第九話 8
アジア人の母子と白人の中年男性、エジプト人の初老の男性という、風変わりでインターナショナルな四人の一行は、訪れた先の人を驚かせ、「何しにうちに来たんだ!?」といつも相手に言わせるはめになっていた。
一番最初に訪れた遺族の家では、「話すことは何もない」と言われ、次の遺族の家でもイブラヒムを見て「あんたら警察は何もしてくれなかった!」と門前払いを食らった。しかし、粘り強く遺族の家を訪ね続け、ついに、ある老人が「遠く日本からやって来たのか。それなら、話をしてやっても良い」と家の中に案内してくれた。
「今でも、悲しみが癒えることはない。私はあの事故で、息子夫婦と孫二人を亡くした」
老人は悲痛な面持ちで語った。
「突然、お訪ねして申し訳ありません。私はあの事故で、妻と子供を亡くした日本人男性の知人です。彼の代わりに、この事故のことについて調べています。私の知人は奇跡的に助かりましたが、妻と子供は船から川に放り出され、それっきり行方が分からないのです。その後、誰かに助けられたとか、遺体が見つかったとか、そういった話は聞いていませんか? 何かご存じでしたら、些細なことでもいいので、是非教えて頂きたいです」
「事故があった当時、二つのフェルッカが近くを並走していたそうなんだ。しかし、急に起きた突風に煽られ、二艘のフェルッカはコントロールを失って衝突したと聞いている。フェルッカは二艘ともバラバラになったんだよ。船がバラバラになったくらいだから、人間の体が無傷でいるはずがない。亡くなった人間は、溺れ死んだというより、体に傷を負ったから死んだ人が多かった。その日本人の母子もきっとそうだったんじゃないかな」
「そうですか……」
「息子夫婦も孫もそうだったんだよ」
「辛いお話をさせてしまって、本当にごめんなさい……」
「いや、いいよ。君のご友人もさぞ辛かっただろう。しかし、凄いね。あの事故で十七人の人間が亡くなってるんだよ。それなのに、たった一人だけ助かっただなんて」
「あばら骨にヒビは入ったそうです。でも、そんな状況の中で助かったのは、やっぱり奇跡としか言いようがないですね」
「そうだね」
「でも、知人は自分も亡くなれば良かった、いや妻と子の代わりに自分が亡くなれば良かったと思っています。亡くなった人は勿論お気の毒ですが、残された人のほうが、苦しみが大きいのかもしれません」
「それはそうかもしれないね。妻は、今も思い出す度に泣いているよ」
「そうですか……」
「それはそうと、君達はケナにも行ったのかい?」
「いいえ」
「ケナにも遺族がいるはずだ。訪ねてみればいい」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」