前へ目次 32/32 彼岸からの声 <書き出し> 彼岸から春風に乗って声がやって来た。 声は掠れて今にも消えそうだった。 私は聞き耳を立てた。 「元気か・・・」 その声は私の前をすり抜けて椿の花弁(ハナビラ)を一枚落とし、桜の並木を通り抜けた。 声を追って沢山の桜の花弁(ハナビラ)が落ちてきた。 花吹雪の中から年老いた夫婦が現れた。 見覚えの有る顔。 老夫婦は楽しそうに話しながら歩いて行く。 そして花吹雪の中に消えて見えなくなった。 私は消えて行った老夫婦の通った道に合掌した。 『南無阿弥陀仏』