6 幻の魔物とは?
『俺っち達は、生まれつき特殊な能力を持ってる普通のリスなんっす!』
リスはそう説明するように、元気よく言った。
「特殊能力があるだけで、普通じゃないと思うのだけど・・・」
『そんなことないっすよ? 効果は違うっすけど、生き物みんなに特殊な能力が与えられてるっす! ただ、使いこなせるのが一部だけなんっすよね』
リスは当然といった様子で答える。
(そういえば、聞いたことがある)
サイはそう考える。
教会に大金を払うと、自分の能力を調べてもらえるという話だ。
兄たちは珍しい能力を持っていたらしく、将来有望だと言われていた。
だが、サイは様々な理由をつけられ、連れていってもらえなかったが、貴族などお金に余裕がある者は、そうして能力を明らかにし、鍛えるのだという。
だが、リスの話によれば、生まれつきある才能を使いこなせるかどうかの違いらしい。
確かに、能力の内容すら知らなければ、それを扱うのは難しい。
その点、エメルやリスは、自力で能力を発見し、使いこなしているということだ。
(どれだけ大変だったか・・・)
そこまで考え、サイはポツリと呟いた。
「すごいのね・・・」
『当然っす! 俺っちは天才っすからね!』
リスは誇らしげに胸を張る。
それを見ていたエメルは、『自分で言うなよ・・』と少し呆れていた。
その光景にサイはくすりと笑い、話を戻すように続けた。
「つまり、幻の魔物が見えないのは、特殊な能力を持っているから? どんな能力なの?」
『そうっすね! 簡単に言うと、透明になる能力っす!』
リスは何でもないことのように答える。
「と、透明!? すごい! 確かにそれなら見えないね! あれ? でも、なんで私は見えるの?」
『うーん、俺っちも詳しくはないんっすけど、えっと・・・たしか魔力で見ると・・見えるらしい・・っす?』
『視力では透明なものは見えないが、魔力を周囲に流し込んで、その形や色を認識するんだよ。……まあ、その魔力の作り方や流し方は色々と難しくて、本当にできるやつがいるのかどうかもわからなかったくらいだからな。だから、お前に会ったときは俺も驚いたんだよ』
リスの少し曖昧な説明を、エメルが補足するように続けた。
「え、もしかして……私って普段から目を使わずに生活してるってこと!?」
サイはエメルの言葉に驚いた。
なぜなら、自分が魔力を流している自覚がまったくなかったからだ。
ずっと当然のように見てきた世界が、まさか魔力によって見えていたとは思わなかった。
『前から薄々わかってはいたけどよ、やっぱり無自覚だったのか?』
エメルの問いかけに、サイは小さく頷く。
『はえ〜、無自覚でできるもんなんっすね! ちっとやり方聞きたかったっすけど、これじゃあ無理そうっすね』
「ご、ごめん・・・」
サイは申し訳なさそうに眉尻を下げる。
それに気づいたリスが、慌ててフォローを入れた。
『大丈夫っすよ!』
それでもサイは少しだけ肩を落としたままだったが、話を続ける。
「えっと、つまり、幻の魔物って、みんな透明になる能力を持ってるってこと?」
『うーん、どちらかというと、透明になる能力を持った動物や魔物が偶然見つかって、それが“幻の魔物”にされたんじゃないっすかね』
リスの説明に、サイは納得した。
つまり、「幻の魔物が透明」なのではなく、「透明な魔物が幻扱い」されたということ。
要するに、エメルもリスも、ただの頭の良いスライムとリスに過ぎないということだ。
(全部、つながった)
サイはそう感じた。
「なるほど・・大体わかった! ……ところで、あなたはどうしてこんなところにいるの?」
リスが森にいるのは特別不思議ではないが、一応聞いてみることにした。
『適当にご飯を探してたら……ってのも本当なんっすけど、実は俺っち、拠点があるんっすよ!それでご飯探してたら迷子になって、3日間この辺を歩き回ってたんす。」
迷子のわりには元気すぎて、サイは安心していいのか心配すべきか判断できず、苦笑いを浮かべた。
『拠点ってのは何だ? 食料でもためてるのか?』
エメルが少し気になった様子でリスに尋ねる。
『いや! 仲間がいるっす! もちろん食料もためてるっすけどね!』
「『!?』」
サイとエメルは、リスの言葉に目を丸くする。
「え、仲間がいるの? こんなにゆっくりしてて大丈夫? 心配してない?」
サイの口からは、次々と不安が飛び出す。
だが、リスはケロッとした様子で答えた。
『大丈夫っすよ! ちゃんとみんなには伝えてあるんで!』
「???」
サイはリスの言葉に理解が追いつかない。
エメルもまた、よくわかっていないようだった。
『あ、そういえば言ってなかったっすね! 俺っち、透明になる以外にも能力があるんっす!!』