表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

先輩、大好きです

作者: ローレル





私には好きな人がいる。

私より1つ年上の、保坂ほさか 雅臣まさおみ先輩だ。

先輩はサッカー部の部長をしていて、文武両道とか才色兼備とかの言葉がすごく似合う。

いつも明るいし、爽やかで気さくだし、なんといってもかっこいいのでみんなの憧れの的だ。

…まぁ、そういう私も憧れてるうちの1人なんだけど、ね。

ちなみに私は、サッカー部のマネージャーをしてる。

その関係で結構話したりするし、「萌」って呼んでもらったりもしてる。

たぶん、他のコよりも仲がいいと思う。


でも、仲がいいのは嬉しいことばっかりじゃない。


もし告白したとして振られちゃったら、もう今までみたいに気軽に話しかけてくれたりすることは無い。

それを考えるとすごく怖くなって、結局告白する勇気も持てずに今の関係のままいようとしてしまう。

それが辛くて苦しくて、でもあと1歩がどうしても踏み出せないんだ。

何かきっかけが欲しい。もう1押しが欲しい。



そうすればきっと、「ずっと先輩のこと好きでした!」って言えると思うのになぁ……。





             ・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・






木曜日、昼休み。

私は友達と話していた。

最初は他愛もない話だったんだけど、なんか内容がだんだん恋愛方面に移り変わっていって。

…そうなると自然と先輩のこと突っ込まれるわけで。


「そういえばさ、萌は最近どうなの?進展あった?」


「あっ!それすっごい聞きたい!!」


「うっ……えっと………どーもない、デス…」


2人の剣幕にタジタジになりながら言うと、あからさまにガッカリした顔をされた。

仕方ないじゃん…だって片思いだしさ……。


「もー、萌はいっつもそうだよね。いっそ告っちゃったほうがいいと思うけど?」


「ぅえっ!?」


驚きすぎて変な声が出てしまった。

でもそれには構わずに、2人はさっさと話を進めていく。


「それいいね!いつまでもこのまんまじゃずっと変わらなさそうだし!」


「よし、こうなりゃ“善は急げ”よ。今日、っちゃいなさい!」


「えええ!?そんな急に言われても、心の整理が…!」


このままだと本当に告白することになってしまう。

急いで言い訳を探したけど、2人はまったく聞く耳を持ってくれなかった。


「決定ね!絶対言うのよ!?」


「……うぅ」


でもそれが気遣いだと分かって。

いつも「きっかけが欲しい」って、「もう1押しが欲しい」って言ってたから、それをしてくれようとしてるのが分かって。

だから、覚悟を決めた。


「…よし!私、今日告白する!!」


2人に向かって宣言すると、笑顔で応援してくれる。

よし!って気合を入れなおしてたら、いきなり教室のドアが勢いよく開いた。

ばんっ!ってかんじで響き渡る音、水を打ったように静まり返る教室。

私はその音に思わずびくっとしてしまって、恐る恐る振り返る。

開け放たれたドアの前には、無表情の先輩が立っていた。


「先輩……?」


ほぼ無意識に呟いて、少し慌ててしまった。

かなり小さい声だったはずなのに、やけに響いた気がして。

その声に反応したのか、先輩はゆっくりとこっちを向いた。


「あ、萌?今日の午後練のメニューのことなんだけどさ」


さっきの無表情が嘘のように、いつもの明るい笑顔を浮かべて話す先輩。

それを見て安心したのか、教室はまた騒がしくなり始めた。


「…萌?どうした?」


「……あ、なんでもないです!部長、メニューの相談ですかー?」


わざといつもより明るい声を出して、先輩に笑いかける。

先輩は部活のとき以外で「部長」って呼ばれるのが嫌いらしく、そう呼ぶといつもちょっと拗ねたようになる。

その表情が見たくて、いつもわざと部長って呼ぶんだ。


「部活ン時以外で部長って呼ぶなよー。ったく、何回言っても直んないなぁ」


「はーい、すみませーん」


「うっわ、すっげぇ棒読み!まったく気持ちが伝わってこねぇ!」


やっぱり今日も拗ねたような顔になる先輩。

なんでわざわざ毎回「部長」って呼ぶのか、気付いてないんだろうな。

……先輩の色んな表情、見たいからなのにな。


「ったくもう、次言ったらどうなるか分かってるだろうな?」


「はいはい、分かってますよぅ。保坂先輩」


「ん。それでよし」


「保坂先輩」って言い直すと、満足そうな顔で笑う先輩。

その笑顔に思わずキュンとして、顔に熱が集まってしまった。

体温が急に上がった気がしたから、思わず手で顔を煽ぐ。

先輩はそれを見て、不思議そうな顔で首を傾げた。


「暑いのか?

顔ちょっと赤いけど……あれ、熱ある?」


「……っっっ!?せ、せせ先輩……っ!!?」


いきなり顔を近付けてくるからつい後ずさってしまった。

それをまったく気にせずに、先輩はあろうことか私のおでこに手を伸ばして触れてくる。

さっきとは比べ物にならない速さで赤くなる顔。

たぶんマンガとかだったら「ボンッ!」って効果音が出てると思う。

なんでいきなり、って聞きたいのに口は上手く回ってくれなくて、どもってしまった。

でも先輩はそれもスルーし、さらに首を傾げる。


「…萌、保健室行ったほうがいいんじゃないか?

風邪とか引いてたら困るし」


「だ、大丈夫です…!

これは、その、カゼのせいじゃないですから……っ」


「本当に?」


「はい!」


訝しげに問いかけてくるから、必死に頷く。

ホントにカゼなんて引いてないし、今日こそ告るって決めたんだから帰れない!


「ホントのホントに大丈夫ですから!

…それに、今日は大事な用事がありますし…」


重ねてそう言うと、先輩は一瞬だけ不機嫌そうな顔をした。

でもそれはすぐに笑顔に変わって、私が忘れかけていた当初の目的を話し始める。


「…それならいいんだけどさ。

じゃ、本題。

今日は部活早めに終わることになったらしいから」


「あ、じゃあ残りますか?」


「ん。また手伝ってもらっていい?」


「勿論です!」


今日はラッキーかもしれない。

部活が早く終わるってことは、イコール先輩が自主練するってことだ。

先輩は休日練習の後とか午後練が早く終わったときとかは、親友の健二先輩と2人で残って練習してる。

それを知ってからは、私もそれを手伝ったりした。

自主練なら少人数…っていうか3人だし、呼び出して告白できる…と、思う。

練習してる先輩見るのはかなり好きだし。

いつもの笑顔も好きなんだけど、練習中の真剣な表情もかなりドキッとする。

…いやまあ、ぶっちゃけると先輩の表情はどれも好きだけどね!


「よし、じゃちゃんと伝えたから。

また放課後に、な」


「あ、はい!」


手をひらひらさせながら自分の教室に戻っていく先輩を見送って、席に戻る。

先輩と話してる間中ずっと待ってた2人は、にやにやと締まりの無い顔で私を出迎えた。


「ちょっと、萌?すっごい仲よさそうだったじゃん!」


「ほんとほんと!もう、これなら大丈夫そうだね!」


「ちょっ、からかわないでよ!恥ずかしいじゃん!!」


抗議するも、さらに2人のにやけ顔が酷くなるばかりだった。

ようやく治まってきた顔の熱が、またぶり返してきそうだ。


「えー、からかってないよ!ねー?」


「ねー」


「…あーもー!」


怒ったフリしても、まったく効果が無かった。


恋愛ネタでからかわれるのが、こんなに恥ずかしいことだったとは……!






             ・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・






その日の放課後。

私は先輩と一緒に、使った物の片付けをしていた。

今日は健二先輩が先に帰っちゃって、途中からは2人っきりだった。


『俺今日用事あっから帰るわ。

萌ちゃん、アイツのことよろしくな!』


『えっ、健二先輩帰っちゃうんですか!?

アイツのことよろしくって、どういう…』


『おい、健二!

余計なこと言ってんじゃねぇよ!!』


『おー怖い怖い。じゃ、邪魔者はここらで退散するか!

それじゃ、また明日な!

雅臣、明日ぜってー教えろよ!』


『あっ………』


『…ったく、健二の野郎…。

萌、アイツの言ったことは気にすんなよ?』


さっきしたばかりの会話が甦る。

あれからちょっと考えてみたけど、健二先輩の言葉の真意はまったく分からない。

先輩がなんで「余計」だって言ったのかも分からなかった。

そのせいで少し上の空になってしまいがちで、先輩もちょっとしたミスがいつもより多かった気がする。

何か考えてたみたいだし、ちょっと苛々してたし。

それで結局いつもより早い時間に終わりになった。

そのことが少し気まずくて、さっきから何も言えてない。

コーンを抱えながら2、3歩後ろを歩いていると、先輩はゆっくりと口を開いた。


「…あのさ、えっと…健二は…」


先輩は何か躊躇っているように言いよどむ。

健二先輩がどうしたんだろう?そう思って首を傾げると、先輩は意を決したように声を出した。


「…萌ってさ。

好きな人、いんの?」


よく友達とかにふざけて聞くようなかんじじゃない、真剣な声。

それを聞いた瞬間、私の心臓は一瞬止まりそうになった。

顔に集まる熱を逃がすように頭を1、2度振って、先輩を追い越す。


「…いますよ。

そういう先輩こそ、好きな人いるんですか?

あ、でも先輩ならもう彼女とかいそうですよね!

同じ学校ですか?うーん、でも噂とか聞かないし、他校の…」


「いないよ。

彼女なんていない。…俺の片想いだから」


「えっ……」


好きな人。先輩の、好きな人。

そんなの聞いたら絶対後悔するのに、口が勝手に動いていた。

知りたい。でも先輩からは聞きたくない。

その一心で明るく振舞って、有耶無耶にしようとしたけど、言葉を遮られてしまった。

でも、その言葉の内容に驚いて思わず先輩の顔を見上げた。

先輩の顔はすごく真剣で、でも苦しそうで、悲しそうで。

みてるこっちまで辛くなってくる。


「…せ、先輩が片想いなんてありえないですって!

かっこいいし、スポーツも勉強も出来るし、優しいし!

…だから、両想いですよ、きっと………っっ」


震えて喉に張り付きそうになる声を無理やり絞り出して、明るく言おうとする。

でもそんなの本当は言いたくなんてなくて、最後がちょっと震えてしまった。


「…そうだとよかったんだけど、な。

でもソイツ、好きな人いるんだってさ」


「じゃっ、じゃあ本当に片想いなんですね!

どんな人か知りたいなー、あ、もしかして私も知ってる人ですか?」


やばい。

また口が滑った。

聞いたってどうせ傷つくのは自分なのに、知りたい欲求に抗えなかった。


「…そうだ、な。明るい子だよ。

いつも笑顔だし、すごく頑張ってる。見てるこっちも元気貰えるし。

……俺なんかより、お前のほうが知ってるよ、ソイツのこと。

俺さ、本当にソイツのこと好きなんだ。…今すぐ奪いたいくらい」


そう言って私を見る先輩の目は熱を孕んでいて、なぜか無性に泣きたくなった。

先輩にそこまで言ってもらえるその人が羨ましい。

どうして私じゃないの、とも思ってしまう。

先輩はそのまま私から視線を外し、前を向いた。

その横顔はすごくかっこよくて、つい見惚れてしまう。

…あーでも、ダメだ。

泣きそうだ。

息が止まってしまいそうな閉塞感に、視界が暗くなっていく。

もうたぶん我慢できない。

これ以上この話をしたら、きっと泣いてしまう。

だから、いつの間にか下がっていた顔を上げて、精一杯の笑顔を向けた。

驚きで目を見開く先輩の顔がぼやけてよく見えなくなる。

でもそれでいい。

せめて、笑顔で言いたいから。

先輩の顔見たら、泣いちゃいそうだから。

…先輩の困った顔、見たくないし。

そんな少しの本音とともに、まだ固まってる先輩に、言った。


「先輩、私保坂先輩が好きでした!

今もまだ好きだけど、大好きだけど…でも!

好きな人がいるんなら、今此処で…私の、こと……」


笑顔が歪んでるのは分かってる。

眉は下がってるし、視界は変わらずぼやけてるし。

でももう話さないかもなら、せめて最後の顔は笑顔がいいから。

自分の手で、この恋に決着をつけたいから。

だから、先輩。


「振って、ください…。

これ以上、一緒にいると…期待しちゃうから…っ、諦められなく、なる、から……!

だから、お願いします………っっ」


言い切った。なんかちょっと、すっきりしたような気がする。

先輩は何も言わない。でも、私のことを見てるのは分かる。

困った顔、してるんだろうな…。

困らせてごめんなさいって言いたいけど、泣くのを我慢するので精一杯で、何も言えない。

そのまま、沈黙が続いた。

本当はほんの少しの時間なのかもしれないけど、私にはすごく長く思えて。

まるで世界から音が消えてしまったようだった。


その沈黙を破ったのは、先輩だった。


「…してよ」


小さく呟かれたその言葉を理解するよりも先に腕が引っ張られ、暖かい何かに包まれる。


「…ぇ……」


「…期待、してよ。諦めないでよ、俺のこと」


耳元に落とされた囁きに、此処が先輩の腕の中だと分かる。

急いで離れようとしたけど、力強い腕がそれを許さず、さらに力を込めて閉じ込められた。

そのまま頭を胸に押し付けられて、身長差を思い知らされた。


「先、輩……?」


「分かる?萌、俺今すっげぇ心臓バクバクいってんだけど。

なあ、伝わってる?…俺が今、すっげぇ嬉しいの」


その言葉に顔を上げれば、ふにゃりと緩んだ先輩の顔があった。

目元が少し赤くて、耳も少し赤くて。

そんな状態でもかっこいいんだなあ、なんて思った。

…現実逃避だなんて言わないで。

ちょっと、いやかなりこの現状に理解が追いついてないだけだから。

っていうか、え、これはつまり、そういうことですか…?


「萌?もーえ、どうした?

ちゃんと言わないと伝わんない?ならいくらでも言うけど。

萌、好きだよ。大好きだ。たぶん、一目惚れだったと思う。…俺の彼女に、なってくれる?」


「…は、はい……っ!」


つい条件反射で頷いて、それからじわじわと内容を理解していく。

そうなるともう我慢できなくて。

あ。これは、ダメだ、もう無理。

さっきから堪えていた涙腺がついに崩壊して、私は先輩の腕の中で泣いた。


「あぁもう、萌可愛すぎでしょ…っていうか両片想いだったのか……。

はー、誰かに盗られるんじゃないかってマジ焦った…」


そうしみじみと呟いて、先輩は腕を離す。

それから私の顔を覗き込んで、私が大好きな笑顔で言った。


「これからよろしくな、彼女さん」


“彼女さん”。その言葉が凄く嬉しくて、今度は自分から抱きついた。



「…はい!よろしくお願いします、先輩!」



















「とりあえず、“先輩”って呼ぶのはやめようか」


「え、じゃあなんて呼べばいいんですか?」


「名前で呼んでよ。健二のことは健二先輩って呼ぶのに、俺のことは“部長”か“先輩”としか呼んでくれなかっただろ。

正直健二に嫉妬してた」


「じゃ、じゃあ…雅臣先輩……?」


「うーん、先輩もいらないけど…ま、今はそれでいいや。

でもいつか敬語なしで話して」


「うっ…善処します……」


「あとさ、健二のこと名前で呼ばないで?

羨ましい。

それに、萌に俺以外の男の名前呼んで欲しくないし」


「先輩って、独占欲強いんですね…」


「はは、俺も正直驚いてる。

…萌は独占欲強い俺、嫌い?」


「…嫌いじゃないです」



むしろ好きですよ、雅臣先輩。

………絶対言わないけど。







読んでくださってありがとうございました!

誤字脱字や文章構成など、なにかお気づきになったり「こうしたほうがいいんじゃない?」などありましたら教えていただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして。こんにちは。 甘酸っぱい感じで、きゅんってきました。 途中で、「諦めないでよ! 君の事だよ、萌」って思いながら読んでました。
[良い点] すごい良かったです♪ 読んでいて、とてもドキドキしました☆ [気になる点] 先輩の台詞の 「…してよ」 「…期待、してよ。諦めないでよ、俺のこと」 のところを「しろよ」とか、「諦めるなよ」…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ