お題「節分」
「さてはて小説にまとめると決めてからの初のお題はなんだって?」
そう聞いた前髪が綺麗に切り揃えられ、これまた背中の真ん中まである長い髪も切り揃えられている真黒な髪の彼女は蒼い眼をしていた。南海命である。
「今回のお題は2月のメインイベント! 節分らしいぜ」
そう答える彼は短髪で黒髪。そんな彼は紅い眼をしている。南海求である。
「接吻? それは一大イベントだね。一大事だね」
「接吻じゃねーよ。節分だよ! 豆まきのことだよ!!」
「うるさいなぁ……冗談じゃないか。節分なのはわかったとしても2月の一大イベントは他にあるじゃないか。バレンタインデーとか。なんでよりによって地味な節分なの?」
「知らねーよ。バレンタインには関わりたくなかったんじゃねーの? そういえば命はバレンタインチョコって誰かに渡すのか?」
「僕が? 誰に?? 僕がそんなミーハーな人間じゃないことは求が一番知っているだろう」
命は信じられないという顔をして求に問いかける。
「そりゃそうだな。弟の俺でさえ生まれて一度も命からチョコなんて貰ったことはないし、ましてや作ってるところも見たことないもんな」
「全く。話の本題がずれるじゃないか。節分と言えば小さい頃、求が紙で作った鬼の仮面をつけて僕が豆を投げつけてあそんでいたなぁ……求ってばただの豆まきなのに最後にはいつも泣いてさ。僕にも豆まきやらせて~。一生のお願い~とか言って号泣してね」
「そんな事実はねぇよ!? ありそうな嘘をついてんじゃねーよ! 違うだろーが!!」
「ああそうだった、そうだった。僕達はよく二人で変わりばんこに鬼役をやって結局お互いに豆を投げつけあう豆ドッジボールをやっていたな。それが僕達流の豆まきだったね」
「そうそう、最後はお互いに大量の豆を掴んでは投げ~。掴んでは投げ~。たまに目に入って痛かったな~……って! そんな事実もねぇよ!? お願いだから事実を話そうぜ~? 頼むよ~」
「うるさいなぁ……はぁ、事実を話せばいいのかい? 仕方ないなぁ……事実をありのまま話すと僕達は豆まきなんてしたことはなんだ。」
「……ああ、そうだ。俺達は世界に二人きりで、世界には何もなくて、なにも起こらなくて」
「神は存在しない。物質も僕達以外存在しない。そんな世界に僕達はいた…」
「だから俺は物体を作る能力を取得した」
「だから僕は状況を作る能力を取得した」
「そうだ! 今豆まきをしようぜ! 俺の能力で豆を作ってさ!」
「ああ! そうだね! 存在しなかった現実を今存在するものにしよう! さあ! まず鬼のお面を作って被るんだ!」
「オッケー! 任せとけ! …よし! 作ったぞ!!」
求は紙でできた鬼のお面を作り出すと頭に装着した。
「えい! えい!」
命は枡いっぱいに入った豆を求に投げつける。
「痛っ、痛っ」
「えい! えい! えい! えい! えい! えい!」
さらに投げる。
「痛い痛い痛い」
「えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい! えい!」
さらに投げる。
「痛い痛い痛い……って!いい加減にしろよ!? 俺にも豆投げさせろよ!!」
「え? なんで? これからがいいところなのに。まだ鬼をこの世界から追い出してない」
「こえーよ! フリでいいんだよ! フリで! この世界から追い出すって! 俺を殺す気か!?」
「いやいや、僕が殺すのは鬼だよ」
「鬼じゃねーよ! お面付けてるだけの俺だって!! ただの鬼の役だって!!」
「可愛そうに。体を乗っ取られてしまったんだね。僕が今その呪縛から解放してあげるよ!」
あ、こいつ目がマジだ。
「ほ、ほら! お面が取れたから呪いが解けたよ! ありがとう!!」
求は豆を投げつけられながら鬼のお面を取り外したことを命にアピールする。命は求の顔を見ると、なんだ求か。と呟き豆を投げる手を止めた。
「仕方ない。じゃあ次は僕が鬼の役をやろう。……ん? なに?時間? そろそろもうこの話はいい? なんだよ~これから鬼の僕が豆を投げられつつ反撃してそこから豆ドッジボールになるっていう流れだったのにさ。そのあとは豆を羽子板で打ち合い、落としたら顔に落書き。落書きが嫌な求は超能力に目覚め霊の力を宿すことができるようになり羽子板のスイング速度が音速を超える力を手に入れる。っていう展開だったのに~」
「時間が無いようだから締めさせていただくぜ。みんなも2月3日は羽子板で遊ぼうぜ! ……ってそうじゃねー!! バレンタインなんてなにも起こらない日よりも節分で豆まきして遊ぼうぜ! じゃあな!」
「それじゃあ、また逢う日まで」