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生誕祭  作者: 月本星夢
13/25

精霊達の怒り

ここから言葉の暴力じみた事が始まりますので、ご注意を。

 そんな微笑ましい遣り取りの傍で、向こうの世界の太陽神と風神への文句の言い合い大会(?)が始まろうとしていた。

こちらの世界の面子は、光の精霊騎士を始めとする七神に仕える精霊代表と同じ風神に仕える風の精霊代表、知神に仕える精霊の代表と美神に仕える精霊の代表、そして…リシェアオーガの精霊騎士達と神龍達。

その誰もが厳しい目を彼等へ向けている。

特に光の精霊はエルシアへ、風の精霊と神龍達、闇の精霊と知神と同じ彩の精霊はファンレムへ最も厳しい視線を送っていた。

一番最初に口を開いたのは、やはり光の精霊だった。

「ファンレム様…でしたね。

リシェア様を巫女として選んだ理由は頷けますが、貴方々は、御自分が仕出かした事態を把握されていますか?」

やや強めの怒りの籠ったような声で質問された向こうの世界の風神・ファンレムは、口籠りながら答える。

「両方の世界の…崩壊を招きそうになった…。御免。」

聞こえた返答に彼は溜息を()き、先を続ける。

「本当にそれだけと御思いですか…情けありませんね。貴方々は、我等の仕える神々を大いに悲しませた事を全く推測出来無かった様ですね。」

辛辣な光の精霊の言葉に彼等は無言になる。

しかし、光の精霊の怒りは消えない。

リシェアオーガの気配が突然消えてからというもの、どれ程彼が仕えている神であるジェスク神と奥方であるリュース神が悲しんだ事か、そして、無我夢中で我が子を捜していた事を伝える。加えて、双神であるリルナリーナがリシェアオーガとの繋がりを断たれた為、どれ程苦しみ、僅かな繋がりを探し求めていたかも教える。

その事を理解出来たかと、問う光の精霊の言葉が漸く一段落すると今度は別の精霊が補足を始める。

リルナリーナが自分達の命が危うい事も知っていて、必死に双神であるリシェアオーガを探していた事。それと、向こうの神々の状況を知っている様な言葉も()く。

「貴方々には、血の繋がったお身内が少ないようですが、今まで巫女に選ばれた者の家族の心痛をお考えだったのですか?

突然奪われ、生死も判らず、只、只、帰って来る事を信じ続け、短い生涯を閉じた彼等の事を如何お思いですか?」

光の精霊の後に話し掛けた緑の髪と瞳の精霊──大地の精霊かと思われたが、違う様だ──が、こちらの世界の巫女に選ばれた者の身内に起こった真実をも突き付ける。この質問に彼等は答えられなかった。自分達の世界の安定を望むあまり巫女に選んだ人間の家族の事等、頭に無かったのだ。

散々カーシェイクに言われた事を再び他の者……神々に仕える精霊に突き付けられ、彼等は無言になる。自分達がどんなに傲慢であったのか、はっきりと判ったのだ。

「確かに…考えていなかった…。」

漸く口から出たエルシアの言葉にファンレムも続く。

「…御免、全く考えていなかった……その人達の悲しみ、苦しみ…酷かったんだろう?

…さっきのあの子の様に。」

アフリスの方をちらりと見て、彼は答える。

如何やら、彼等の処へも幼子は兄を捜しに行ったらしい。炎の気と風の気があった為だと思われ、溜息を吐く精霊が数人いた。

彼等を横目に光の精霊の説教じみた言葉が再開する。

「そうですよ。アフェ様の様に彼等も悲しんでおりました。

彼等の中には悲しみの余り、死に至った者までいましたよ。」

光の精霊の言葉を受けた炎の精霊がアフリスが死に敏感な事と、兄弟であるリシェアオーガとリルナリーナが危険な事態になったので、ずっと泣いて事を教える。

少しでも兄の気配を感じたかったのか、姉として慕っているリルナリーナの傍離れなかった事と、そんな妹達の様子を見た長兄であるカーシェイクも心底心配していた事をも告げる。そして序でとばかりに、こちらの世界の状況もその紅の精霊が彼等へ教えた。

「我等も我が神を見失い、神龍達と共に少しでも邪気を抑え込むのに必死でしたよ。

貴方々の(・・・)御蔭(・・)で。」

後半の一部を強調して言う炎の精霊に彼等は驚いた。

その顔は見知った者に似ていたのだ。

然も彼は、我が神と告げた。それはリシェアオーガに仕えているという意味であり、彼の精霊騎士である事を意味する。

ふと、彼等の服を見ると精霊の色とそれぞれ違う装飾があった。

彼等は全て、この世界の神々に仕える者である事を知らしめていた。

「謝っても謝り切れない事は…理解した…その人達の心痛を取り除いてあげたい…何か出来る事があるなら、言って欲しい。」

「俺もファンレムと同意見だ。他の、向こうの神々の意見も聞いておく。」

エルシアとファンレムの心からの声である事を感じた光の精霊は、首を横に振って否定の言葉を述べる。

身内を喪った家族の者達へ向けて彼等に出来る事は無く、本当にそう思うのなら、精霊達が仕える神々へその旨を示すよう提示する。そして…告げられた言葉。

「特に、リシェア様の御両親である方々と御身内である方々には念入りに御願いします。さすれば、彼等も納得するでしょう。」

暗に許すとは言わず納得させろという光の精霊に、聞いているこちらの神々と向こうの一部の神々は苦笑していた。

これは提案している本人自体が、彼等を許さないと言っている様な物だった。

それと同時に、彼の言っている身内とは七神の事であり、その血筋の者も値する。…つまり全ての神へ、念入りにその旨を伝えろと言っているのだ。

周りの精霊も気付いているらしく、無言で頷いている。この言葉の裏にルシェルドも気付き、リシェアオーガに耳打ちした。

「…オーガ、あの精霊は…この世界の神々全てに対し、念入りに示せと言っていないか?」

小声で言われ、同じく小声で返すリシェアオーガ。

「察しが良いな、ルド。その通りだ。

まあ、ファンレムと全く反省の色の見えない神々には、以前の巫女達の家族の分まで苦労して貰う心算(つもり)だ。」

厳しいとも言えるが、向こうの世界の神々が仕出かした事を思うと致し方なかった。が、上を行く事実をも知らされる。

「無論、許す許さないは神々に個人に委ねられる。

義姉上(あねうえ)には御仕舞いを告げられているが、他の神々からはまだだからな。義姉上の様に、容易で無い事は確かだ。」

「…まあ、彼等には良い薬だろうね。

カルゥやイリィ、ウォルの様に巫女の選出事態を疑問視していた者達は、当然の事だけど完全に免除されるけどね。」

ファンレム達には聞こえない様に、カーシェイクも会話に参加する。講義と説教の間に、そう言った考えがあるかどうかを見極めていた様だった。

恐らく後で、その面子を他の神々に暴露するであろう。

全く、向こうの世界の大地の神に似た御仁だと、ルシェルドは改めて思った。


 向こうの神々の代表への文句が一応一頻り付いた様で、光の精霊の矛先は太陽神へと移った。初めて見た時と同じく厳しい目で見つめる彼は、太陽神であるエルシアに対して毒を吐きだす。

「貴方が我が神と同じ役目の方ですか…

全く気配を御感じになれないとは…情けないのですね。まだ幼子で神子であるアフリス様でさえ、気配を御感じになられるというのに。」

光の騎士の言葉の棘が敵を捕らえようとしたが、他の者の乱入で中断される。

「あ…私も、我が神々と同じ立場の神へ言いたい事があるんだけど…

ルシェ、良いかな?」

参戦を宣言したのは風の精霊。

彼の矛先は太陽神で無く、風神であった。声を掛けられた精霊は、仕方ありませんねと溜息交じりで承知し、彼をファンレムの前に立たせる。白い髪と虹色の瞳…前に見た風の神と風の騎士と同じ彩の精霊にファンレムは驚き、まじまじと見つめる。その様子が可笑しかったのか、風の精霊は笑いながら話し掛ける。

「君が向こうの世界の風の神だね。我が神の一人・エアファン様から散々言われたと思うけど、私達、風の精霊からも言いたいんだよ。」

再び同じ事を聞く羽目になったファンレムに、他の神の同情は無い。

知らなかった故の、今回の騒動の原因である彼の行動には大いに問題があったからだ。無言で受け止める覚悟を決め、真剣な眼差しを送って頷く彼へ風の騎士の言葉が再び降り注ぐ。

色々な所へ行ける風なのに、物事を知ろうとしないのは勿体無いと言う事。

この世界の風は好奇心の向くまま、気ままに各地を回り、情報を仕入れ、それを有効に使える者や知った方が良いと判断出来る者に教える事を告げ、向こうの風も同じではないのかと尋ねる。

これに、同じだとファンレムが答えると補足ばかりに、その者の喜びや役に立つ事を何故、嬉しいと感じないのかと訊かれる。

それに加え、これこそが風の本質ではないのかとも質問された。

風の精霊の言葉にファンレムは、そうだよねと返して頷く。エアファンに言われた事柄の再現だったが、同じ姿の精霊も本来の風の性質を判っている様だ。

それが向こうの精霊にも言える事であった為、彼は続く言葉を受け取った。

彼の態度に風の騎士は、そのまま続ける。

「一応、エアファン様の説教で判っておられるようですね。ですが、風の精霊の代表として、私からも言わせて貰いますよ。

知る事を恐れず、そして、騒動さえ楽しむのが我等が風。

その最たる者がこれでは、向こうの風は如何なっているのやら。」

何時もの砕けた口調で無い風の精霊の本音に、他の精霊達には彼の怒りがかなりの物だと判っていた。勿論、目の前の風神にも判ったらしく、しょんぼりと頭を垂れている。

「うん、あんたの…いや、君の言う通りだよね。風の中心であるおれがこんな腑抜けでは、みんなに示しが付かない。

…エアファン殿にも言われた。だから、これからもっと努力する。」

一番重要な言質を取ったとばかりに、風の精霊は微笑む。そして、仮にも神であるファンレムを荷物を抱えるような格好で抱き上げ、精霊達の中へ連れて行く。

その先には、気配を精霊と同じにしたこちらの風の神が空中に座っていた。

彼の目の前で件の神を降ろす。

「という事で、エア様、あちらの風神様を鍛え直してあげて下さいね。」

にこやかに微笑んで頷くエアファンがファンレムを捕え、更なる微笑…向こうの世界の地神にも似たそれを浮かべた。

「レア、承知したよ。僕と父様で鍛え直して上げる。

これから僕は忙しくなるから、この事はレア達で他の精霊にも伝えてね。レム、生誕祭が終ってからになるけど、色々と教えてあげるよ。」

再会した風の神の言葉にファンレムは畏れなかった。

それが自分の為であり、向こうの精霊の為でもある事自覚したのだ。彼の考えを察したエアファンは立ち上がり、ファンレムを連れてリシェアオーガ達の許へ向かった。


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