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生誕祭  作者: 月本星夢
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兄と妹達

 彼等が案内された部屋は大きな物であったが、調度品はおろか装飾も無く、そこが何に使われるのか判り易い所だった。

やや黄色がかった白っぽい壁と同じ色の床、無機質な部屋には多くの気配がある。人間のそれはほんの僅かで、殆どが属性を持つ精霊の物だった。

最初に妹を抱えたリシェアオーガがそこに入り、中の者達へ声を掛ける。

「彼方の世界の、太陽神と守護神を連れて来た。

…大地神は御覧になりたい様だから、案内して来た。」

ルシェルドとエルシアの扱いとカルミラの扱いの差が有り有りと判る言葉に、ルシェルドは苦笑した。これから始まる事が想像出来た彼は、既に覚悟を決めていた。

リシェアオーガと関係ある者達の愚痴を聞かされる。

以前、こちらの風の神と命の神が散々、向こうの同じ役目の神々へ文句を言った場面を目の当たりにし、彼女達の帰り際の言葉を覚えていた為、そう推測したのだ。

リシェアオーガとカーシェイクに(いざな)われた彼等は、素直にその部屋へ入った。そこには大勢の精霊がいて、彼等を厳しい目で見つめている。

その中に幼子を迎えに来た者もいた。

ルシェルドが辺りを確認すると向こうの風の神・ファンレムは既に来ており、傍らにはその弟のファレルアが、これから起きる事を予測して大人しく見守る姿勢を示している。

「向こうの風神様と太陽神様、守護神様、ようこそ、御出で下さりました。

私共は無礼を承知でに言いたい事があって、リシェア様に貴方様方の御案内を御願いしたのです。」

彼等の代表として、あの金髪の精霊が話し掛けた。彼が纏う気は光、そして、服装はこちらの騎士服であり、腰にある得物は精霊剣という物であった。

それを確認したルシェルドとエルシア、ファンレムは息を呑んだ。

向けられているのは殺意にも似たもの。

怒りを含み、敵として見做しているとしか思えない物を、彼等は初めて神に仕える筈の精霊から向けられたのだ。

だが、ここに居るのは彼等の世界の精霊では無く、この世界の精霊。

当たり前の出来事にルシェルドは致したか無いと思い、彼等の視線を受け止める。他の2人は怖くしたままであったが、それに気が付いたらしい光の精霊が声を上げる。

「其方の守護神様…ルシェルド様は、カルミラ様とファレルア様と御一緒にいて下さい。私達が意見を言いたいのは、主に此方の御二方ですので。

特に金髪の御方には私個人で言いたい事があります。」

率直に自分の意見を述べる精霊に頷き、ルシェルドはカルミラとファレルアの傍へ移動した。その場には席が設けられており、カーシェイクとリシェアオーガ、アフェと呼ばれた少女ともう一人、リシェアオーガを挟んで見知らぬ緑の髪の少女が座っていた。

その少女と先程会った少女の前に跪き、ルシェルドは挨拶をする。

「初めて、御目に掛ります。リシェアオーガの妹君の御二方。

私は、向こうの世界の守護神・ルシェルドです。宜しければ、御二方の御名前を教えて頂けませんか?」

丁寧な口調で挨拶を言われた少女達は驚いた視線を彼に送った後、傍らにいる兄弟達と目で話しているようだった。

そして、少女同志がお互いを見て頷き合ってから彼へ声を掛ける。

「初めまして、向こうの世界でのリシェアお兄さまとお父さま、伯父さまと同じ役目の方。私はこの世界の光地の神子で、希望の神・ミュリレムア・リュージェ・ルシム・ミュリナフィーナと言います。」

「はじめまして、わたしはアフリス。役目はまだないの。

だから、わたしは、リュージェ・ルシアリムド・アフリスなの。」

用件のみの挨拶と可愛らしい挨拶が返され、ルシェルドは微笑んでそれを受け取った。その顔に再び彼女達は驚いた。

「…リシェお兄ちゃまに、そっくり…。」

「アフェの言う通りだったわ。

ほんと、リシェアお兄さまに似ていらっしゃるのね。」

二人の感想に今度は、ルシェルドの方が不思議そうな顔となった。

自分は黒髪、リシェアオーガは金髪で似た所が無い筈なのに、そう言われたからだ。そして、その事を口にする。

「私とオーガが似ているとおっしゃるが、私自身は似ていないと思いますよ。

ですが…何故、そう思われるのですか?」

敬語で返されて不機嫌になる二人は、直ぐ様反論をする。

「ルドさん、敬語禁止!私達にはリシェアお兄さまと同じ対応でいいの。

姿じゃあなくて、気配とか雰囲気が似ているって言ってるの!」

「ルド…お兄ちゃまは、リシェお兄ちゃまと気配が似てるの。でも、いろんな色の気配がないから、アフェ、違うって判るの。」

一番幼い子が兄呼ばわりをして、その上が良い考えとばかりに真似をし出す。その様子に上の兄弟は微笑んでいた。アフリスが言ったいろんな色の気配の事を、不思議に思ったらしいファレルアが彼女へ訊く。

「アフリス、いろんな色の気配とは何?教えて欲しい。」

「んんとね、カーシェお兄ちゃま達が言うには神龍王の気配だって。リシェお兄ちゃまは、いろんな属性を持つ神龍王だから、その気配も一緒に持ってるの。」

幼子の言葉にカルミラが反応する。

「…アフリス殿も気配を感じるのですか?

こんなに幼い神子なのに、エルシアより余程優秀なのですね。」

そう言ってカルミラは、何時の間にかリシェアオーガの膝の上に移動した、幼子の頭を撫でる。優しく撫でられ、嬉しそうな幼子に傍らの妹が溜息を吐く。 

「アフェは相変わらず、お兄ちゃん子なのね。

いいわ、私は、ルドお兄さまのところへ行くから…。」

「フィーナ。」

ルシェルドの方へ行き掛けたミュリナフィーナは、リシェアオーガの厳しい声と視線で無言になり、件の兄を青い瞳で上目遣いに見る。

すると兄から手を伸ばされ、肩を抱かれる格好で横に座らされた。途端に嬉しそうな表情となり、安心して兄へと頭を預ける彼女へリシェアオーガの声が届いた。

「これで文句は無いだろう、フィーナ。…兄扱いするのは良いが、不用意にルドに近付くな。連れて帰られたら困るからな。」

本音を漏らす兄の台詞に、困惑したルシェルドが口を開く。

「…オーガ、それは私が人攫いに聞こえるのだが…。」

彼も文句とも聞こえる声に、即答が返って来る。

「私達の代わりに、嫁として連れて行くなという事だ。

私は、可愛い妹達を向こうの世界の者にやる気は無いからな。」

初めて聞く、リシェアオーガの妹の溺愛台詞にルシェルド達は驚いた。膝の上には幼子が、左横にイリーシア位の歳の少女を抱える姿は妹達に慕われる兄そのもの。

カーシェイクでさえ、かなりの兄馬鹿だと思っていたが、彼と同等の兄馬鹿でもある事を見せ付けたのだ。

「お兄さま、私、あちらへ行く気など、これっぽっちもありません。

あちらの様子を知りたいなら、レアやケフェル達…風の精霊に頼みます!」

「アフェも、リシェお兄ちゃまと離れるのはいや~。」

二人の妹の意見にリシェアオーガは、優しい微笑を向けて判ったと承諾の言葉を掛ける。向こうの世界では、全くと言って良い程見せなかった優しい微笑。

家族に囲まれ、幸せそうに微笑む彼をルシェルドは嬉しそうに見つめていた。

自分の想い人が幸せでいる。

それが今の彼にとっての幸せであり、護りたいものでもあった。

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