第九話 2
荘子の家の玄関に立つと、呼び鈴を乱暴に何度も何度も押した。すると、インターフォンのカメラで僕を確認したのか、「うるさいわよ、兄貴! 何の用?」と荘子の声がした。
「いいから、すぐにドアを開けろ!」
「いきなり人んちに来て、なに、その言い方? 私は兄貴の奴隷じゃないんですけど?」
「なんでもいいから開けろ!」
「分かったわよ。ちょっとくらい待ちなさいよ。開けてあげるから」
イライラしながら玄関のドアが開くのを待っていたが、しばらくしてガチャッと解錠する音がして、ドアが開いた途端、アレックスが僕を目がけて飛びついて来た。僕は、「うわあああ」と言いながら、その場に転がった。荘子は「ごめん、ごめん」と言いながら、笑い転げていた。
「だから、さっきから、何の話をしてるのか、全然訳が分からないんですけど?」
リビングに通されて、僕は美豊がいなくなった理由を荘子に聞いていたが、彼女は知らぬ存ぜぬを繰り返すばかりだった。
「ちょっと、もう一回整理をするわよ。四日前までは、美豊ちゃんと隼人君は普通に家にいたのね?」
「ああ」
「今はいないの?」
「うん、忽然と消えた」
「兄貴、あなた、二人に何かしたんじゃないの?」
「するわけないだろう? いなくなる前まで、それはそれは仲良く三人で毎日飯を食べていたんだから」
「じゃあ、どうしていなくなったの?」
「知るか! だから、お前に訊いているんだろ! 家政婦の派遣会社の女の子に訊いたら、美豊は、二週間前、母親とお前に会いに行ったと言ったんだよ!」
「ちょっと、待って! 私、美豊ちゃんに会ってないわよ!」
「嘘を吐け! 白鳥さんに会いに行ったと言ってたぞ!」
「白鳥? ねぇ、それって、私じゃなくて、時雄のことじゃないの?」
「えっ?」
「ちょっと、待ってて。昨日、徹夜で論文を書いてて、まだ寝てるのよ。起こしてくる」
しばらくして、時雄は、パジャマの上にガウンを羽織っただけの格好で、眠い目を擦りながら、リビングに現れた。