最初の戦い
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
深夜二時過ぎ。
残業帰りで限界を越えた身体を、ようやく布団に沈めた頃だった。
アパートの薄い壁を震わせる――
「カタ…カタ…カタッ」
という微かな振動。
最初は夢の中の残響だと思った。
だが、胸の奥で何かが軋んだ。
――おかしい。
次の瞬間、闇の端に 小さな影がうごめく 気配が走った。
◆
扉の隙間から漏れた街灯の光を背に、
五体、十体、いや二十体近い“兵士のおもちゃ” が、
ギギ、と機械的に首を回しながら部屋へ侵入してきた。
その瞳は赤く光り、
金属の小さな槍が月光を飲み込むように輝く。
「……な、に……?」
寝ぼけているわけではなかった。
現実そのものがぐにゃりと歪んだような気配。
そのとき、背中の棚から転がるようにして飛び出した影があった。
「ヒロキ!起きて!!」
ナターシャだった。
小さな体で立ちふさがるように広げた両腕の先、
空気が震え、青白い魔力の光がほとばしる。
彼女の目には恐怖ではなく――
迷いのない決意 が宿っていた。
「こいつら、アレクサンドロスの兵……!」
その声に、兵士の玩具たちは一斉に動いた。
◆ 戦いの開幕
ヒロキは身体が勝手に動くのを感じた。
――守らなきゃ。
ただのオタクで、ただの社畜で、
ただ“灰色の毎日を生きてきた”だけの人間が、
そんなことを胸の底から本気で思ったのは初めてだった。
枕元に置いてある、
ダイヤモンド強化電動ノコギリに手を伸ばす。
スイッチを押すと同時に、
ギャァァァァァ!! と荒々しい金属音が闇を裂いた。
「う、おおおおおッ!!」
刃が回転し、噛みつくように火花を散らす。
普段は木板しか切らない工具が、
今夜だけは武器に変わっていた。
兵士のおもちゃたちが一斉に飛びかかる。
ヒロキは、恐怖で喉が焼けるような感覚に耐えながら
ノコギリを横に振り抜いた。
数体が胴ごと跳ね飛ばされ、金属片が床に散った。
◆ ナターシャの魔術
背後ではナターシャが叫ぶように詠唱を唱える。
「――護れ、《幼光陣》!!」
淡い金の光が円を描き、
アレクサが、スカイラーが、ニアがその内側で震えながら守られる。
彼女は“姉”のように彼女たちを背中に庇い、
指先から放たれる魔力の光が兵士たちを撃ち払っていく。
だが、ナターシャの眉間には皺が寄っていた。
(こんな数……おかしい。
まさか、奴が……近くに――?)
胸奥にうずく予感。
何年経っても消えない、
アレクサンドロスへの本能的な憎悪と警戒。
◆ 普通の部屋が戦場になる
六畳の狭い部屋で、
洗濯物と漫画単行本の上で、
カーペットの埃を巻き上げながら、
現実と幻想が噛み合って崩れ合う戦い が続く。
ヒロキの腕は震え、
肺は焼けるように痛み、
汗でグリップがずり落ちそうになる。
“自分は、こんな世界にいる人間じゃない。
でも……
でも、彼女たちが消えたら……”
胸の奥の灰色が、燃えた。
◆ 勝利と違和感
最後の兵士がノコギリの振動で砕け、
歯が止まると同時に、
ぴたりと部屋が静寂に包まれた。
ヒロキは肩で息をしながら、
床に散らばる金属片を見つめた。
「……勝った、のか……?」
ナターシャが駆け寄る。
「ヒロキ、大丈夫? 怪我は――」
「平気……でも、これは……現実なんだよな」
ナターシャは小さく頷いた。
◆ そして、“あれ”がいた
そのとき、
ヒロキの視界の端――
ベランダの外の暗闇に、何かが立っていた。
人の形をしているようで、
いや、形が“流動している”ようで、
彫刻のようで――
でも確実に“生きて”いる何か。
しかしヒロキが瞬きをした瞬間、
それは消えていた。
「……寝不足のせいか……?」
だが、
ナターシャはその気配を感じていた。
彼女も知らなかったのですが、。
――あれは、マダーアール。
理性を捨て、衝動に従う異形の観察者たち。
彼らが“見ていた”。
何かに興味を持ったかのように。
こうして、ヒロキたちの物語は、
静かな夜の底から確かに動き出した。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




