南海姉弟の昔ばなし
「よ。今日は命は用事があるってんで俺だけなんだが……命目当てだったやつはすまないな。しかしその代わりと言ってはなんだが、俺達が生まれてからの昔ばなしでもしようかと思う。命は自分のことをあまり話したがらないだろうし、こういう機会でもなければずっと話せないだろうからな」
そう言って求は近くにあったカウンターチェアに座り机に肘を置いてこちらを見る。
「まず、俺達姉弟が誰もいない世界でどうやって生まれたか……だが、まあ自分が生まれた時のことを覚えてる奴なんていないさ。強いて言うなら突然生まれた。そう、なにもない真っ白な世界に俺と命、二人はいた。赤ん坊の姿でな。そこから俺達は何年も赤ん坊で過ごすわけだが、俺達は食べ物を食べなくて生きていけた。何も食べなくても、何も習わなくても、成長し、言葉を覚えた。知らないことは君達の世界にある……そう、家だとか木だとか海だとか、そういったものはこの世界にはなにもなかった。これは後に分かることだけれど君達を観察してみておそらく成長スピードは同じだろう、時間の概念も同じだった、しかし、出生から18年ほどが過ぎた頃だ、俺達は自分たちが成長していないことに気付いた。一年前と体格が何も変わっていないんだ、そこから俺達は自分の身長、体重、バスト、ウエスト、ヒップ、全ての測定をした。なにもない世界でどうやってだって?そんなの、何年も何年も何年も何年も何年も、ずっと成長どころか衰退もしないんだ。流石にわかるさ」
求は机に体重を任せ天井を仰ぐ。
「そして俺達は悟った。俺達はこれで完成形なのだと。その時、天から俺と命の目の前に光の玉が落ちてきたんだ。その光の玉を手のひらで受け止めようとすると光の玉は手には触れず、ぱぁーっと弾けるように広がり音もなく消えた。その直後俺は光の玉の意味を知った。命も同じことを感じたみたいだった。それで俺達は能力を取得した。今思えばあれは心の底で望むものを与えてくれたんだと思う。それで俺が『想像した物体を作り出す能力』で命が『想像した状況を作り出す能力』を持っている訳だ」
こんな感じだ。そう言って求は手のひらを上にしてこちらに手を出すと手のひらの上に光の玉が現れ、音も無く消えた。前に出した手を下すと求は話を続けた。
「命と俺の能力の違い? そうだな~……命の能力は場所を作る能力で、俺の能力は物を作る能力っていうことなんだけど、命に言わせれば俺の能力は便利な能力で命の能力はチートだって言ってたな。それがどういう基準でどういう意味で言っているのか俺には分かんねぇ。俺に言わせればどっちもどっちだ。ま、こういった能力の違いはいずれ分かるだろう。こういうのは俺達が言葉で説明するより実際に見たほうが早いしな」
求はどこからか出したグラスを手に取ると水を注ぎ、それを飲み干し息を吐いた。
「話を戻そう。いくら能力があったところで俺達は物体という物を知らない。だから作りようがなかったのさ。そしてある日、俺は命を見て思ったのさ。『俺だけ』じゃなく命がいる理由。もしかしたら他にも俺以外の生命体がいるのではと。体液から作られる水たまりという物は知っていた。だから俺は他の生命体がいる場所を見ることのできる水たまりを作った。そしたら、ある場所が映ったんだ……そう、君達の存在している地球だ。初めは驚いたよ。俺達と同じような生命体があんなにも存在しているなんて。でも、もっと驚いたことがある。その世界には物体が存在したんだ。そこから俺達はあらゆる物を真似して作った。森、海、陸、家、道路、車。服も作った。そこから俺達の世界は一気に広がったんだ」
不思議そうな顔をしているとそれに求は答える。
「どうして意思疎通ができるのか不思議に思っているね。俺はそちら側に干渉することはできないからそっちの世界に通信機的な物を作って通信しているわけじゃあないぜ。見つけたんだよ。俺と同じくこちら側の状況が分かる生命体を。その生命体は頭の中で俺達の世界を見ることができ、それを他人に知らせるために言葉にしていた。うん、この生命体こそが俺達の言う創造主様だ。勿論それは君達から見た場合創造主様と言ったほうが分かりやすいだけで、実際に俺達を生んだのは彼じゃあない。俺は現実逃避のためにそっちの世界を見ているけれど、そっちからするとこっちは現実じゃないわけだ。君達が俺達を想像上ものと考えるならば逆説的に俺達から見た君達は俺の想像上のものでしかないかも知れない。そう考えるとどっちが本物でどっちが偽物なのか・・・なかなかにどうして考えさせられるとは思わないか?本物の世界なんてはなから無いのかもしれないけれど。うん、そうだな。この件については命の意見もぜひ聞きたいところではあるのだけれど……ま、似たようなことを言うんだろうな」
最後に求はああ、いい忘れていた。と付け加えた。
「命が姉になっている理由はなんとなく。だぜ。無理に理由をつけるなら姉っぽいからかな。そして俺が弟っぽいからだぜ。それじゃあ今回はこれくらいにするか。じゃ、また会う時まで」