5 もう一つの出会い!
サイとエメルは再び森を歩き出した。
もう日が暮れかけ、空はオレンジ色に染まっている。
足はすでにクタクタで、あちこちが痛んでいた。
なにしろ今日は、二人で五時間以上も歩きっぱなしだったのだ。
家に寄り道した分、今日はまだマシな方で、多いときは六時間以上も歩くことになる。
だが、最初の頃に比べれば、ずいぶん体力がついてきた。
旅を始めたばかりの頃は、二時間も歩けばもう動けなくなっていたのだから。
それにしても、旅を始めてから、まだ数日しか経っていないのに、ここまで体力がつくとは、驚きだ。
やはりサイは運動系の才能だけは天才かもしれない。
「はぁ・・・日も落ちてきたし、今日はこのへんで休もうかな」
そう言って、サイはマジックバックから大きなシートを取り出し、木の下に広げる。
このシートも、あの家で貰ってきたものだ。
「マジックバックもそうだし、いろいろもらっちゃったけど・・・大丈夫かな。もしかして家の人、帰ってきたりして・・・」
『・・・いつまで言ってんだよ・・・』
サイの不安げな言葉に、エメルは呆れたように返す。
自分でも言いすぎかなと思ってはいるのだが、どうしても罪悪感が残る。
そんなサイに、エメルはため息混じりに続けた。
『こうでもしないと、この先やっていけねーだろ。大体、大事なもんなら、あんなとこに置いてねぇって』
「うぅ・・・それは分かってるけど・・・」
サイが答えたそのとき、頭に何かが落ちてきた。
「いてっ」
思わず頭を押さえ、落ちた物を拾い上げる。
「・・・どんぐり?」
辺りを見回すが、この辺にどんぐりの木はなかったはずだ。
なら、どこから――?
ふと、一つの木に小さな物影を見つける。
木の影に隠れてよく見えないが、確かに何かがいる。
じっと見ていると物影は、サッと木の上へと逃げた。
「まっ――」
『逃すか!!』
サイが声をかけようとした瞬間、エメルが叫んでフクロウに変身した。
その動きはとても手慣れていて、何度もやっているのだろう。
そしてあっさりと、謎の物影を捕らえた。
『ギャー!食べられるッス!? 俺っち美味しくないッスよー!!』
「・・・リス!?」
エメルが掴んで戻ってきたのは、どう見ても普通のリス――
・・・いや、それよりも問題なのは。
「リスが・・・喋った!?」
そう、確かにしゃべったのだ。
エメルとは違う男の子のような声――だが、この辺りに人はいないはずだ。
『えっ!? 俺っちのこと、見えるんスか!?』
「み、見えるけど・・・?」
リスの驚いたような声に、サイは恐る恐る返す。
どこかで聞いたことのあるような会話の流れ――そんな気がする。
『って、いつまでこのままなんスか!』
すると、痺れを切らしたのかリスは怒ったようにフクロウに変身したエメルに文句を言う。それを聞いたエメルは無言で前足を広げた。
『フベッ!?』
まだ空中だったため、リスはそのまま地面に叩きつけられ、変な声を上げた。
一方エメルはスライムの姿に戻り、ぴたりと着地する。
『ひ、ひどいスライムッス!!』
『お前が降ろせって言ったんだろ』
『降ろすじゃなくて、落としたッスよ!』
怒るリスはなぜか二本足で立ち上がり、エメルに抗議する。
だがエメルは全く気にする様子もなく、むしろニヤリと笑っている。
それにつられて、サイも少し笑う。
『・・・やっぱりお嬢さん、俺っちのこと見えるんスね?』
リスは恥ずかしそうに少し顔を赤らめながらも、真剣にサイを見つめてくる。
「ええ。エメルもそうだけど、あなたも普通には見えないの? 私にはちゃんと見えるけど・・・」
『普通は見えないはずッスよ!俺っちたちは、いわゆる“アビリティマウス”ってヤツッス! 幻の魔物?とか言われてるんスよね!』
サイは思わず目を見開く。
やはり――このリスも幻の魔物だ。
王宮の本で読んだことがある。
ーー《アビリティマウス》。見た目は普通のリスだが、特殊な能力を持っている。限られた者にしかその姿は見えないーー
情報が少なく、それだけにレアな存在だということだ。
目の前のリスも、本に書かれていた通り見た目はごく普通。
茶色い毛に大きな尻尾、金色の目がぱっちりしていて、元気いっぱいという印象だ。
「やっぱり、普通のリスにしか見えないわ・・・」
『そりゃそうッスよ!俺っちたちは普通のリスッスもん!』
得意げにそう言うリスに、サイは心の中で(いやいや…)と突っ込まずにはいられなかった。