彼は魔術師かもしれないし、超能力者かもしれない
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
深夜の新宿中央公園。
街灯の明かりは弱く、東京の中心とは思えないほど静かだった。
その沈黙を、突然の“ゆがみ”が破った。
空間が裂けるわけでも、光が溢れるわけでもない。
ただそこに、「存在してはいけないもの」が──ふっと、置かれた。
それが マダーアアル である。
三体。
まるで実験的なバロック彫刻がそのまま歩いてきたような、
左右非対称で、装飾過多で、形状の定義さえ困難な生命体。
人間の視界はその異様さを認識できず、
通りすがりのサラリーマンや学生たちは口々にこう呟くだけだった。
「……あれ? 新しいアート展示か?」
「なんだよこの前衛オブジェ……動いた気がしたんだけど……?」
マダーアアルは少しずつ、ほんの数ミリ単位だけ体を動かす。
人間の視認能力の盲点を正確に突き、“動く彫刻”として紛れ込む。
しかし今夜、彼らの目的は人間の注意ではない。
公園の地面に、黒い影が円を描いた。
それは縄文土器のようにも、古代ギリシャの呪紋にも、
量子回路図にも似ている──
しかしどれにもちっとも当てはまらない、
**マダーアアル固有の「非合理的な構造」**だ。
円の中心から、“それ”が生まれた。
アベ。
まだ温度も質量も安定していない、
創造されたばかりの存在。
おもちゃの大きさだ。
服装とも装束ともつかない無数のアクセサリーがぶら下がり、
そのすべてが世界各地の呪術文化を無秩序に混ぜたものだった。
・日本の般若面が額に半分だけ貼り付いている
・アフリカの医療呪術師の鳥のくちばし面が顎の下から覗く
・アマゾンのシャーマンの羽根飾りが背中で揺れる
・アイヌの織り紋
・ケルトの渦巻き
・チベット僧の焼き印
・古代ギリシャの呪具らしき金属片
・誰も知らない文明の札
まるで世界中の呪術文化が激突し、
そこで生まれた破片の集合体をおもちゃ形に押し固めたようだった。
アベは目を開けた。
瞳は空洞のようで、しかし何かが蠢いている。
言葉は発さない。
意志があるのかも判然としない。
マダーアアル三体はアベを一瞥した。
その動きはゆっくり、儀式めいていて、意味があるようで意味がないかもしれない。
まるで「やるべき工程」を消化しているだけのようだった。
やがて彼らはアベに背を向けた。
そしてまた、ゆるやかにミリ単位で動きながら、
新宿の夜道に溶け込むように消えていった。
アベはしばらく公園に立ち尽くした。
夜風がアクセサリーを揺らし、何種類もの呪音が重なる。
そのどれもが意味を成し、どれもが意味を成さない。
やがて、アベは歩き始めた。
静かに。
滑るように。
その運命に──
アレクサンドロス がいることを、
彼はまだ知らない。
だが、世界はゆっくりと
その二つの異形を近づけ始めている。
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