人間水槽
<書き出し>
上野駅から十分ほど歩いた所に『サピエンス』と云う名前の店がある。
店主の名前は『トランプ』。
ユーラシア系アメリカ人宣教師だ。
店には水槽と籠、玉網、酸素、餌等が手頃な価格で陳列されている。
奥に入ると、世界中のホモ・サピエンス(人間)が大きな水槽に入れられて売られている。
ネアンデルタール、デニソワ、ホモ・エレクトス。
全て一匹が「三千円」である。
更に奥に入ると、
コーカソイド(白色)、モンゴロイド(黄色)、ネグロイド(黒色)
の三種も今、『売り出し中』のシールが貼ってある。
コレ等は「各一万円」と少し値が張る。
私はアルバイトで貯めたお金で、コーカソイドを雄雌各一匹、モンゴロイドを雄雌各一匹を購入した。
トランプ(店主)は、
「一緒の水槽に入れると喧嘩するから別にした方が良い」
と教えてくれた。
しかしコレ等はまだ子供なので、一緒に入れて様子を見ることにした。
暫くすると、「繁殖」が始まった。
コレはいかんと思い、急いで今より大きめな安い『水槽』を上野に買いに行った。
店主は、
「そろそろ戦いが始まるから病院を作って置いた方が良い」
と言うのである。
仕方がないので、ついでに「病院」も買って来た。
すると、やはり戦いが始まった。
ガサゴソとうるさくて夜も眠れない。
良い方法がないかと電話でサピエンスの店主に聞いた。
すると、
「近代種のサピエンスは戦争がやめられない生き物だ」
と教えてくれた。
その場合の有効な方法は水槽を変えた方が良いとも教えてくれた。
暫くすると、
『水槽キャンペーン中』
のハガキが届いた。
私は急いで水槽を買いに行った。
少し高い商品だけど三割引で六万円で購入した。
水槽の名前は、『新しい文明』と言う。
今の所、サピエンス達は平和に暮らしている。
この水槽の下には「緊急ボタン」が装着してある。
店主が言うには、最悪の場合以外には押してはいけないと忠告してくれた。
押した場合は、この『文明』と云う水槽は破壊されるらしい。
私はまだ、世界の終わりは見たくない。
最近、店主が変わったそうだ。




