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9 蛇と滝と崖。

リールに続いて、サイたちも慌てて木の中へと駆け込む。


パリーンッ!


結界が砕ける鋭い音が辺りに響き渡った。大きな蛇の魔物が、透明な結界を力任せに突き破って出てきたのだ。


「っ!」


リールが真っ先に動いた。逃げ遅れた一匹のフェレットを抱え、全力で走り出す。その直後、蛇がその後を追うようにうねりながら突進していく。


『やばっ・・・!』


サイは反射的に動いた。地面に落ちていた石を拾い、蛇に向かって全力で投げつける。石は蛇の頭に命中し、バチンと鈍い音が鳴った。蛇の視線がサイに向いた瞬間、サイは踵を返して走り出す。


「こっちだよ!!」


全身に緊張が走る。息を切らしながらも、サイはがむしゃらに走り続けた。距離は多少離れたが、このままではすぐに追いつかれてしまう。


――どうしよう!このままじゃ――


考える余裕もない。だが、その時、遠くから水の流れる音が聞こえてきた。


「・・・滝?」


サイの目が一瞬で覚めたように光る。音のする方角へと、全速力で駆け抜ける。


やがて視界の先に、白い水しぶきをあげる滝が見えた。その下には深い谷が広がっており、今いる場所は崖の縁になっている。


「・・・ここしかない!」


追いつきそうな蛇の気配を背に感じながら、サイは崖のギリギリまで走っていく。


崖の端、足元には草がかろうじて生えており、一歩間違えればすぐに滑り落ちそうな不安定な場所。サイは一瞬の迷いもなく立ち止まり、振り返った。


巨大な蛇が、獲物を仕留めるような勢いでサイへと突っ込んでくる。その姿はまさに猛獣。牙をむき、目を見開き、一直線にサイへと突進してきた。


「今だっ!」


サイは崖から、大きくジャンプした。


重力が体を下へと引きずる。風が肌を切るように流れ、目の前の景色がぐるりと回った。


その直後――


蛇はその勢いのまま、サイのいた崖の先へと飛び出し、空中でバランスを失い、そのまま谷へと落ちていった。滝の下からは、激しい水音とともに、しぶきが舞い上がった。


「・・・ふう」


崖の少し下、突き出した岩の上にサイはうまく着地していた。体勢を整え、上に手を振る。


「おーい! 無事だよー!」


その声に、後から追いついてきたエメルたちは安堵の表情を浮かべた。


『無茶しやがって・・・』


息を切らせたエメルが、呆れたように眉をひそめる。


「エメルの時の戦法をやってみました!」


『・・・あれは油断してただけだ。』


エメルはサイの言葉に不服そうにしながらも安心したように笑みを浮かべている。


リリスとリールも、それぞれ息を荒くしながらも、笑顔で崖の端に立ってサイに手を振った。


「いやぁ・・・本当に焦った」


サイは苦笑しながら、少しずつ岩の上を移動しようとした。だが――その時だった。


ピシッ――


崖の縁に立っていたサイの足元から、嫌な音が響いた。


「・・・え?」


見ると、足元の岩に亀裂が入っていた。そして、それは一瞬で全体に広がっていく。


バキッ!


『サイ!』


『『っ!?』』


エメルの叫ぶ声が聞こえた瞬間、サイの足元の岩が崩れ落ちた。サイの体が、谷の奥へと吸い込まれていくように落ちていく。


「――――っ!」


風の音にかき消され、叫び声は誰にも届かなかった。


・・・


落ちていくサイの姿を、エメルたちは呆然と見つめることしかできなかった。


『・・・うそ・・・すよね・・?』


リリスが、震える声でつぶやく。


エメルは動けなかった。サイが目の前で消えたという現実を、体が受け入れてくれない。


『・・・なんで、こんな・・・』


リールもまた拳を握りしめ、唇を噛みしめていた。


・・・沈黙が続いた。


空は高く、滝の音がただむなしく響いていた。


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