勇者の神のような存在を騙すガイド
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
ヒロキは、月のない夜にひっそりと家を出た。
ナターシャもアレクシスも、追いかけようとはしなかった。
彼は目的地はひとつ。
あの、理性と非理性が崩れ落ちては混じりあう「公園」——
マダ・ア・アル星人が静かに佇む場所。
*
暗闇は深く、静寂は重かった。
ヒロキが一歩踏み入れるたびに、空気が波紋のように揺れる。
やがて、彫像のような存在たちが現れた。
目も顔も、人体の文法すら持たない。
しかし確かに「見ていた」。
マダ・ア・アル星人たちの声が響く。
石が砕けるようであり、風が遠吠えするようでもある、奇妙な多層の声で。
「また来たのか、人間。われらの答えは変わらぬ。
干渉するつもりはない。」
ヒロキは深く息を吸い、震える膝を押さえた。
「……知ってる。
でも、今日は説得に来たわけじゃない。」
マダ・ア・アル星人たちの沈黙が世界を染めた。
「では……これは何だ?
おまえの中で、ごく小さく、だが確かに揺れている……
規則性のない波動。」
ヒロキは荷物を置き、その場に立った。
夜風が足元を撫でる。
次の瞬間。
タッ。
かすかな靴音が虚空を震わせた。
もう一歩。
タッ、タッ。
いや、それはただの歩みではなかった。
ヒロキは突然、
ぎこちない——しかし魂をむき出しにしたようなタップダンスを踏み始めた。
足音が、控えめな雷のように地面を打つ。
タカ、タタッ、タタタッ!
マダ・ア・アルの姿が微かに揺れた。
彼らの世界に「リズム」の概念はない。
「……これは……何だ?」
ヒロキは息を切らしながら、止まらずに踊った。
身体が訴えていた。
言葉では届かないから。
そして踊りながら叫んだ。
「理由なんてない! 意味もない!
人間は時々、ただ動く。
ただ息をして、ただ叫んで、ただ踊る!
それが理性か非理性かなんて……誰にも決められない!」
マダ・ア・アルたちの影が波打つ。
「理性と非理性……?」
ヒロキは踊りを止め、強く息を吐いた。
「そんな区別、最初からないんだよ。
宇宙のぜんぶは……ただの衝動だ。」
沈黙。
そしてついに、
マダ・ア・アルのひとりが、
歴史上初めて——ほんの少しだけ形を崩した。
「……奇妙だ。
今……われらの内に……
微細な、しかし確かに“揺らぎ”が生じた。」
ヒロキ:
「それが“欲望”だよ。」
マダ・ア・アル:
「……望む……?
われらが?」
ヒロキ:
「うん。
アベを止めたいとか、この世界を守りたいとかじゃない。
そんなの求めてないのは分かってる。
でも……“見たい”と思っただろ?」
虚空に淡い脈動が広がった。
マダ・ア・アル:
「……確かに……
おまえという存在が……この先どう揺れ動くのか……
見届けたいという衝動が、今、芽生えた。」
ヒロキは静かに頷いた。
マダ・ア・アル:
「ゆえに——
われらは干渉する。
それは理性ではない。
倫理でもない。
ただ……
“見たい”という、望みに従うだけだ。」
マダ・ア・アルはヒロキに問いかけた。
「では──我々に、どう助けてほしいのだ?」
ヒロキは一瞬だけ目を閉じた。
前では、論理も道理も通じない相手だ。
だからこそ、あえて“非合理”に踏み込むしかなかった。
そして静かに答えた。
「……取り引きをしよう。
俺の身体の細胞をいくらか差し出す代わりに……
あなたたちの“力”の一部を、俺に分けてほしい。」
熱くも冷たくもない。
ただ重く、ただ確かに——
世界の深淵に触れるような感覚。
「良かろう。。。」
ヒロキは胸に手を当て、深く息をついた。
「ありがとう……。
これで、みんなを守れる。」
マダ・ア・アル:
「勘違いするな。
われらはおまえを救うために力を与えるのではない。
ただ……おまえの“行く末”が、
どれほど不恰好で、どれほど愚かで、
どれほど美しいか……
知りたいだけだ。」
ヒロキは苦笑した。
「それで十分だよ。」
そして彼は踵を返し、
静かに公園を後にした。
迎えるのは、
アレクサンドロスとの最終決戦の日だった。
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