8 リリスの拠点!
翌朝、サイたちは少し早めに目を覚まし、リリスの拠点を目指して出発した。
『えっと、確かこっちっす!』
リリスのやや曖昧な案内に、サイとエメルは顔を見合わせながらも従うしかなかった。道が分からない以上、頼れるのはリリスだけだ。
しばらく歩いていると、小さな池が見えてきた。そこには大きな亀がのんびりと佇んでいる。
『あ!亀爺っす!ちっと道を聞いてくるっす!』
リリスはそう言うと、亀のもとへと駆け寄った。何か話している様子だが、しばらく見つめ合っただけで、少し気まずそうに戻ってくる。
「?」
サイは首をかしげつつ、その帰りを待った。
『あ、えっと、どうやら拠点は・・・あっちみたいっす』
リリスが指差したのは──来た道だった。
・・・
結局、リリスは方向音痴だったらしく、亀爺の助けを借りてようやく正しい方向へと進むことができた。
「そういえばリリスって、仲間以外とも知り合いなの?」
前から気になっていたことを、サイがふと尋ねる。
『そうっすね!この森の小動物たちは大体知ってるっすよ!あ、でも会ったのは初めてっす!姿が見えなければ誰かわからないっすけど、亀爺は唯一の亀なんで分かったっす!』
「へえ、面白いなあ・・・」
話しているうちに、遠くに何かが見えてきた。近づくと、それは木々が円形に生い茂り、間にひもで結界のようなものが張られている場所だった。中では、小さな動物たちがせっせと働いている。
『みんなー!今帰ったっすよー!』
リリスが大きく手を振って声を張り上げると、しばらくしてサイと同い年くらいの少年が姿を現した。
濃い茶色の目に、薄い茶色と濃い茶色の混じった髪を揺らしながら、少し不機嫌そうに歩み寄ってくる。
「おい、方向音痴なんだから、ここから出るなって言ったろ!」
「・・・え、人?」
サイは思わず声を上げた。リリスからは「小動物の集まり」と聞いていたが、目の前の人物はどう見ても人間にしか見えない。
「ん?こいつら誰?」
『この人はサイさんとエメルさんっす!で、こっちは俺っちの弟、リールっす!』
「弟!?」
驚いてリールを見直すと、彼にはリスのような耳と大きな尻尾がついていた。
「え、もしかして・・・あなた、リスなの?」
「ん?あー、そういうことか。・・・ほれ!」
そう言ってリールはその場で姿を変え、リスの姿になる。
「!?」
サイは思わず目を見開いた。予想はしていたが、実際に変身するとは思っていなかったのだ。
「これも、特殊な能力なの?」
『いや、それはちょっと違うな。特殊能力は個人差があるが、これは誰でも覚えられる“特性魔法”ってやつに近い』
エメルが説明を加える。サイは「特性魔法」という言葉に興味深く耳を傾けた。
ちなみに、特性魔法とは直接的な攻撃ではなく、身体強化・毒・眠り・回復など、補助的な効果を持つ魔法の総称である。
『そうっす!俺っちも人型になれるっすよ!ただ、人の言葉が話せないと覚えるのは無理っすけどね!』
サイはさらに興味を持ち、矢継ぎ早に質問を投げかける。
「なんで変身は人型なの?エメルの擬態とは何が違うの?リールの尻尾や耳は隠せないの?」
質問攻めにしてしまったかと少し反省しつつも、エメルたちの返答を待つ。
『たぶん、人型にしたのはこの魔法を作った神様が人型だったからっすね!』
『俺の擬態とは魔力の使い方が違う。擬態は常に魔力を消費するが、変身は一度だけで済む。しかも消費量も少ない。ただ、変身はもう一つの姿ってだけで、他の姿にはなれない』
『俺のは尻尾と耳が消せねーな。兄貴の変身時は逆に尻尾も耳も出せねー。だから人間と見分けるのは難しいんだ。』
それぞれが順番に説明し、サイはうんうんと頷きながら聞いていた。
『サイさん、そんなに気になるなら俺っちが特別に変身してみせるっす!・・・ただ、リールが言ったとおり、俺っちには尻尾も耳もないっすけどね!』
『『『『きゅー!!!』』』』
その時──木の中から突然、何匹もの小動物たちの鳴き声が響いた。
「『『!?』』」
視線を向けると、そこには巨大な蛇の魔物がいた。
だが、その身体は透明な壁に阻まれており、中へ入れずにいる。だが、油断はできそうにない。なぜならその壁にはヒビが入りかけているからだ。
『やべー!俺の結界、破られそうだ!』
眉間に皺を寄せたリールが、慌てて木の中へ駆けていった。