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向日葵の彼方【読了3分】

作者: MilkLover

 牛乳大好きです。勢いに任せて書きました。ある程度実話をもとにした、ある少年のある一日のお話です。

 

P.S.彼女(部長)のモデルとなった先輩に謝罪と感謝を。ごめんなさい、そしてありがとう。やっぱりマンガは買って読むのが一番かな。

 炎天下の下、僕のこぐ自転車はキコキコと音を立ててアスファルトの上を駆ける。遅刻だ。急いで身支度を整えて出てきたのでカバンにはカメラとヘッドフォンしか入っていない。逆になぜ、カメラとヘッドフォンは入れてきたのだろう。別に、これから何処かへ写真を取りに行くわけでもないし、悠長に音楽鑑賞したりもしないのに。ただ、書類を受け取って、帰るだけ。それだけの仕事だ。



 待ち合わせ場所は僕の最寄駅。夏休みとはいえ、平日の白昼だ。改札前には指折りで数えられるほどの人しかいない。その中に目立つ人物を見つけ、僕は恐る恐る近づく。

「あ。やっほ」

 僕の気配を察知して柱に寄りかかってスマホを弄っていた『目立つ人物』が顔を上げた。

「遅れてすみません」

 当たり障りのない挨拶を交わし、彼女の服装を一瞥する。

 白。白一色である。上は涼しげなブラウスっぽいの。スカート丈は……これは短いのか長いのか微妙なライン。靴は気にしないタチなのでパス。首には何やらアンティーク調の鍵っぽいのがぶら下がっている。チョーカーだっけ。ネックレスだっけ。まぁ、そんな感じのアクセサリを身にまとって彼女はそこにいた。

「いいよいいよ。元はといえば私が寝坊したのが悪いんだから」

 彼女は我が部の部長である。そして僕は提出期限が迫る文化祭の企画に関する書類を受け取りに来た。なんでも提出期日に所用あって学校に来ることができないのだとか。そして待ち合わせの時間は当初午前10時だったのだが、見事に昨夜、

「もし9時半までにメール来なかったら寝坊だから待ってて」

 とメールでフラグを立てて、9時半過ぎまで大殿篭っていた。そこから準備が終わったのが11時頃で、待ち合わせ時間は晴れて11時50分と相成った。なんというか、女の子は準備に時間がかかるっていう言葉は正しい。


 さて、書類も受け取り、あらかた用事は終わったあとも、僕たちはとりとめのない会話を続けていた。

「えっと、もう1時間半話してますけど」

 率直に言うと、改札前でで1時間以上立ち話をするのは少し、というかかなり恥ずかしい。

「え、もうそんな経った?」

 ふと、思った。1時間半も立ち話を続けていられるのはどうしてだろう。

「はい、そんな経ちました」

 思えば、僕は今までどれだけ彼女と話しただろう。どれだけの話題を話しただろう。そんなこといちいち逐一覚えているわけもない。何度も同じ話題を話しているかもしれない。何度もつまらない話をしたかもしれない。

「とりあえず場所かえましょうか。時間大丈夫ですか?」

 ただ、これからも何度も話すだろう。限られた時間の中で、限られたことを話すだろう。ひょっとしたら時間が許す限り話し続けることができるかもしれない。


 場所かえましょうか、といって移動した先は本屋の中古本コーナーだった。

「あ、立ち読みのとこだ」

「その覚え方なんだ……」

 以前、ここで隣り合って彼女と立ち読みをしたことがある。だから彼女にってここは立ち読みのとこなのだろう。

 それぞれ思い思いのマンガを手に取る。そして両者の間には沈黙が訪れる。本を読むとき、人は皆、寡黙でなければならない。それがマンガだとしても、それは何ら変わらない。彼女が隣でマンガを読んでいる。時折、小さな笑い声は聞こえるが、基本的にはここは静寂な空間だ。そんな中で彼女は体を揺らしながら、くねらせながらマンガを読む。別にマンガの世界に入りきっているわけではない。立ち読みをしていると疲れてくるのだ。もちろんそれは僕も同じだ。僕も前かがみになったり、腕を時たま伸ばして休憩する。そんなこんなで1時間半、立ち読みは続いた。


 計3時間、一緒に過ごしたあと、彼女は帰路へ着いた。


 1人、自転車に乗って駅前を走る。綺麗な景色なんてどこにも見当たらない。代わり映えのしない道がそこにはあった。

「あ」

 もうすっかりシーズンも終わりに近づいているというのに、線路脇には向日葵が何本も咲いていた。太陽に顔を向けて咲く、巨人のような背の高い花が咲いていた。カバンからカメラを取り出す。

 黄色と青のコントラストがファインダー越しに網膜を焼く。ああ、いい色だ。雨粒が頬を伝い、あたたかい雨が降り始めたのが分かった。

 すぐにカメラをしまって僕は思いっきり自転車をこいだ。


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