タカさん、キングボンビーと戦う
今日は貧乏神が来た。
モンスタークライアントだ。
「4万円台で1LDK、オートロック付き、23区内で南向き、できれば3階以上がいいですね」
そんな神物件あったら、俺が住みてぇよ。
「お客さま、少しご条件を緩和していただかないと…」
そう言った瞬間、貧乏神がニッコリして言う。
「えぇ〜?探しもしてないのに?ちょっと努力が足りないんじゃないの?」
……カチンときた。
「このご予算だと、東京都内では少し難しいかと…」
「そっか〜、じゃあさ、4万円台で住めて、23区内で、新宿まで30分以内で着くとこ」
言われた瞬間、頭に浮かんだのは「ボロしかねぇぞ」の一言だった。
「……かしこまりました。それではご案内します」
そうして、俺と貧乏神の珍道中が始まった。
新宿から30分圏内のボロアパートをいくつも見て回る。
「汚い」
「坂が無理」
「礼金高すぎ」
どんどん増えていく条件。
こういう客、結局契約しないのわかってるんだけど…断れないのがつらい。
こういう日に限って、帰り道は大渋滞。
ラジオをつければ巨人が負けてる。
もう、ほんといいことなし。
さんざん振り回された挙句、最後はお決まりの
「考えておきます〜」
って去っていった。
絶対、何にも考えてねーだろ!!
……とはいえ、今日は救いがある。
夜は、16ビットの会。
この時間があるから、まだ平常心でいられる。
今日は朝まで飲むって決めてんだ。
夜。インターホンが鳴る。
「おっす、タカさん」
「お疲れ〜」
おなじみの二人がやってきた。
「お、くがっち、それ…まさか例の配達リュック?」
「そう。これで週末副業デビューっすよ」
「マジか、俺も買おうかな」
「何運ぶ気だよw」
そんなたわいもないやりとりで、貧乏神のことはもう半分くらい忘れてた。
やっぱり、ここは俺にとってのセーブポイントだな。
今日も、くがっちの食糧チョイスは抜群だった。
いつもの肉屋の唐揚げ大盛りに、定番のポテチ、そして甘いもの枠のパイの実。
抜かりなし。
さらに今回は――
「お、カップラきた!しかもBIG!」
「いいねぇ〜」
「そしてもちろん、3種セットか」
並ぶは王道三兄弟。ノーマル、カレー、シーフード。
どれも捨てがたい絶妙ラインナップ。
「こりゃもう…」
「勝負でしょ」
「おう、カップラーメン争奪戦、開幕だな」
ソフト棚の前に立ち、今夜の戦いの舞台を選ぶ。
人生ゲームに人生劇場、アクション系にも手を伸ばしそうになったその時――
みやっちが一本を指差す。
「桃鉄とか、どう?」
「いいね!これは朝日コースだわ」
「朝まで一直線って感じだな」
「いや、むしろ朝まで行かなかったこと、ないよね」
三人で笑い合う。すでに夜は、始まりかけていた。
《スーパー桃太郎電鉄DX》
スーパーファミコンで発売された『桃太郎電鉄』シリーズの一本。
日本全国を舞台に、サイコロを振って移動し、物件を買い集めて総資産を競うボードゲーム。
途中で現れるボンビーたちの妨害もスリルの一部。
最大4人で遊べるため、友情と破綻が表裏一体になる名作。
「いざ、日本制覇へ!」
俺がスタートの合図のように、コントローラーを握りしめて叫ぶ。
「日本一の社長に、俺はなる!」
「ワンピかよw」
「いや、不動産王のやつじゃない?」
「え、そんな漫画あったっけ」
三人で笑いながら、列車は北海道から日本全国を走りはじめた。
最初は順調だった。
サイコロの目にも恵まれ、俺は物件を次々に買い漁っていく。
「見ろよ、これ!青森のりんご園と、仙台の牛タン通り。勝ち確定っしょ」
「調子乗ってると落ちるからなぁ…」
「いや、今日の俺はツイてる。ビッグウェーブがきてる!」
しかし――運命のサイコロは、俺を見放した。
「うわっ…マジかよ、キングボンビー!?」
突然のキングボンビー襲来に、部屋の空気がざわつく。
画面には、破壊神のごとき姿のボンビーが現れ、俺の資産をズタズタに削っていく。
「た、タカさん…さっきのビッグウェーブ、消し飛んだね」
「大波どころか、津波だったわ…」
「うわ、カード全部変なのにされたじゃん」
「サミットカード?なんだこれ…うわ、俺らまで巻き添え!?」
「あー、もう!キングボンビー、性格悪っ!」
笑いが止まらなくなるくがっちとみやっち。
一人、地獄に沈んでいく俺。
しかし俺は折れない。
「まだだ…まだ俺のターンは終わってねぇ!」
「出た、闘志だけは最強の男」
中盤も劣勢が続き、資産は一時的に最下位。
でも、俺は腐らなかった。
カードを駆使して少しずつ地盤を整え、貧乏神を他プレイヤーに移し…
徐々に、巻き返していく。
「お、名古屋で独占できた!これで一気に資産増えるぞ!」
「うわ、マジで立て直してきた」
「やっぱ不動産の申し子やな、タカさん」
終盤、逆転のチャンスが訪れる。
サイコロの目は…「6!」
「よっしゃーー!目的地到着!独占ボーナス、いただきましたぁ!」
その瞬間、逆転劇が完成した。
「え、マジでタカさん優勝じゃん…」
「え、これ最後の決算…え?うわ、差つけられてる!」
「…やった。俺、やったよ!」
画面に表示される「優勝 タカさん」の文字。
その横には、何故か満面の笑みで踊っているキングボンビーの姿。
「こいつ、最後に裏切ってきたな…」
「ツンデレかよ」
「たぶん、タカさんの執念にほだされたんだよ」
「…まぁ、俺の熱意は日本列島に届いたってことだな」
缶ビールを掲げる俺。
その姿は、まるで本当に不動産王にでもなったかのようだった。
「さて、優勝者には夜食の選択権がございます!」
くがっちが売り子風にコールすると、三人の前にはカップラーメン三銃士――ノーマル、カレー、シーフード。
俺は腕を組み、湯気の立つ三つのカップをじっと見つめた。
「どれも魅力的…だが……」
空気がピンと張り詰める。
「俺は…カレーでいく!!」
「キター!」「カレーきたー!」
「わかる、タカさんは絶対カレーだと思ってた」
「カレーこそ王者の味よ」
「優勝カレー、おめでとうございます〜」
みやっちはノーマルを手に取る。
「俺はやっぱこれ。なんだかんだでノーマルが一番落ち着く」
「で、俺はシーフードっと」
「わかる、それもまた“らしい”よね」
「はい、三人三様〜」「安定の割れ方だな」
そのままフタを開け、いつものように、まるで季節のように――
静かで、くだらなくて、あたたかな夜が流れていった。
こうして、三人の夜はさらに深まっていった――
そして、例によって気づけば朝だった。
意外だったのは、あの貧乏神――例のモンクラが、まさかの再来店。
「もう二度と来ないだろうな」って思ってたんだ。ていうか、願ってた。
ところが、あっさり現れた。
しかも、彼女連れ。
……おまえ、彼女いたのかよ。
「実はね、同棲することになって。月20万くらいで1LDK、探してもらえる?」
あのキングボンビーが、まさかの幸運を連れてきた。
丁寧に対応してて、ほんとによかったと思う。
貧乏神も、ときには神になる――そんなこと、あるんだな。
もちろん、基本的にはご勘弁願いたいけどな!