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生誕祭  作者: 月本星夢
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兄と妹

 翌日、フェリスに案内されて昨夜から泊まっている部屋で、ゆっくりと寛いでいたルシェルドに訪問者が訪れた。

誰かと思い、中に入れるとエルシアとその騎士だった。何事かと思ったが、彼から出た言葉は意外な物であった。

「エル、如何した?」

「…ルシェルド、俺は邪険に扱われる覚悟で来たんだが…まともな扱いだった。通された部屋も着替えまで…普通に用意されていた。」

何とも言えない顔の太陽神へ、苦笑しながらルシェルドは言った。

「エルの行動は予想済みって事だな。

オーガやリーナは、あのカーシェイク殿の妹君だ。それ位は推測出来ると思うぞ。」

納得出来る答えを貰ったエルシアは、一つ溜息を吐いた。

そして、ぼそりと愚痴を漏らす。

「…俺は歓迎されていないと判っているんだ。その証拠にイリーシアとかなり離れた部屋で、今、妹とは会えない状態にある。

妹の部屋を聞いても誰も答えてくれない。後で会えますよとしか、伝えてくれない。」

妹であるイリーシアの居場所が判らない、そんな不安が今エルシアを蝕んでいた。その事にルシェルドは一言、添える。

「今のお前の状況は、オーガが巫女として召喚された当初のカーシェイク殿と同じだ。

あの方の場合は、後で会えるという情報も無かった。今のエルより酷い状況だ。

只、リーナと繋がっていたお蔭で生きている事と、何処の世界にいる事だけが判っていた。…喪う可能性も知っていたと思うぞ。」

添えられた言葉にエルシアは押し黙った。

あの辛辣な知の神が、今の自分より遥かに辛い想いをしていたのだと知ったのだ。しかし、あの御仁に関してエルシアが知っている事は、妻を溺愛している事と本の虫である事。妹に関しては、余り会いに行っていなかった様に思えたらしい。

「カーシェイク殿があいつ…いや、リシェアオーガに構っているとは思えない。

リルナリーナとかいう妹なら、気にしていたが…。」

「エル、以前、私がオーガを抱き寄せた時の事を覚えているか?

あの時彼女は、何て言っていた?」

エルシアの記憶を辿らせるように誘導すると、直ぐに答えが返って来た。

「確か…過保護な保護者の溺愛って…父親の事じゃあないのか?」

返った物で首を横に振り、己の目の当たりにした真実を伝える。

その後、ルシェルドとアルフェルトは、それをカーシェイク殿がしているのを見た事があった。正に、溺愛の余り抱きしめていた状況だった。

エルシアは全く知らなかった事だったが、カーシェイクは彼方の世界にリシェアオーガがいる間中、空いている時間を見つけては構いに来ていた事実を、当の本人である彼女から聞いた事を告げる。

初めて聞く事柄が信じられず、疑いの声がエルシアから聞こえる。

「…嘘だろう…?」

あの辛辣で容赦無いこちらの知の神が、そういった家族を溺愛の感情を持ち合わせているとは全く思えなかった様だ。

確かに向こうの神々へ対する態度を見る限りでは彼の様に思ってしまうが、身内の者と一緒にいたルシェルドは、妹達を溺愛する姿を良く見掛けていた。

この事を如何説明しようかと悩んでいる時に、扉の方から声が聞こえる。

「本当にそう思うのなら、君の頭は相当、御目出度いのだろうね。」

ルシェルドの考えを遮って急に掛けられた声で二人は驚き、声の聞こえた扉の方へ向いた。そこには噂の神が、カルミラと共に立っていた。

「何度も叩いたのだけど、返事が無かったので御邪魔したよ。」

そう言うとカーシェイクは、この部屋に入り、彼等に近付く。

「エルシア、君は何故、私の説教が長いか気が付かなかったんだね。

妹を蔑にしただけで無く、君達は私達から2人の妹達をも奪おうとしたのだから…ね。」

凍てつく視線を彼等へ送り、静かな怒りを含んだ声を再び響かせる。

「私の気持ちが判るかい?

本来なら君達は、この剣で切り捨てられても文句は言えない立場なんだよ。」

声が室内へ消えるとカーシェイクは、手に持っていた包みから何かを抜き、真っ直ぐに彼等へと剣先を向ける。

透明な紫の剣身が光を放ち、彼等を射貫く。

剣の纏うのは大地の気そのもの、強い大地の気に彼等は驚いた。

「この剣は、母から賜った物、私の剣だよ。

この剣…大地の剣は妻と子供達、そして、妹達を護る為にある。この剣で何度、君達…カルゥとイリィ以外の向こうの神々を切り付けたかったか、判るかい?」

珍しく怒りが現れている声と表情に、ルシェルドが応じる。

「…カーシェイク殿のいう事は最もだ。私としてもオーガを喪いたくなかった。彼女が己の役目を利用して私を導いてくれたから、私は愛する者を喪わずに済んだ。

感謝してもし切れない程だ。」

彼等へ刃を向けている知の神は、薄らと瞳を閉じ、綴られる言葉を無言で聞き入っていた。彼の様子に気付きながらも、ルシェルドは言葉を続ける。

「しかし、彼女達にも言っているが、私は思いを遂げようとは思わない。この世界に彼女等がいる事が私の幸せだ。」

ルシェルドの締め(くく)られた言葉に納得した様に、カーシェイクは剣を収める。そして溜息と共に、冷静な言葉を吐く。

「如何やら、エルよりルドの方が物判りが良い様だね。

私は妻の様に、君達を叩いて御仕舞いには出来無い。理由は判るだろう?」

先程の気迫で、ルシェルドはカーシェイクが剣を扱える事を悟った。エルシアもルシェルドと同じであった。

ルシェルドは修行中の身であるが、エルシアは剣を持たない。

故にカーシェイクの一撃は、彼等に痛恨の痛手を負わせる事を示している。無言になっている彼等の許へ、聞き慣れた声が届いた。

「エルシア、貴方もファンレムと同じく、もう少し頭を働かせた方が良いですよ。

妹君を溺愛するなとは言いませんが、知識を身に着ける事と、広い考えと視野を持つ事は大切です。」

カルミラの声にエルシアは、反論出来無くなっていた。

ルシェルドも援護せず、逆に納得している。

向こうの世界の太陽神は、己が考えが全てであり、時にはそれに基づき突っ走る事がある。前よりかなり頻度が減ったが、無くなった訳では無い。

指摘されたエルシアは、相手が相手だけに無言で聞いていた。

向こうの世界の大地の神…知る事に関しては底無しの好奇心の持ち主で、知神と言っても過言で無い相手から言われた為、余計に素直に聞けたらしい。

暫しの沈黙が部屋の中に(もたら)されたが、それを揺るがす声がした。

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