ヒロインたちが目覚める
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
広木は、言葉にしがたい矛盾の中で生きていた。
働いているのに働いていない。
会社に属しているのに会社に必要とされていない。
社会の一員であるはずなのに、どこにも居場所がない。
彼はひきこもり、ニート、サラリーマンを同時にしていた。
彼は保険会社の「無給インターン」だった。
出社する必要もなく、成果を出しても給料は一円ももらえない。
日本のどこかにある灰色のオフィスの端末と、彼の薄汚れたノートPCだけが繋がっている。
「日本は……全部、灰色だ。」
宏樹はいつからかそう信じるようになっていた。
通勤電車の色も、都会のビルも、人の顔も、
そして自分自身の人生も──そのすべてが味のしない灰色のスープのように感じられた。
祖父が亡くなったという知らせを受けたのも、その灰色のなかの出来事のひとつだった。
数えるほどしか会ったことのない祖父。
おもちゃ工場で働いていたらしい。
葬儀から二週間ほど経ったある日、
玄関のチャイムが鳴った。
大きな箱が届けられていた。
差出人の欄には、亡き祖父の名。
「……遺品?」
段ボールを開けた。
中には、アニメっぽいの四体の人形が並んでいた。
一体は宇宙服のようなスーツを着たアストロノート女性。
一体はくノ一を模した派手な和装。
もう一体はフリルと宝石で飾られた魔法少女。
最後の一体はウエスタン風のガンガール。
全ては女性でした。
どれも胸部だけ不自然なほど発達した、昭和の特撮玩具を思わせる“ばく乳”の造形。
「じいさん……どういう趣味だよ。」
祖父のことをろくに知らない自分が何かを断じる資格もないと思い直した。
箱の底には、さらに奇妙なものが入っていた。
──古びた電動ノコギリ。
刃には無数の細かな傷、しかしその縁は鈍るどころか宝石のように光沢を放っていた。
ダイヤモンドで補強された業務用工具。
こんなものを、祖父はなぜ自分に?
答えはどこにも書いていなかった。
「まあ……考えても仕方ないか。」
宏樹は人形たちを部屋の隅に置き、ノコギリは軽く布をかけて棚に立てかけた。
そして椅子に座り、いつものようにオンラインの業務を始めた。
書類を確認し、数字を入力し、虚ろなメールをいくつも返信する。
画面だけが光っている。
時計の針は、今日も灰色を刻んでいく。
──宏樹は知らなかった。
背後で、人形たちが膝を曲げ、ゆっくりと立ち上がったことを。
細い関節がかすかに鳴り、ぬいぐるみのような瞳が光を帯びる。
アストロノートの少女が、そっと窓辺に歩み寄った。
くノ一の少女が、押し入れの影に身を潜める。
魔法少女が杖を胸に抱き、静かに呼吸をしているかのように見える。
カウガールはブーツのつま先で床を軽く鳴らした。
彼女たちの視線は、窓の外の世界へ向いていた。
灰色だと宏樹が信じて疑わなかった、その外側へ。
だが宏樹本人だけが、何一つ気づいていなかった。
部屋の空気は、静かなまま。
灰色に見える世界の、色が変わり始めていることに──まだ。
このエピソードを楽しんでいただければ幸いです。次のエピソードはすぐにアップロードします。




