7 リスの能力と名前!
リスの言葉に、サイは目を丸くした。
だが、考えてみればエメルにも変身の能力がある。
能力が一人一つとは限らない、ということなのだろう。
『俺っちのもう一つの能力は、離れた場所にいる小動物と話すことができるっす!』
リスは胸を張って自信満々に言った。
その能力は確かに便利だ。仲間と遠くからでも連絡が取れるというのは、驚くほど実用的だ。
「小動物じゃないとダメなの?」
サイは疑問をそのまま口にした。
『・・・話せないわけじゃないっすけど、怖いんすよ。力のある魔物や動物は、大体話にならないっす。最悪、食われるっす・・・』
最後は少し声が沈み、リスの顔も険しくなった。
おそらく、実際に体験したのだろう。サイはかける言葉が見つからず、そっと黙り込んだ。
『あ、でもお嬢さんとも話せるっすよ?』
「え?」
《もしもーしっす!聞こえるっすか?俺っちっすよー!》
突如、リスの声が頭の中に響いてきた。
サイは驚いて目を見開く。
《ふふっ、驚いてるっすね。これが俺っちの能力っす!心の中で会話ができるんすよ!》
楽しそうに笑うリス。
そのとき、急に二人の会話が止まったのを不思議に思ったのか、エメルが口を開く。
『おい、どうした?』
サイとリスは会話を中断し、エメルに説明する。
『今、お嬢さんと念話してたとこっす!』
リスの説明を聞いても、エメルはまだ半信半疑の様子。
そこでサイが補足し、やっと納得したようだった。
『なるほどな。たしかに便利な能力だな。』
『ふふん!どうっすか!俺っちの凄さがわかったっすか?ってことで、今日はもうここに泊まるっすよ。拠点には朝になってから戻るっす!』
調子に乗るリスに、エメルはジト目で冷たい視線を向ける。
『そ、そんな目で見ないでくださいっすよ〜!』
慌ててリスが抗議する。
「ねぇ、リスさんの拠点、私たちも行っていい?」
『え、』
サイが少し遠慮がちに尋ねるとリスは驚いたようにサイに視線を向ける。
『べ、別に構わないっすけど、ほんとに何もないっすよ?ただの小動物の集まりっす。』
「それでも、あなたの仲間に会ってみたいの。もしよかったら案内してくれない?」
そう言って、サイは手を差し出した。
リスは小さな手をその上にちょこんとのせる。
「エメルもいいよね?」
『好きにしろ。俺はお前についてくだけだからな。』
その言葉にサイは安心したように笑い、リスへと顔を向けた。
「じゃあ、今日はここに泊まろう!もう暗いし、森の中で無理に動くのは危ないしね。あ、私の名前はサイ!で、こっちのスライムがエメル!」
『俺っちの名前は“リリス”っす!よろしくっす!』
その夜。
三人はそれぞれの夕食を取る。サイはマジックバックから取り出したパンを、リリスはどんぐりをかじっている。エメルはというと、食べずに二人を眺めていた。
「エメル、本当に何も食べなくていいの?パンまだあるよ?」
『リリスの拠点にも行くんだろ?食料は節約しとけ。俺は空腹にはならんし、パンを食っても栄養にならない。無駄だ。』
「でも・・・おいしいよ?」
『お前と俺の味覚は違うんだよ。』
「・・・じゃあ、何なら好きなの?」
『薬草だな。ポーションを作る事もできるしな。』
「え〜、あれ苦くてまずいじゃん!」
『その苦味がうまいんだよ。ま、お前みたいな子供にはわからねーかもな。』
「む!」
ふたりはしばし睨み合う。
・・・
そんな空気に耐えきれなくなったリリスが、声をあげる。
『ふ、二人とも!喧嘩はよくないっすよ!』
「別に喧嘩なんてしてないし!」
・・・
沈黙・・・
そして話題を変えるように、リリスがエメルに尋ねた。
『そっそういえば、俺っちのことどうやって捕まえたんっすか?見えなかったはずっすよね?』
「えっ、リリスのこと見えなかったの?」
リリスの言葉に驚いたのはサイだ。
目を丸くしてエメルをみる。
『今は見えてるが、最初は見えなかった。だが、お前の視線の先やどんぐりの落ちた場所で位置は割り出せた。なんで、フクロウになって捕まえたんだ。ま、本当にいたのは驚いたがな。』
『へぇ〜すごいっすね!でも俺っちもビックリしたっすよ。サイさん一人かと思ったら、いきなりフクロウが出てくるんすもん!』
「幻の魔物ってお互い見えるのかと思ってたけど・・・違うんだね。あ、もうこんな時間!寝ないと!」
サイはマジックバックから毛布を取り出し、さっさと横になる。
「じゃあ、おやすみ!」
サイはそのまま寝息を立て始め、つられてエメルも目を閉じた。
『こんな森の中で熟睡できるっすか!?あっ・・・』
大声を出してしまい、慌てて自分の口を押さえるリリス。
『寝ないわけにはいかねーだろ。魔物が来たら・・・全力で逃げるだけだ。』
『すっ、すごいっすね・・・』
戸惑いながらも、リリスも木の上で眠ることにした。
・・・
夜が更け、日付が変わった頃。
エメルは静かに目を開けた。スライムである彼に睡眠は必要ない。
ただ、ある理由で“寝ているふり”をしている。
・・・またか。
静かな夜に混じって、微かにしゃくりあげる音が聞こえる。
少し離れた木の下で、サイが膝を抱えて泣いていた。
誰も見ていないと思い、毎晩そうしているのだ。
・・・
エメルはそれを、ずっと見ていた。
だが、声をかけることも、そばに寄ることもできない。
・・・
毎晩泣くほど、辛いはずなのに。
彼女は、誰にも見せずにそれを隠している。
・・・
俺は、サイが泣いていても・・・
何の一言も、かけてやれねーのか。
エメルは、胸の奥に罪悪感を抱いたまま、静かに彼女を見つめ続けた。