最終決戦への支度
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
夜の底で、アレクサンドロスの軍勢が静かに再編されていた。
廃工場の陰に集まった無数の「兵隊玩具」たちは、
錆びた金属のような眼光を灯し、
主の声をただ待っていた。
**「アベを除けば、アレクサンドロスの“兵士となった玩具”たちが彼に仕える理由は単純だ。
玩具の命は永遠ではなく、たいていは灰色に終わるからである。――子どもに遊ばれるためだけに作られ、飽きられれば棚にしまわれ、錆びつき、埃をかぶり、ゆっくりと死んでいく。
玩具は“かつての自分”を構成していたものがひとつ残らず失われた時、死ぬのだ。
アレクサンドロスは唯一の代替案を提示する。
彼はただ一人、玩具を“使命を持つ存在”として扱い、
彼らに戦い、動き、生き抜くための激しさを与え、
『戦い続けるかぎり、忘却の棚へ堕ちることはない』と約束した。
アレクサンドロスは強制しない。
玩具たちが彼についていくのは、彼が“自分たちが見た中で最も生きている存在”だからだ。
戦争は、玩具にとって人間の世界では得られないものを与える。
玩具にとって、
戦争=動き
戦争=正体
戦争=意味
戦争=“見られる”という機会
戦っているかぎり、誰にも捨てられない。
そしてアレクサンドロスは、その痛みを理解している。
彼自身もまた恐れている。
形を失うこと、
意味を失うこと、
忘れられること、
無意味な存在へと沈んでいくことを。
だからこそ、そこには悲劇的な対称性がある。
前世でも、今でもアレクサンドロスは、戦争によって“無意味さと弱さ”から逃れようとし、玩具たちは、戦争によって“時代遅れとして朽ちていく運命”から逃れようとする。
この同盟は、共有された恐怖の上に成立している。
よってアレクサンドロスは、単なる独裁者ではない。
彼は“玩具たちの牧者”である。
玩具たちが彼を崇めるのは、思想のためではない。
彼が――
箱にも、地下室にも、ゴミ捨て場にも落ちることのない未来を保証し、
短くとも、決して灰色ではない生を与える存在だからだ。」**
その中心に立つアレクサンドロスは、
まるで闇そのものがメカロボットの形を取ったような存在だった。
「……戦だ。」
低い声が闇に落ちる。
「沈黙の時は終わった。
平和など、私には毒でしかない。」
その横でアベが笑っていた。
薄暗い場所でもはっきりと分かる、歪んだ笑み。
「良いですねえ、王よ。もっと…もっと混沌をください。」
アレクサンドロスはアベを横目で見る。
その瞳に宿るのは、不信と興味が入り混じった光。
「……お前の忠誠は、いつまで続く?」
「忠誠?」
アベは喉の奥で笑い、肩をすくめた。
「私が従うのは常に、“面白さ”だけですよ。
王よ、あなたは実に愉快だ。
恐怖に突き動かされ、永遠に戦い続ける。
そんな人間、他にいません。」
アレクサンドロスはその言葉にわずかに反応したが、
怒りも否定も見せず、ただそれを思った。
「……私にとって戦とは、麻酔だ。
己のちっぽけさに押し潰されぬための、唯一の薬だ。」
一瞬、風が止まる。
アベはアレクサンドロスの目を見つめていた。「やはり……あなたは面白い。」
「私は、お前のために戦っているわけではない。」
「ええ、私もあなたのために戦っているわけではありません。」
そしてアベは漆黒の指先で地面を触れると、
大地が脈を打つように震え、
兵隊玩具たちの影が膨れ上がった。
「強化しておきました。」
「……ほう。」
これが、次の戦でヒロキを襲う軍勢。
アレクサンドロスは空を見上げながら呟く。
「ナターシャ……。
お前が再び私の前に立つのか。
この世界で、決着をつける。」
一方その頃、ヒロキの家
薄明の光が差し込む小さな部屋で、
四人の人形たちが静かに集まっていた。
アレクシスは眉間に皺を寄せ、
天井を睨みながら言った。
「……向こうも動いてる。あの空気、嫌でも分かるよ。」
スカイラは膝の上で短刀をくるりと回し、
目を閉じて息を整える。
「来るなら、受けて立つだけだ。」
ニアは拳を握りしめ、不安と勇気を行き来するような顔で言った。
「うちら……勝てるやろか。」
その問いに答えたのはナターシャだった。
炎のような瞳は夜の静けさを裂くように強く光っていた。
「勝てるかどうかではない。
私たちは、選んだ物語を歩むのだ。」
三人が一斉にナターシャを見る。
ナターシャは続けた。
「私たちは“作られた存在”かもしれない。
だが、どんな過去を背負うかは自分で選べる。
アレクシスも、スカイラも、ニアも……。
お前たちは“与えられた設定”ではなく、“選んだ物語”で生きている。
それが私たちの自由だ。」
アレクシスはニッと笑った。
「そういうこと。ウチらは“自分の話”を生きてるだけや。」
スカイラもうなずく。
「運命は、掴んだ手の形に変わる。」
ニアは胸に手を当て、顔を上げた。
「……ウチらは“人形”やない。
『選んだ自分』なんやな。」
ナターシャは四人を見渡し、静かに締めくくる。
「だからこそ、守らねばならない。
ヒロキは、私たちに世界の温かさを教えてくれた。
私たちの物語は、ここで終わらせない。」
そして、ふと視線が窓の外へ向く。
「アレクサンドロス……
必ず来る。
あの男は、戦の匂いを嗅ぎつければ必ず来る。」
部屋の空気が張り詰める。
だがその緊張の奥で、
確かな覚悟が芽生えていた。
ヒロキと四人の人形たち。
そしてナターシャとアレクサンドロス。
物語は、最終決戦へ向けて静かに動き出していた。
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