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勇者は世界に関して反省する

これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。

ヒロキと四人の人形たちとの暮らしは、驚くほど穏やかだった。


朝、ヒロキが眠い目をこすりながらキッチンに立つと、

アレクシスは窓から差し込む光を浴びて体を伸ばし、

スカイラは畳の上で静かに刀の手入れをしている。

ニアはコーヒーの香りに鼻をひくつかせ、

ただひとり、ナターシャだけは薄い眉を寄せ、

まるで何かの足音を聞き取ろうとするかのように

窓の外をじっと見つめていた。


「……アレクサンドロスが、この世界に来ていないとは限らない。」


彼女は何度もそう呟いた。

その声音は、かつて彼女が死闘の末に滅ぼしきれなかった巨影を

再び感じ取っているかのようだった。


それでも、月日は静かに流れていく。


ヒロキはオンライン仕事を終わると、

小さな存在たちが家を照らす姿に胸を撫で下ろした。

そのうち彼の中で、

これまで知らなかった感情が芽生え始めた。


――小さいものは、弱いものではない。

  小さいものは、息ができる場所だ。


戦後の日本。

力を求め、成長を求め、

国も会社も「もっと、もっと」と叫び続けた。

成果のためなら人をすり潰しても構わないという価値観は、

ヒロキのオンライン働く職場にも深く根を張っていた。


画面の向こうから降り注ぐ指示。

数字。

締め切り。

怒号じみたチャット通知。


ヒロキにとって世界は、

巨大で、冷たく、

逃げ場のない檻のようだった。


――まるで四方を板で塞がれた箱の中で、

  必死に息を吸おうとする鼠の気分だった。


けれどあの日、

深夜の残業の果てに、

自分を見つめてしゃべり出した四人の人形たちと出会った瞬間、

ヒロキの世界は音を立てて割れた。


小さな手。

小さな声。

人形でありながら、血肉よりも温かな意思。


その存在は、

鼠だったヒロキに、

「ここに穴があるよ」と示してくれたかのようだった。


気づけば、ヒロキは思っていた。


――小さくて、儚くて、幻想的なものは……

  どうしてこんなにも心を楽にしてくれるのだろう。


国が求めた力、

社会が求めた成果。

そこから生まれるのは疲弊だけで、

幸福ではなかった。


だが、

自分の部屋で過ごす彼女たちとの時間は、

どんな大国の野望よりも豊かで、

どんな出世よりも心に染みた。


夜。

ヒロキが布団に入ると、

四人もそれぞれ静かに横になる。

ただしナターシャだけは、まだ目を閉じられない。


彼女は窓辺で闇を見つめたまま、

低く呟いた。


「……アレクサンドロス。

 お前が来る前に……

 この小さな家の、小さな幸せくらい……

 私が守ってみせる。」


その声は、

闇の中でわずかに震えていた。


ヒロキは気づいていなかった。

この静かな日々が、

いずれ嵐の前触れであることを。


しかし今はまだ、

小さな家に灯る光だけが、

確かな真実だった。

このエピソードを楽しんでいただけたでしょうか。次のエピソードもすぐにアップロードします。

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