第二の戦い
これはこの物語の最新エピソードです。皆さんに楽しんでいただければ幸いです。
――それから、数週間が過ぎた。
ヒロキの家にはまだ、あの日の傷跡が残っている。
黒く焦げた床、砕けた壁、そして夜になるとどこかから漂う鉄の匂い。
だが彼は、以前のように怯えてはいなかった。
ナターシャたちがいる。
彼女たちと過ごす日々が、世界にわずかながら光を落としていた。
その夜。
唐突に、静寂が破れた。
窓の外――影がいくつも跳ねた。
玩具の兵士たちが歪んだ音を立てながら、薄闇の中から姿を現す。
そして、その先頭に立つ珍しい姿を持つおもちゃ。
「……やあ、小僧。」
アベだった。
微笑んでいる。だがそこには温度も感情もなく、ただ“歪んだ愉悦”だけがあった。
ヒロキが息を呑むより早く、ナターシャは前に出た。
その黒い影は、闇を裂く流星のようにアベへと飛び込む。
「――君。。。きっとアレクサンドロスの新しい犬よ。
ここまで来るとは、覚悟はできているんでしょうね。」
アベはくすっと笑った。
「あなたはナターシャさんですね。私の王様があなたについて教えてくれました。あなたの魔力……ぜひ味わいたくてね。」
ふたりは一瞬で距離を詰め、地が揺れた。
ナターシャの魔法陣が閃光を走らせ、アベの手が触れた地面がまるで呼吸するように膨れ上がる。
炎と影が交差する。
刃と呪が擦れ合う。
――一歩も引かない。
アベは軽やかで、まるで風のよう。
ナターシャは重厚で、まるで大地の奥から噴き上がる力の化身。
力と力がぶつかるたび、空気が悲鳴を上げた。
そして同時に家の中では、ヒロキが息を荒げながらおもちゃの兵士たちに向き合っていた。
「くそッ……来るなら来いよ!」
手に握るのは、あの日使ったダイヤモンド強化の電動ノコギリ。
刃が回転し、唸り声のような音を上げる。
スカイラーは障子を蹴り破り、忍者のような動きで兵士の関節を砕き、
アレクシスは家具を盾にして体当たり、
ニアはロープを振り回し、馬術のような勢いで兵士を転ばせる。
ヒロキと三人の人形たちは、ぎりぎりのところで兵士の波を押し返していた。
外では――
ナターシャとアベが、同時に後ろへ飛んだ。
互いの魔力が互いを牽制しあい、どちらも決定打を与えられない。
「ふふ……やっぱり、あなたは面白い。最高だ。」
アベの目が、異様に鮮やかに光る。
「黙りなさい。あなた……“魔術師”ではないわね。」
ナターシャは低く唸った。
「あなたから感じるのは、魔力ではない……もっと原始的で……もっと“別の何か”。」
アベは笑った。
それは風鈴のように軽い音だが、心臓を締め付ける寒さを伴っていた。
「その通りだよ。」
アベと一緒に来たおもちゃの兵隊のほとんどは死んでいました。
その瞬間、兵士たちが一斉に後退した。
アベは指を鳴らし、兵士たちを誘導するように踵を返す。
「小僧。今日はここまで。
ねえ、また遊ぼう?」。
そして逃げた。
ヒロキはアベと彼のおもちゃの兵隊たちを追いかけた。
しかし走りながら、ふと別の“存在”に気づいた。
それは――奇妙な前衛彫刻のような生き物たち。
闇の中に静止し、人ならざる輪郭だけが浮かんでいる。
アベと兵隊がその横を通り過ぎたとき、
ヒロキは息を呑んだ。
彫刻が……アベを見つめている。
そしてアベもまた、まるで旧知の仲であるかのように
その“彫刻”に一瞬だけ視線を返した。
――彫刻ではない。
ヒロキは立ち止まり、かすれた声で問いかけた。
「……聞こえているんだろ?
君は……誰だ。
何者だ……?
――まさか……あいつと、共に動いているのか?」
その“彫像”たちは名乗った。
「我らはマダ・ア・アル。――君たちの言葉で言うなら、“異星の者”だ。」
ヒロキは問う。
「お前らと、あいつの関係は何だ?」
マダ・ア・アルは淡々と答えた。
「我らこそ、アベを創り、この世界へ解き放った存在だ。」
ヒロキは怒りを込めて叫んだ。
「じゃあ……お前らは、あいつとグルなんだな?」
マダ・ア・アルは静かに、しかし逃げずに語り始めた。
彼らは――極限まで進化した知性体だった。
だが、どれほど進化を重ねても、
“非合理な衝動”だけは決して消すことができなかった。
理性は、脳の奥底にある非合理を支配できない――
その事実を悟ったとき、彼らは選んだ。
論理では説明できない衝動に、
あえて身を委ねる“時間”を作ることを。
非合理な願望を、あえて一度解き放つことで、
その衝動は一時的に霧散し、
彼らは再び高度な知的生活を維持できるようになる。
それが――
マダ・ア・アルがこの世界にアベを送り込んだ理由だった。
ヒロキは彼らに尋ねた。
「もし……お前たちがあの“怪物”の味方じゃないなら、
なぜここにいる?」
マダ・ア・アルは答えた。
「我らには――“これを観察したい”という
説明不能な衝動があった。それだけだ。」
このエピソードを楽しんでいただけたでしょうか。次のエピソードもすぐにアップロードします。




