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1. 序
かつて、世界は光を手に入れた。
それは人の手で制御された奇跡であり、神の火をも凌ぐと讃えられた。
けれども、その輝きがいかに眩しかったとしても、やがて光は沈黙する。
残されたのは灰と、わずかな温もりだけだった。
私はその沈黙の始まりを知る者のひとりである。
魔術がまだ息づき、蒸気の音が街を満たしていた時代。
九歳の私は父に見送られ、魔術学院への長い旅路に就いた。
それは、この国を覆う運命の幕開けでもあった。
列車の窓に映る景色は、まだ世界の美しさを信じていた頃の私の目に映るままに、光と影を交互に織りなしていた。
あのとき出会ったひとりの少女が、やがて私の記憶の底で金剛石のように輝き続けることを、私はまだ知らなかった。
人はなぜ光を求め、なぜその手で自らを焼こうとするのか。
この記録は過去の再生ではなく、沈黙の底に沈んだ光の形をなぞるための試みである。
忘れられた声を拾い上げるようにして、私は再び筆を執る。




