通す時の神のそれは、彼の行く末が幸多き物として映っているかの様だった。




