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花園の魔女

 人間ヒューマンは、驚くほど弱く、無知だ。


 人間が現在掲げているのは、正義ではなくそれは……。




 『願わくば、永遠に続く人間ヒューマンの時代…』




 20xx年

 突然枯渇する自然。突然変異し凶暴化する動植物。

 怯える人類。そんな中、政府はある女を逮捕し、その名を発表した。

 

 その名は、クリシュナ・ガーランド。


 この女は魔女であり、共に共存していた人間を虐殺するため、呪われた闇の力を行使したという。

 捕まった女は力を行使する代わりに死ぬことを許されなくなったため、死刑に出来ない政府は、彼女を教会に引き渡し、その教会の地下深くに封印したという。


 しかし、それで民衆の不安は治まることはなく、政府は教会と連携して、「魔女狩り」を始めた。

 それにより、魔女の人口は激減し、魔女は表舞台から姿を消した。



 その後人類は、魔女狩り専門の教会組織『暴力教会イスカリオテ』を設立し、都市ごとに学院という形で支部を置いて、人類の不安は治まった。

 それでも、人類は未だ脅かされている。


 魔女の呪いに…。









 ここは、ニホンの都市の一つ『カナガワ』。

 中心に建つのは、教会支部の一つ『銀十字しろがねじゅうじ学院』である。ここでは、教会の使徒ラスルを目指す生徒たちが通う学び舎としても機能しており、沢山の若者達がこの門を叩き、見事卒業する者もいれば、ついて行けずに脱落していく者もいる。


 今日、この門をくぐり、新たな生活をスタートする少女が一人。


 この学院で特に優秀な教師である、ツワブキ・シシドウに校内を案内される転校生の少女。

「君は教会の関係者夫婦の娘さんだ。きっと、立派な使徒ラスルになれるだろう。期待しているよ」

「は、はい」


 そして、案内されたのは、1年のクラス。

 教師に紹介され、改めて名を名乗る。

「は、初めまして。メイ・サイトウといいます。よ、よろしくお願いします」

 一礼すれば、軽く拍手の音が響く。

 あいさつの後、教師に言われた席につけば、その隣の窓側の席には、教師の言葉など耳も貸さずに読書する女生徒がいた。

 特徴的な亜麻色の髪と、鋭い目つき。あまりの美人に、メイはあっと驚いて視線は釘付けになった。

 しかし、間もなく少女が視線に気付き、本を閉じて他人の目も気にせず教室を出て行った。教師が制止するが、聞く耳持たず。



 そして、ある日の放課後

 メイは先生に頼まれて、中庭に通じる外廊下を通っていると、中庭の中央に立つ大木から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「…大丈夫。もう少しでかえるわ。心配しないで、一生懸命温めなさい」

 メイがそっと近づこうとしたと同時に、声の主が木から下りてくる。

 声の主は―――――メイの隣の席のあの美少女。

 メイの存在に気付くやいなや、先ほどの優しい表情とは一変し、厳しい表情で睨みつけてきた。

「…何か用?」

「え、えっと…。な、何してるのかな…って」

 たどたどしく言えば、溜め息一つ吐いて困った表情をする。

「…さっきのこと、黙っててね」

「え?」

「都市には動物禁止法があるでしょ。バレたら即処分されるから」

 凶暴化した動物から都市を守るためにつくられた法令である。そのため、都市に動物はおろか、ペットの類もいない。

「え、うん」

「…アタシ、オウカ・ハヤト。まぁ、よろしく」

「はい。よろしくお願いします!」

 それがきっかけで、2人の会話することが多くなった。


 会話の中で、オウカはメイのある過去を聞くことになる。

「私の両親ね、教会で働いてたの」

「教会で…」

「そう。でも、私が小さい時に教会を憎んでいる魔女たちに襲撃されて、2人とも…っ」

「……」

「だからね。私、決めたの」

「何を?」

「きっといつか、私がこの世のすべての魔女を殲滅して、仇をとるんだって…」

 決意を露わにしたメイとは裏腹に、拳を握り締め苦しい表情を浮かべていた。


 そんな2人の様子を校舎の屋上から眺める二つの怪しい影…。





 女子寮の自室に戻ったオウカを待っていたのは、一匹の白い猫。

 夕日に照らされたその猫は、ゆっくりとその口を開く。

『おかえり、オウカ』

「…ただいま、タリア」

 オウカは猫が話していることに慣れているように、当たり前のように返答する。

 カバンを机に置くと、体をベッドに投げ出す。見上げた天井に、先ほどのメイの憎悪の見え隠れする表情を思い出して、複雑な気持ちになった。

「…さいあく」

『だから、やめときなって言ったんだ。人間に関わるとロクなことがない』

「そんなことない。だって私だって…―――――?」

 猫のタリアに反論している最中、オウカの視線が別の方向を向いた。

 ドアの向こうに殺気を孕んだ気配を感じ、タリアもドアを睨む。

 すると、ドアの下の隙間から、スッと手紙が入れられる。気配が消えた後、オウカは手紙を拾い、封を切る。


【裏切り者さんへ

 君の友達の眼鏡っ子は、俺様たち(・・)が預かった。

 午後23時に、都市近くの森の廃棄された闘技場にて待つ

 超かっこいい俺様より】


 おもむろに、それをぐしゃりと握り潰した。その怒り狂った姿に、タリアは溜め息ひとつ。

『見捨てちゃえばいいのに、…って思うけど』

「…出掛ける準備よ」

『…それが出来ないのが、アナタよね。オウカ』

 タリアは分かりきったことを口にする。




 廃闘技場

 その中央で縛られて口も聞けないようにされたメイが、怯えた様子で目の前に立つ青年を凝視する。メイを攫った張本人であろう青年は、つぶてを片手に手遊びをしていた。

 誰かを待っているような様子で、メイは誰を待っているのか、と疑問を感じる。

 すると次第に、青年がいらだったような様子を表し始めた。

「あーくそっ! 待ち合わせ時間23時にすンじゃなかった。チョー暇」

 暇つぶしに、手に持っていた礫をメイに向かって投げれば、メイは当たりはしなかったが、更に怯えた表情を浮かべた。

「…あの裏切り者。顔見たら即座にる」

 殺気は、メイにも痛いほど伝わるほどだった。それほどまでに憎む相手。メイに関しては、それは魔女。そして、こいつは…。


「望み通り、少々早めだが、来てやったぞ」


 闘技場に響く声。その声は、メイもよく聞く声。

 青年はニヤリと口元を歪め、観客席の方に視線を流す。

「ヨォ。待ってたぜ、オウカ・ハヤト」

 亜麻色のポニーテールを風に靡かせ、堂々と現れたオウカ。その肩には、白猫のタリアが乗っていた。

「名を名乗れ」

「これは失礼」

 青年はお辞儀をして自分の名を名乗る。

「出は“狼のフェラン”、名はロン。気高き魔女の一族に生まれし“風の魔女”の二つ名を戴きし魔男ウォーロックであります。以後、お見知りおきを」

 魔女の名を聞き、メイは大いに驚いた。

 しかし、名乗られたオウカは至って冷静。

「ほぉ、人狼と名高きフェラン一族の生まれか。で、その貴様が私に何の用だ?」

「クックックッ。笑わせンなよ?」

 青年・ロンの口調の変化に、オウカは少し動揺する。

魔女でありながら(・・・・・・・・)人間の味方をする(・・・・・・・・)お前を処刑しに来たんだよ、オウカ・ハヤト。…いいや、ライザ・ガーランド」

 ロンは、オウカの魔女としての名を口にした。

 “ガーランド”

 聞き覚えのあるその名に、メイは失望感と裏切られたという絶望感に今にも倒れそうだった。

「っやめろ…」

「“花冠のガーランド”の生まれ。あの“闇の魔女”である、クリシュナ・ガーランドの落胤。二つ名は…、そうそう“花の魔女”だったかァ?」

「やめろ!」

 オウカは動揺した様子で怒鳴りつけて、ロンの言葉を止めた。

 荒い呼吸を整えると、もう一度ロンと向き合う。

「私に恨みがあるのなら、私を直接狙え。そのは関係ない」

「クックッ。それじゃあ、つまらないだろ?なァ、人間」

 ロンは振り返り、メイと視線を合わせる。そして、足元に散りばめられた礫を一つ拾うと、それを指を弾くように構える。

「! やめろ!!」

「やだネ」

 指に弾かれてメイに向かって飛ばされた礫は、ロンの力を加えられ、風を纏ってかまいたちのようになった。


 スパッと、切れた。


 しかし、切れたのはメイを縛っていた縄のみ(・・)


 ロンが斬ろうとしたメイ本人はタリアによって逃がされていた。巨大化していたタリアの口に咥えられて運ばれたメイは呆然としており、地に下ろされてやっと正気を取り戻した。

「! なんで…」

 混乱しているメイの前に立ってロンから守るのは、剣を突くように構えるオウカ。しかし、その背中を信じていいのか、メイは疑心暗鬼に駆られてますます混乱する。


 オウカは怒りに任せて斬り込むが、


 闘技場に響いたのは、一発の銃声。

 

 銃口から細く立つ煙。

 それを手にしているのは、腰が抜けて膝を笑わせている、メイ。

 そして、一発の銃弾が貫いたのは、


 オウカの、右肩。


「…え?」

 弾の貫通した傷口から溢れる血を目の前に、握力が低下し剣が無造作に足元に落ちる。

 そして、言う事を聞かなくなった体が、無力に倒れる。


 そんな光景に唖然とするロンと、オウカの身を案じて声を上げるタリア。

 倒れたその姿を目に焼き付けたロンは、途端に腹を抱えて笑い出した。

「アハハ…、 ハハハハハハッハ!! コイツは傑作だ!!」

「あ…っあぁ…!」

 嗚咽のような声を上げるメイは、握っていた銃を遠くに投げつける。

「ハハッ。あー面白かった。さて、俺様が直々に手を下してやるよ」

 オウカは手の中の礫を構えると、腕の周りに風が集中する。

「これで、、ジ・エンド!!」

 ロンがオウカにトドメを刺そうとしたその時。


「やめろ!」


 制止の怒声に、ロンは思わず礫を手から零す。

 声の主は、風の力でロンの頭上に飛んでいた。

「そこまでにしとけ、ロン」

「げっ!? ラルフ!」

「“兄ちゃん”を付けろ」

 地面に足をつけ、ロンの頭を撫でる青年―――ラルフ。

 ロンは嫌そうにしかめっ面でその手をどける。

「なんで兄貴がここにいンだよ?」

魔女婆まじょばあ様に頼まれてきたんだ。お前を止めにな」

「はぁ? 何でだよ」

「俺たち魔女の暗黙のルールを忘れたか? なら、ここで復唱してやるぞ」

「あーあー! あれだろ。“花の魔女に手を出すな”だろ?」

「分かってるなら、帰るぞ」

 ラルフに軽く睨まれて、ロンは逆らわず、舌打ちするとラルフより先に姿を消した。

 弟を見送ったラルフは、倒れているオウカの方に振り向く。

「…魔女婆様は何故お前に贔屓目なのか知らないが、ロンのようにお前を逆恨みしている奴等がいる。気をつけろ」

「…っ手間を、かけさせたな。“谷の守り人”」

「フン。じゃあな」

 朦朧とする視界で、ラルフの姿が消えるのを見送る。


 ロンが去り、静かになった闘技場。

 未だ目の前の光景に、信じられない、と嗚咽を繰り返すメイと、肩から血を流すオウカ。

 オウカの流れる血を止めようとするタリアに、無情な銃声が響く…。


「! タリア…!?」

 オウカは傷付いた体を無理やり起こし、倒れるタリアを抱き上げる。血は出ているが、掠っただけで軽傷だった。

「っ誰が…」

 メイは自分が銃を投げた方向へ恐る恐る目を向けると、それを構えている、学院の教師―――ツワブキ・シシドウがいた。

「せ、先生…?」

「ダメじゃないか、サイトウ君。ちゃんと魔女にトドメを刺さないと」

「…ぇ、でも…」

「オウカ・ハヤト、お前は教会本部から逃げた実験体だろ? 大人しく帰るなら、殺さずにおいてやろう」

「…じ、実験体?」

 オウカもバツの悪そうな顔をしている中、メイは訳が分からないという顔をしていた。

「何故、父様を殺した?」

「え、オウカさんの…お父様?」

「父は、母を…クリシュナを無実だと知って、逃がそうとしたんだ! それなのに…っ」

「フッフッフッ。決まっているだろ? 人間でありながら、魔女を愛してお前という、人間と魔女の混血(・・・・・・・・)をつくり出した裏切り者だから、だ」

「…貴様ッ!」

「わざわざあんな魔女を学院まで手引きしたというのに、とんだ邪魔が入ったものだ」

 メイは驚愕の事実に言葉を失う。

 オウカは銃口を向けられ、オウカはタリアを抱き締めながら身構える。


 再び響いた銃声。


 身構えていたが、銃弾が自分の身を貫く痛みを感じなかったため、オウカはゆっくりと目を開ける。すると、目の前で見覚えのあるシルエットがゆっくりと倒れていくのが映った。

「っメイ!!」

 地面に叩きつけられる直前で何とかキャッチでき、メイをゆっくり寝かせる。

「あんた、なんで…」

「だって…、ともだち…でしょ?」

「!?」

「魔女でも…、人間でも、私の…大事な、友達、だか、ら…」

「…そうだね、そうだった」

 メイを安静に寝かせると、オウカはユラリと立ち上がり、ツワブキの方を向く。

 殺気を孕んだその瞳に、ツワブキは足が竦んだ。

「な、なんだ。その目は」

「…お前に、私の力を見せてあげるよ」

 オウカはゆっくりと足を進めてツワブキに近づく。

 その姿に恐れをなし、ツワブキは無闇に銃を撃つ。

 しかし、その時。

 オウカに向けられた銃弾は彼女に当たる前に、花びらとなって散った。

「な、何…!?」

「私が“花の魔女”と呼ばれている由縁は、私が自分に向かってくる攻撃をすべて花に変えるが故」

 そう言いながら、銃弾を花びらとして散らしていくオウカ。

 オウカの話し声も聞こえないほどに発狂したツワブキは、悲鳴を上げながら銃を乱射する。

 しかし、ついにオウカが目の前まで辿り着き、銃を持つ手を捕まえる。

「ひっ、ひぃぃぃぃ!!」

「散れ」

 オウカがそう呟けば、ツワブキの体が見る見るうちに、花びらとなって地面に落ちていく。

「たっ助け…っ!」

「悪いな。私は決めたんだ。お前ら教会の研究に関わる奴等を片っ端から花に変えてやる、と」

「っ―――――!!!」

 そして、ツワブキの体は全て花となり、地面に落ちる。

 落ちた花たちは、風が吹くと簡単に空に舞い上がっていった。


 オウカは静かに、それを見つめていた…。













 事件から数日後

 ツワブキ先生は行方不明として捜索されたが、もちろん見つかることはない。

 オウカとメイは、魔女の襲撃を受けたとされ、その日の夜に姿を消したツワブキ先生も関与しているかどうかも、調べられている。

 怪我を負った2人は、病院で少し入院したのち、数日で退院できた。


 そして、オウカ・ハヤトは、学院に退学を申し出た。


 学院の寮を出ることになったオウカは、少ない荷物を持って門をくぐる。

 その後ろから、オウカを止める声が響く。

「待って!!」

「…? メイ」

 息を切らしながら、腕に包帯を巻いたメイがオウカに追いつく。

「…で、出ていくって…ホント?」

「…えぇ。やらなきゃいけないことがあるから」

「……」

「私の正体は言いふらしてくれて構わないわ。魔女に怪我を負わせたんだから、きっと昇格くらいは出来るよ」

「馬鹿!!!」

 視線を合わせないようにしていたオウカが、メイの大声に思わず目を見開いて視線を合わせてしまった。

 すると、メイの両の目には、涙が溜まっていた。

「っ…馬鹿じゃないの。友達に、そんなことするわけないでしょ!」

「…メイ」

「でも、一つお願いがあるの」

「何?」

「両親を殺した、“紫色の炎の魔女”を捜してほしいの」

「…分かった」

 オウカはその魔女の特徴を心に深く刻むと、静かに頷く。

「教会には、改善されなくちゃいけない闇の部分があることが分かった。だから、私は内側から教会を変える。オウカは、外から教会を変えてね」

「…あぁ」

「…また、ね」

「また、どこかで会おう」

 約束の握手を交わし、オウカは去っていった。肩に、白い猫をのせて。



 その後、教会に喧嘩を売る“花の魔女”の名は、世界に知れ渡ることになる…。

ちょっとスランプなんで、息抜きに書いてみました。

気が向いたら、長編で書いてみようと思います。

是非、感想などもお願いします。

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