プロローグ
「いや、やめてください!」
月明かりに照された城下町。
その片隅のとある物置小屋で一人の少女の悲痛な叫び声が響く。
少女の衣服は無惨に引き裂かれ、張りのある健康的な肢体がさらされていた。
「へへ、適当な町娘を連れてきたが、案外良い体してるじゃねーか」
「ああ、こいつは当たりだぞ。今夜は楽しめそうだ」
怯える少女を前に二人の男が下卑た笑いを浮かべる。
「お願いです。やめて……兵士さま……」
「そんなに怖がるなよ。何も命まで取ろうなんて言ってないだろう。俺達を満足させてくれれば良いんだよ」
「まぁ、満足出来なかったら、ムカついて剣を抜いちまうかもなぁ。ハハハッ」
涙を浮かべて懇願する町娘を見下ろして笑い声を挙げる二人の男は、腰に剣を下げた兵士だった。
「抵抗しても良いんだぜ?まぁ誰も助けてはくれないだろうけどなぁ」
本来町を守るはずの兵士達による横暴は、今やこの城下町では日常茶飯事となっていた。
そして町の住人は誰もが城の兵士を恐れ夜は家に閉じ籠る。
夜に女が出歩こうものならこうして慰みものにされることも珍しくはない。
「おーい!お前ら早くしろよ!
つーか俺も混ぜろよ!」
小屋の入口で外を見張っていた3人目の仲間から声が掛かる。
「カードで負けたお前が悪いんだろ?」
「俺達が終わったら独り占めさせてやるからちょっとは我慢しやがれよ」
「……うそ……こんなの……」
二人の兵士の言葉に、少女の顔は絶望に染まった。
どうしようもない現実に彼女の瞳から涙が溢れる。
「たっくよー。そもそも見張りなんて意味ないだろうが!
どうせ誰も来ないから……あん?何だてめ──」
その時、外の男のぼやきが不自然に途切れ、どさりと何かが倒れる様な重い音が響いた。
「ん? おい!どうした!」
「なんだよ誰か来たのか?」
今にも少女の体を蹂躙しようとしていた二人もその異変に気付き入口を振り返る。
「…………」
そこには月明かりを背に受けて、1つの人影が立っていた。
「何だ? 誰だお前?」
「…………」
男の声には答えることなく、現れた人物は小屋の中へ足を進める。
フード付の漆黒のマントを纏ったその姿からは男か女なのかもわからない。
それでもその人物がただの町の住人ではないことは確かだった。
その顔は無貌の仮面により隠され、手には血の滴る一振りの剣が握られていたからだ。